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世界初の「アンモニア火力発電」に勝算はあるか

火力の脱炭素を狙うJERA、コスト低減が難題
岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2024年04月04日
実現に向けた課題を検証した。
東京電力と中部電力の合弁会社で、日本最大の火力発電企業JERA(ジェラ)は2024年4月1日、同社の碧南火力発電所(愛知県碧南市)で、水素化合物の一種であるアンモニアを石炭と混ぜて燃やし発電する実証試験(アンモニア混焼率20%)を開始した。
JERAは同試験を成功させた後、使用する石炭の20%をアンモニアに置き換える形での大規模商用運転開始を目指す。実現の時期は2020年代後半を見込む。
アンモニアは、燃焼時に二酸化炭素(CO2)が発生しない水素化合物の一種だ。JERAでは火力発電におけるアンモニアや水素への燃料転換を、洋上風力などの再生可能エネルギー導入とともに「2050年カーボンニュートラル」(脱炭素化)実現の柱に据えている。
JERAが「ゼロエミッション火力」と呼ぶ取り組みの一環である今回の実証試験は、6月まで実施する。2021年7月に始まった国の支援による実証事業の最終段階に当たる。
アンモニア混焼の実証事業は最終段階に
今回の実証事業に際し、JERAとパートナーを組むエンジニアリング大手のIHIはアンモニアを効率的に燃焼するために必要なバーナーを開発。JERAでは碧南火力発電所4号機で全48本のバーナーを改造し、併せてアンモニアを貯蔵するタンクや気化器、配管などの設置工事を発電所敷地内で進めてきた。
そして一連の工事が完成し、態勢が整ったことで、JERAは実証試験を開始した。実証試験では、アンモニア混焼によるボイラーの燃焼状況や周辺機器への影響、窒素酸化物(NOX)排出の状況など、主に技術的課題を検証する。
試験開始に先立つ3月13日、JERAはマスメディアに関連設備などを公開した。説明に当たったJERA碧南火力発電所の谷川勝哉所長によれば、「発電用燃料の20%をアンモニアに転換したうえでの大型石炭火力発電所実機での商用運転は世界初となる。今回はそのための最終段階となる実証試験」という位置づけだ。
同席したIHIの高野伸一・カーボンソリューションSBU副SBU長は「今回、開発した技術を、国内外の火力発電設備の脱炭素化推進の第一歩にしたい」と意気込みを見せた。
発電用燃料としてのアンモニアへの政府や電力業界の期待は大きい。
政府は2024年2月13日、「水素社会推進法案」や「CCS(CO2の回収・貯留)事業法案」を閣議決定し、今国会での成立を目指している。2023年に先行して成立させた、カーボンプライシング導入や原子力発電の推進などを定めた法律とともに、日本版の脱炭素化戦略である「グリーントランスフォーメーション」(GX)を推進。アンモニア火力発電の実現は、その中心となっている。
水素社会推進法案では、「ファーストムーバー」と呼ばれる先行的な事業に関して、従来方式の事業とのコスト差をカバーするとともに、商業化のための施設建設費も補助する。
政府によれば、コスト差のカバー分だけでも支援策の総額は供給開始から15年間に3兆円規模を見込む。今後、JERAのアンモニア火力発電プロジェクトは政府のファーストムーバー支援の対象になる可能性が高いと見られる。
アンモニア混焼率拡大の課題
脱炭素関連のエネルギー源の中で、アンモニアが注目されていることには理由がある。20%程度の混焼であれば、ボイラーなど石炭火力発電所の既存設備の多くを活用できるため、設備投資費用が少なくて済む。しかし、20%程度の混焼率ではCO2排出削減への寄与は大きくない。
そこでJERAでは石炭への20%混焼を成功させた後、2030年代に50%混焼の本格実施を目指している。混焼率50%が実現すれば、CO2排出量を天然ガス火力発電所並みに減らすことができる。もちろん、その場合のアンモニアは製造段階からCO2排出ゼロのものでなければならない。
越えるべきハードルは少なくない。「50%混焼を、従来のボイラーを改造せずに実現できるかはまだわからない。NOX生成量低減という課題もある」と谷川所長は言う。「さらに100%アンモニア専焼となるとそれに見合ったボイラーの開発が必要。今の設備をスクラップするタイミングでの投資となるだろう」(同氏)。
コスト低減も大きな課題だ。
アンモニアは水素を原料としている。水素自体は、水の電気分解または高温高圧下での天然ガスの改質などによって製造する。
脱炭素燃料である「グリーン水素」の製造では、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の電力が用いられる。グリーン水素製造を商業ベースに乗せるためには、再エネ電力のコストが現在よりも大幅に安くなることが不可欠だ。
他方、「ブルー水素」と呼ばれる天然ガスなど化石燃料由来の場合、製造過程で発生したCO2を分離し地中に貯留するCCSとの組み合わせが必須になる。しかしCCS事業を実施するうえでの適地がどれだけ見つかるかは未知数だ。
そして、グリーン水素、ブルー水素はいずれもコスト面でのハードルが高い。当分の間は再エネのコストが比較的安い海外で水素を製造し、アンモニアに転換したうえで、大型船で日本に運ぶ必要がある。
マイナス253度以下に冷却しなければ液化しない水素と比べ、マイナス33度で液化するアンモニアは輸送が容易だという利点はある。すでに肥料用製造などでの専用船による輸送実績も豊富だ。他方、毒性が強いため、安全面での取り扱いを万全にする必要がある。
JERAの碧南火力発電所では、「アンモニアの漏洩を防ぐ対策を徹底するとともに、万が一漏洩した場合の拡大防止に力を注いでいる」と前出の谷川所長は話す。発電所内のあちこちに風向を示す吹き流しやガス検知機を設置。タンクの周りには「防液堤」と呼ばれる囲いを設置し、漏れた場合には水で薄めるといった対策を講じている。
LNG導入時の成功体験の再現を狙う
政府やJERAは、発電用燃料の実用化を通じて膨大な需要を作り出し、それを足がかりにして世界規模でのサプライチェーン構築を目指す。これは、かつて液化天然ガス(LNG)での成功体験の再現を狙ったものだ。
そのためJERAはノルウェーのYaraインターナショナルやアメリカのCFインダストリーズ、エクソンモービルとの間で燃料アンモニア導入検討のための覚え書きや契約を締結している。なお、製造設備などに関しての最終的な投資決定はこれからだ。
水素やアンモニアについて欧米諸国は、鉄鋼や化学、国際海運など、再エネを主軸とした電力でエネルギーや原料を賄うことが難しい分野での使用を主に見込んでいる。そうした分野だけでなく、発電部門での実用化にも重心を置いているのが日本のGX戦略の特徴だ。
これは再エネや原子力発電だけでは国内の電力需要のすべてを賄うことは困難だという考え方によるもので、日本独自の「ゼロエミッション火力」を電力部門の脱炭素化の柱に据えようとしている。しかし、原料の水素やアンモニアを海外に依存し続けることになると、エネルギー自給率向上には寄与しない。
何にもましての難題は、ゼロエミッション火力を果たして適切なコストで実現できるのかどうかだ。その実現は未知数であり、うまくいかなければ軌道修正が必要になる。環境団体などは石炭火力発電の延命策に過ぎず、「グリーンウォッシュ」(まやかしの脱炭素化)だと批判する。
JERAの高橋賢司・脱炭素推進室長は、「アンモニアや水素は導入時こそコストがかかるが、2050年カーボンニュートラルに向けて相当量の水素の需要が生まれる。それに応じてコストをしっかり下げていく」と語る。
JERAが進めるアンモニア火力発電は本当に実現できるのか。その成否は、日本のみならず世界の脱炭素化の行方を左右することになるかもしれない。