Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

岸田首相が派閥解散で描く「楽観シナリオ」の中身

裏金問題の「すり替え」批判で退陣か?
星 浩 : 政治ジャーナリスト
2024年01月26日
自民党派閥の裏金問題は、安倍派の国会議員3人と安倍派などの会計責任者らが立件され、刑事事件としてはひと区切りがついた。安倍派の「5人衆」と呼ばれた幹部たちは不起訴処分となったが、検察審査会での審査が始まりそうだ。
岸田文雄首相は自らが率いてきた派閥、宏池会(岸田派)の解散を打ち出し、政治刷新に向けた指導力を示そうと躍起だ。裏金問題を派閥問題にすり替えようという作戦だ。
しかし、今回の事件の本質は派閥の存在にあるのではなく、安倍派などが政治資金パーティーで集めた資金を裏金として私物化したことだ。自民党の派閥をめぐる騒動はまさに茶番である。1月26日からの通常国会で、野党側は裏金問題の真相解明などを強く求める構えだ。
岸田首相が正面から答弁できなければ、新年度予算案の審議は混乱必至。求心力を欠く岸田首相が退陣に追い込まれる流れは加速する可能性があり、政局は緊迫した状況が続く。
岸田派の元会計責任者も立件された
東京地検特捜部はすでに、安倍派の池田佳隆衆院議員を4000万円超の政治資金不記載容疑で逮捕。同容疑で大野泰正参院議員を在宅起訴、谷川弥一衆院議員を略式起訴した。安倍派の会計責任者、二階派、岸田派の元会計責任者も立件された。
岸田首相は、この元会計責任者の立件を受けて岸田派の解散を表明。安倍派は幹部たちが軒並み、裏金を受け取っていたことが判明。責任を取って閣僚や党役員の辞任に追い込まれた。逮捕、起訴された議員も出て、事実上「流れ解散」に追い込まれた。二階派も解散を決めた。残る麻生派、茂木派は「関係者が立件されたわけではない」として存続する方針で、対応は分かれることになった。
そもそも今回の裏金問題は、安倍派が多額のパーティー券を売り、ノルマを超えた分を「中抜き」したり、派閥から個人に「キックバック」したりして、収支報告書に記載していなかったことが発端だ。二階派、岸田派でも不記載が指摘された。一部の派閥の「違法行為」が摘発されたのであり、派閥の「存在」が問題視されたわけではない。
1月22日に公表された世論調査の岸田内閣支持率を見ると、朝日新聞が23%、読売新聞が24%で、いずれも内閣発足以来最低水準。不支持率は朝日新聞66%、読売新聞61%で、いずれも最高水準だった。
岸田首相の「派閥解散」表明で政権の勢いが回復することを期待していた首相側近たちは落胆している。有権者の多くは首相による議論の「すり替え」を見抜いているようだ。
裏金の使途については詳細に語らず
立件された谷川議員や疑惑を持たれた安倍派幹部の西村康稔前経済産業相、世耕弘成前自民党参院幹事長、萩生田光一前政調会長らが記者会見で裏金問題の経緯などを説明したが、いずれも裏金の使途などについては詳細に語っていない。
第三者機関などによる解明を進めない限り、全体像はやぶの中のままだが、岸田首相は真相解明を棚上げしたまま、派閥の問題に論点を移そうとしている。
ところで、派閥はなぜ存続してきたのか。
憲法は衆院が優先的に首相を選出することを定めており、多数を得た政党の代表が首相に選ばれるのが通例だ。その党では、トップリーダーの座をめぐって多数派工作が繰り広げられる。その際、理念や政策によってできる集団を「派閥」「政策集団」「グループ」と呼ぶかは別として、何らかの集団が結成されるのは避けられない。
問題はその集団がカネを配ったり、閣僚や党役員の人事を要求したりするという点だ。今回の裏金問題は、安倍派を中心にカネと人事を軸に派閥を運営し、増殖させていった点である。
そうした派閥の弊害は自民党の「宿痾」ともいえる問題点であった。田中角栄元首相のロッキード事件、竹下登政権下のリクルート事件、竹下派の金丸信会長の東京佐川急便事件やゼネコン汚職事件……。自民党は1989年には、首相や閣僚らの派閥離脱などを求めた政治改革大綱を定めて、派閥政治の打破をめざした。
派閥離脱を拒んでいた岸田首相
ただ、当初は派閥離脱が守られていたが、徐々に形骸化。岸田氏も外相や政調会長に就いた際に宏池会を離脱しなかった。首相就任時も、さらに2023年1月に菅義偉前首相が雑誌インタビューで、岸田首相に派閥離脱を求めた際も、岸田氏は離脱を拒んでいる。
派閥パーティーの裏金疑惑が発覚した2023年末になって、ようやく宏池会会長を辞任すると表明した。岸田氏の「派閥好き」は自民党内では知られた事実であり、その意味で政治改革大綱違反の張本人なのである。その岸田氏が派閥解散の旗を振っても、自民党内で信頼感が広がらないのは当然である。
岸田首相が自民党に設けた「政治刷新本部」(本部長・岸田首相)は、派閥による「カネと人事に絡む動き」を禁止し、本来の政策集団に徹するなどの中間とりまとめを決めたが、実効性は疑わしい。
1月26日からの通常国会は、首相の施政方針演説に先駆けて、衆参両院の予算委員会で裏金問題の集中審議を行うという異例のスタートとなる。野党側は、この問題の真相解明を進めるために関係者の証人喚問や参考人招致を求める構えだ。派閥解散などの姿勢を見せる岸田首相に対しては「論点のすり替え」という批判を強めるだろう。
政府は2024年度予算案を「最善の案」として提出しているため、予算が成立するまでは追加の経済対策など新たな対策は打ち出せない。このため3月末までは「野党に一方的に攻められる時期」となる。
派閥解散で再選の道が開けてくる?
岸田首相は、派閥解散などを掲げることで政権の勢いを取り戻し、国会審議を乗り切って、衆院解散・総選挙のタイミングをうかがい、選挙を勝ち抜けば9月の自民党総裁選での再選の道が開けてくるという楽観的なシナリオを描いている。
だが、国会は甘くない。野党の追及で岸田首相が立ち往生するときに、自民党内が結束して対応できるかどうか。派閥解散を一方的に打ち出した首相には自民党内でも不信が募っており、岸田氏が「見捨てられる」場面も予想される。
岸田首相の「すり替え作戦」は自民党内の派閥存続派、国民世論、そして国会に見透かされて通じなかった。予算成立と引き換えに首相退陣となれば、自民党内は一気に流動化。ポスト岸田をめぐる政変が動き出すだろう。