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「鼻を覆って」「子ども優先しよう」…379人全員脱出の「奇跡」、声かけ合い動揺抑えた乗客たち


 東京・羽田空港で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した事故は、2日で発生から1か月となった。日航機の乗客乗員379人全員が避難に成功した脱出劇を証言や動画で改めて振り返ると、対応にあたる乗務員を支えた乗客の行動が見えてきた。


■動揺抑える


 1月2日午後5時47分頃。北海道・新千歳発の日航516便は、羽田空港C滑走路上で停止していた海保機と衝突。強い衝撃とともに機体は大きく傾き、窓の外は炎でオレンジ色に染まった。


 「大丈夫です」「落ち着いてください!」。客室乗務員が繰り返し乗客に呼びかけたが、周囲に煙が立ちこめてくると、機内には徐々に混乱が広がっていった。


 「鼻と口を覆って。姿勢を低く!」と乗務員が叫んだものの、聞こえる範囲は限られていた。それを拡散したのは乗客だった。「鼻と口を覆って!」と復唱し、周囲に伝達。「(乗務員の)言う通りにすれば大丈夫」という別の乗客の声も響いた。機内がパニックに陥るのを防ごうと、乗客たちは互いに声をかけ合い、広がり始めた動揺を抑えようとしていた。


 それでも、非常事態に直面し、過呼吸のような症状になる乗客もいた。機体中央付近の左側=図〈1〉=に座っていた埼玉県川口市の会社員(59)は、近くにいた20歳代くらいの女性に「大丈夫だから」と声をかけて励ました。


■「子ども優先」


 前方と後方計3か所の非常口が開放されると、「2人ずつ」「荷物を持たないで」という乗務員の指示に従い、乗客が移動し始めた。収納棚から荷物を取ろうとする人には、周りの人たちが「ダメですよ」「出さないで」と制していた。


 東京都世田谷区の男性会社員(49)は後方中央の座席=図〈2〉=で、小学生の息子と一緒だった。すると息子の右隣にいた男性が、通路に立って人を遮り「子どもを優先して先に行かせよう」と言ってくれた。男性会社員と息子は男性に感謝しながら身をかがめ、非常口へ急いだ。


■手を取って


 脱出用シューターの下には、先に滑り降りた乗客が立ち、子どもや高齢者が起き上がるのに手を貸していた。中央付近右側の座席=図〈3〉=から避難した東京都大田区の弁護士(50)は、「誰もが動揺する状況のなか、率先して役目を果たしてくれた人たちがいた」と振り返った。


 機長が全員の脱出を確認し、衝突から18分後の午後6時5分に機外に出ると、間もなく機内に火が回り、大きな爆発音が響いた。


 日本航空の担当者は「全員が生還できたのは、乗客の皆さんの協力と冷静な行動のおかげです。心から感謝したい」と話した。


■原因究明は長期化か


 国の運輸安全委員会や警視庁は、それぞれ関係者への聴取など事故原因の究明に向けた調査、捜査を本格化させている。


 海保機の男性機長(39)は事故後の聞き取りに、「滑走路への進入許可を得たと思い違いをした」と説明している。


 運輸安全委は、重傷を負った機長が一般病棟に移ったのを機に、1月25日から聞き取りを開始。日航機と海保機のボイスレコーダー(CVR)の解析も進む。


 業務上過失致死傷容疑で捜査している警視庁は、海保機の機長や日航機の乗客らから事情を聞いているほか、約1週間にわたって現場検証を行い、滑走路や両機の損傷状況を調べた。


 日航機は機体前部が損傷していた一方、航空燃料を積んだ両主翼には大きな損傷がなかった。捜査幹部は、衝突時に主翼の航空燃料に引火していれば、さらに被害が拡大していた可能性があったとみている。


 焦点は海保機と管制官、日航機、それぞれの過失の解明になるが、航空事故は専門性が高い。過去の航空機事故などでは運輸安全委の調査報告書が公表された後に、警察が関係者を立件するケースが多く、捜査は長期化が予想される。


■「再発防止徹底、信頼回復図る」…国交相


 斉藤国土交通相は2日午前の閣議後記者会見で、「(同様の)痛ましい事故が二度と発生しないよう再発防止を徹底し、公共交通機関としての航空の信頼回復を図る」と語った。


 国交省は事故1週間後の1月9日に緊急対策を公表。滑走路への誤進入をレーダーで常時監視する担当者を羽田など主要7空港の管制塔に配置した。


 同19日には有識者らによる事故対策検討委員会の初会合を開き、今夏の取りまとめに向け、誤進入を防ぐハード、ソフト両面の改善策の議論を進めている。


 斉藤氏はまた、「ここ1か月、(空港での)接触事故などが多発していると感じている」とも語り、事故対策検討委の議論に加え、国交省としても航空の安全・安心対策のあり方を引き続き検討するとした。


 ◆日航機・海保機衝突事故=旅行客らを乗せた日航機と、能登半島地震の救援物資の輸送のため離陸準備をしていた海保機が衝突。海保機の乗員5人が死亡、機長が重傷を負った。日航機は乗客13人が負傷したが全員が脱出し、海外メディアは「奇跡」と報じた。