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「小池都知事は責任を果たせ!」命の選別が迫る医療現場…杉並区長が“無策すぎる都政”を告発

葉上 太郎 2021/01/11 07:10
 新型コロナウイルス感染者の増加が止まらない。


「このままでは、重症者に取り付ける人工呼吸器やエクモ(人工心肺装置)が足りなくなる」と医療現場から悲鳴が上がり始めている。手慣れた人材の不足も目立つ。そうなれば、助かる人も助けられなくなるだろう。もしくは、生還の見込みがなさそうな人から装置を外して、少しでも見込みのある人に装着しなければならなくなる。


 だが、そうした「命の選別」については、危機が目前に迫っているにもかかわらず、政府や東京都は指針やガイドラインを示していない。病院や医師がなし崩し的に、それぞれの現場で「決断」を迫られる事態になりかねないのだ。


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 これでいいのか。


「生還できた人と、できなかった人の差は何なのか。国や都は早急に情報を公開して国民的・都民的な議論を行い、トリアージ(治療優先度の順位付け)のガイドラインをつくるべきだ。命の選別という重責を医療現場だけに押しつけられない」。このところ日々の新規感染者数が100人程度にのぼっている東京都杉並区の田中良区長が1月8日、小池百合子知事に要望書を提出した。


 その真意を田中区長に聞く。


オーバーシュートの段階に入った
――東京都内では1月に入ってから1日の新規感染者が2000人を超える日が続きました。杉並区の状況はいかがですか。


田中良・杉並区長(以下、田中) 日々の新規感染者数は、12月中盤までは多くても20~30人程度でした。それが年末年始に5人、10人と増えて、あっという間に100人になりました。オーバーシュート(感染者の爆発的な急増)の段階に入ったと思います。


 第1波の感染拡大時、政府の諮問委員会の尾身茂会長(当時は専門家会議の副座長)が「オーバーシュートの前に医療体制がひっ迫する。医療崩壊といわれる状況はオーバーシュートが起こる前に起きる」とおっしゃっていましたが、まさにその通りになって医療が追いつかなくなっています。杉並区では病院やホテルに収容できない「自宅療養者」が150人を超え、200人を超えるのは時間の問題となっています。


――病院の窮状はいかがですか。


重症者を指定病院に転院させられない
田中 新型コロナは感染が確認されると、軽症・中等症の患者は各地域の協力病院、人工呼吸器を取り付けなければならないような重症者は感染症の指定病院に入院します。杉並区内には指定病院がなく、4つの協力病院が軽症者と中等症者を受け入れていますが、入院中に重症化しても、指定病院が既にいっぱいになっていて、転院できなくなっています。このため、4病院では人工呼吸器を装着し、重症者の治療に当たらざるを得なくなっています。


――そうなると、どんな問題が発生しますか。


田中 よく言われているように、人工呼吸器を付けた患者には医療スタッフやエネルギーを注ぎ込まなければなりません。区内で感染者を受け入れている院長は「人工呼吸器を装着したコロナ患者が1人なら病院は持ちこたえられる。でも、2人になったらもう他の傷病の患者は受け入れられなくなってしまう」と切々と訴えていました。


――こうした状況は予見できなかったのでしょうか。


都庁はこの状況を1カ月前から分かっていたはず
田中 都庁は1カ月前から分かっていたようです。東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議が「年末年始に日々の新規感染者数が1000人を超える。重症者は2倍になる」という情報を、都知事サイドに示していたはずです。感染者がじわじわ増えるのではなく、いきなり突き抜けるようにして増えるという予測です。その情報については、私も間接的に耳にしました。


――都民には知らされませんでした。


田中 小池百合子知事が熱心だったのは、政府との水面下の駆け引きでした。隣接3県の知事を抱き込んで国と対峙するとか、そのようなことばかりやっているようにしか見えませんでした。


――結局、感染拡大は「予測」通りになりました。


「命の選別」を現場に押し付けていいのか
田中 その結果、指定病院から重症者があふれ出しています。平時には、どんな患者にも全力を挙げるのが「医の倫理」でしょう。ところが、それができなくなってしまったらどうするか。


 人工呼吸器やエクモといった医療資源、これを扱う医療従事者には限りがあります。患者がどっと押し寄せると足りなくなる。その場合には、治癒が期待できる人を優先すべきだ、というのがトリアージの考え方です。「命の選別」に当たるとして反対する人もいます。しかし、きれいごとでは済まない現実が目前に迫っています。戦場や災害現場と同じ状況に陥りつつあるのです。


 そうした時に「この人から人工呼吸器を外して、あの人に付けないといけない」という判断を現場の医者に押しつけていいのか。そんなことを強いていては、医者が精神的に参ってしまい、医療崩壊の前に「医療人材の崩壊」が起きてしまいます。


――そもそも、感染症対策は都道府県知事が中心になって行うことになっています。


田中 しかも、都内で最も重要な指定病院は「都立」です。都立病院の責任者は都知事なのだから、組織のトップとしても責任を果たすべきなのです。「命の選別」の責任は、現場の医者ではなく、都知事として背負わなければなりません。その危機意識が感じられないのが残念です。


なぜ今まで議論しなかったのか
――東京都内では1月10日午後8時時点の重症者が128人になりました。


田中 感染者数が最も多い東京都だからこそ、ガイドラインをつくる必要があります。医療の質と量は全国均一ではありません。このためルールもその土地にあった形にすべきです。ただし、症例の多い東京都には議論を先導していく役割があると感じています。


――こうした論議は「波」が押し寄せる前に行う時間があったのではないですか。


田中 その通りです。「命」の問題だけに、医療関係者だけでなく、哲学者なども加わって検討すべきでした。でも、もはやそんなことをやっている余裕はありません。


 せめて、日々の感染者が1000人を超えると予想できた1カ月前からでも議論をしておけばよかったのに、何をしていたのかと憤りを感じます。


東京都は重症者の情報を公開せよ
――具体的にはどうすればいいですか。


田中 まず、情報公開が必要です。東京都は死者数こそ毎日発表しているものの、重症者がどうなったかの発表はしていません。膨大な情報は蓄積されたままになっています。


 例えばの話ですが、年齢を5歳刻みなどで、生還率や死亡率を示します。人工呼吸器などを装着して外せるまでの日数も重要なデータではないでしょうか。基礎疾患との関係もあります。これらデータや症例を、一般に分かりやすく公開するのです。もちろん個人が特定できないようにするのが条件です。


 そうすると、人工呼吸器などを付けても延命にしかならないようなケースが見えてくるかもしれません。逆に救える患者の傾向が分かってくるようなことがあればと期待します。


 これらをたたき台にして、都民の皆で考える材料にします。そうしたうえで、学会や有識者に相談しながらガイドライン化していくのです。いずれにしても急がなければなりません。


病院や医者が訴訟を起こされる可能性も
――もし、トリアージを行うような事態になれば、患者の家族に心の傷が残りかねませんね。


田中 だからこそ、情報公開して都民的な議論を行う必要があり、そのうえでのガイドラインとするのです。


 あらかじめ説明や合意がなければ、人工呼吸器などを外されて亡くなった患者の遺族から、病院や医者が訴訟を起こされるかもしれません。しかし、入院時にガイドラインに従って「単なる延命にしかならなければ、他の患者のために取り外すこともある」と説明しておけば、医療関係者が殺人者のように言われるのを避けられます。


――こうした情報がこれまで公開されていれば、焦って議論を巻き起こさなくても、都民が認識を深められたのではないですか。


ギリギリの状態にある病院をさらに追い詰めるのか
田中 小池知事は「東京大改革の一丁目一番地は情報公開」としてきましたが、重要なことはあまり情報公開に熱心ではありませんでした。


 私はトリアージ以外でも都民に必要な情報と思います。特に高齢者の場合、どこまで「治療」してほしいか、あらかじめ意思を示しておきたい人がいるかもしれません。そうしたことを考える機会になったはずでした。


――医療現場はこのところさらに厳しい状態に直面していますね。


田中 区内で新型コロナ患者を受け入れている病院長からは「コロナ対応のために、12月だけで3億円の赤字が発生した。それでも他の病院と共にウイルスと闘い続けるので、継続的な支援を」「院内クラスターが発生したのに、1人の離職者も出ず、全職員がコロナ病棟や発熱外来に復帰してくれた」などという声が届いています。


 ギリギリの状態にある病院に「命の選別」まで押しつけて、さらに追い詰めることだけは避けなければならないと考えています。知事には今こそリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。


(葉上 太郎)