Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

2つの条例改正に見える中国の不穏な動き

(福島 香織:ジャーナリスト)


 新年早々、中国共産党に関して気になる条例がいくつか修正された。1つは「中国共産党統一戦線工作条例」(統戦条例)、もう1つは「中国共産党党員権利保障条例」だ。これらの条例の修正は何を意味するのだろう。よくよく読んでみると、薄ら寒いものを感じないだろうか。


台湾統一に向けた動きを想定か
「統戦条例」は2015年5月に「試行」という形で実施されていたが、今回「試行」という言葉を取って本格的な施行となった。


 中国共産党の統一戦線部とは在外華人、在外党員が祖国統一のために力を合わせる作戦、戦略を指揮する部署であり、その目標は具体的には台湾統一や釣魚島(尖閣諸島の魚釣島の中国名)の占領などだ。在外華人工作を指揮して、中国共産党の世界覇権を実現するための世論誘導や大プロパガンダ工作を展開する任務も含まれている。


 5年8カ月たった今、思い出したようにこの条例の「試行」の2文字を外し、内容を更新したのは、おそらくは対台湾および在外統一戦線工作任務上の必要性に迫られたからだろう。


 つまり、台湾統一に向けた動きを中国が本格的に想定して準備しているということではないだろうか。


 対台湾統戦任務について、旧条例ではこうあった。


「中央の対台湾工作大政治方針の執行を貫徹し、“1つの中国”原則を堅持し、台湾独立分裂活動に反対し、台湾同胞と広汎に団結し、両岸関係の平和発展の政治、経済、文化、社会基礎をしっかりと深め、中華民族の偉大なる復興を実現する中で祖国統一の大業のプロセスを進める」


 修正された条例での台湾統戦任務については、こうなった。


「党中央の台湾工作大政治方針の執行を貫徹し、“1つの中国原則”を堅持し、在外国内外台湾同胞と広汎に団結し、壮大な台湾愛国統一パワーを発展させ、台湾独立分裂活動に反対し、祖国平和統一プロセスを絶えず推進し、中華民族の偉大なる復興の実現の心を同じくする」


 修正のポイントは、台湾を含む在外華僑への呼びかけとなっており、「台湾愛国統一パワー」という言葉や、「祖国平和統一プロセスを絶えず推進する」という文言が加わっていること。そして「両岸関係の平和発展のための政治、経済、文化、社会基礎をしっかり深める」という言葉が削られたことだ。これは、「現状維持」を前提として、両岸関係を深化させることが基本だった中台関係をドラスティックに変えていく意思が込められているのではないかと想像される。しかも、その任務は中国人と台湾人だけが負うものでなく、世界各国に散らばる華僑・華人も動員されるということだろう。


華僑も強く求められる党への帰属意識
 また、海外での「統戦任務」については、旧条例では「華僑の心を結集し、華僑の知恵を寄せ合って、華僑パワーを発揮し、華僑利益を擁護し、華僑を導き、帰国華僑と華僑眷属が祖国の現代化と平和統一大事業に力を合わせて、世界の独立反対・統一促進運動を推進し、中華の優秀な文化を伝承、発揚し、中国人民と世界各国人民との友誼を推進する」とあったが、新条例では次のようになった。


「思想政治の指導を強化し、華僑と出国留学生人員らに、祖国に対する熱愛と中国共産党と中国の特色ある社会主義への理解、認識の同一化を増進させる。中華の優秀な文化を伝承、発揚し、中外文化交流を促進する。華僑による我が国の改革開放と社会主義現代化建設の参与を励まし、民族の復興の偉業に溶け込ませる。台湾独立派など分裂勢力を抑制し、国家の確診利益を擁護する。中国と外国の友好の懸け橋・紐帯の役割を発揮し、良好な国際環境を作り出す」


 このように新条例では、在外華人、留学生らの政治思想指導の強化、中国共産党や中国の特色ある社会主義への理解をアイデンティティとさせることを求める文言が加わっている。


 同時に「華僑利益の擁護」などの言葉が削られた。つまり、海外にいても、国籍が何であっても、華人は中国共産党や中国式社会主義への帰属意識を求められ、それが華僑個人の利益よりも優先されるべきものとして呼びかけられるわけだ。


 さらに新条例では、「新たな社会階層人士の統一戦線工作」「海外統一戦争工作と華僑任務工作」といった新しい章が設けられている。


習近平の党員に対する統制、管理を強化
 もう1つ気になる条例は、「党員権利保障条例」だ。


 この条例では中国共産党員の13項目の権利の保障が強調されている。だが、党員の権利保障は建前であって、その本質は9000万人の党員に対する統制強化と見るべきだろう。


 この条例は2004年に5章38条で発布されたが、今回16年ぶりに更新されて5章52条に内容が増えた。


 党として強く宣伝している更新部分は、第2章に書き込まれた党員の13項目権利の細分化だろう。その権利とは、「党内の知る権利」「教育研修を受ける権利」「討論に参加する権利」「提案・提唱権監督権」「罷免要求提出権利」「評決権」「選挙権」「被選挙権」「弁論申請権」「異なる意見の提出権利」「請求権」「提訴権」「控告権」だ。


 だが、これらの党員の権利は旧条例でも認められており、決して新しい内容ではない。そもそも条例に記されている権利とはいえ、実際には党員が「異なる意見の提出権利」や「党内の知る権利」などを行使できているとは言い難い。


 それよりも気になるのが、旧条例から削除された部分だ。


 米国に亡命した元共産党中央党校教授・蔡霞氏の「ラジオ・フリー・アジア」(米国の政府系メディア)での分析によると、2004年の条例の第1章総則にあった「民主集中制を堅持する原則」「党員権利の正常な行使が保障され侵犯を受けない」といった文言が削除され、第2条に「マルクス・レーニン主義、毛沢東主義、鄧小平理論、3つの代表重要思想、科学的発展観、習近平の新時代中国社会主義思想による指導を堅持し、さらに“4つの意識”を増強し、“4つの自信”をしっかりし、“2つの擁護”を行う」と書き加えられたことが一番のポイントだという。


 付け加えられた部分のなかで、マルクス・レーニン主義から科学的発展観までの下りは建前の飾りにすぎない。本音は、後半の「習近平の新時代中国社会主義思想」と「4つの意識」「4つの自信」「2つの擁護」を書き入れたところだ、という。


「4つの意識」とは、習近平が2016年に打ち出して党員に求めた「政治意識」「大局意識」「核心意識」「看斉意識」である。看斉というのは訳出が難しいが、「見習え」「考えを一致させよ」というニュアンスだ。誰に見習い、誰と考えを一致させるのかと言えば、「習近平に見習え」「習近平の考えと己の考えを一致させよ」ということである。「4つの自信」は、従来あった「3つの自信」(中国の特色ある社会主義の道、理論、制度への自信)に習近平が「文化の自信」を加えて打ち出したスローガンだ。「2つの擁護」は、「習近平総書記の核心としての地位を断固として擁護すること」「党中央の権威と集中統一指導を断固として擁護すること」を指す。


 つまりこの条例は、あえて明記してはいないが、習近平を絶対的で唯一の党の核心として服従を誓え、と全党員9000万人に要求する内容が強調されているのだ。


 蔡霞氏は「共産党は9000万人のキョンシー(ゾンビ)の党となった。彼らは党の奴隷だ」と厳しい表現で批判している。旧条例の第1条にあった民主集中制の原則や、党員の正常な権利行使保障が削られて、習近平の忠誠への部分が書き加えられているのだから、彼女の分析と批判は私も正しいと思う。


 これまでわずかにあった党内民主発展の芽は完全につみ取られ、習近平個人の党員に対する統制、管理強化が打ち出された、という解釈でいいだろう。


 さらに第1章第4条には「党員は党の観念と主体意識を強化すべきである」として、党員に「党組織に真実の話、実質的な話、本音の話を語れ」と奨励している。つまり、面従腹背は許さない、ということである。ただし、真実の話をして、本音を語って習近平の怒りを買った任志強は今は無期懲役で服役中だ。


 また新条例には新しい表現がいくつかあり、「悔改」の概念が強調されている。観察期間に「悔改」の態度を見せたら、一定の時間を経て党員の権利を回復させる、という。また「スムーズな監督管理の方法」のため「党員が闘争精神を発揮することを支持、奨励する」という表現もある。「悔改」はおそらく、文革時代の自己批判のようなものではないか。監督管理のための「闘争精神の発揮」とは文革時代の批闘(吊し上げ)のようなものではないか。つまり、言葉によるリンチだ。新条例は、文革式の自己批判、批闘による党内迫害を合法化する内容になっているのではないだろうか。


大粛清と大権力闘争の予感
 鄧小平が基礎をつくった毛沢東没後の共産党体制は集団指導体制であり、それは文革のような人民を動員した恐ろしい権力闘争を防ぐための知恵だった。習近平が、その集団指導体制を解体して毛沢東のように個人独裁体制の確立を狙っていることは周知の事実だ。


 習近平独裁が成立するか否かは、人民解放軍を含めた党員の忠誠を獲得できるか、そして共産党の「秘密の力」と呼ばれている海外華人および「地下党員」をコントロールできるか、が大きな鍵となる。党員を支配し、海外華人・在外地下党員をコントロールする力は、鄧小平の作った集団指導体制による権力禅譲によって受け継がれてきており、目下、習近平政権として掌握しているとされる。だが、もし習近平が本気で政治局による集団指導体制の解体に動くようなことがあれば、果たして9000万人党員と在外華人・地下党員たちは習近平に従順でいられるか。習近平政権は、そうした従順でいられない人間を徹底的にパージしていくであろう。大粛清時代が始まるということだ。


 すでに数年前から文革の再来をささやく人もいるのだが、中国共産党の在り方が根本的に揺さぶられるような大権力闘争が、党員や在外華人を巻き込んだ政治運動や大衆運動を引き起こしながら始まる予感がしてならない。ひょっとすると香港で起きていることの背景には、そうした党内権力闘争の要素もあるやもしれない。


 さらにいえば、今後それは、台湾統一という中共政権の悲願が絡んで動くかもしれない。台湾人や中国人や華人・華僑の友人を持つ人はきっと心配でならないだろう。そして中国や台湾と政治的経済的に密接な日本も当然、その嵐に巻き込まれる距離にあることを忘れてはならない。