Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

伏し目がちな会見で説得力ゼロ、見放される菅首相

(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)


何もかもが遅い
 共同通信が1月9日、10日に行った世論調査によると1都3県の緊急事態宣言について、「遅過ぎた」が79.2%に上っている。政府のコロナ対応を「評価しない」も68.3%になっている。ほとんどの人が菅政権のコロナ対応に不満を持っているということだ。


 感染者の急増は1都3県だけではない。大阪府、京都府、兵庫県の近畿3府県も政府に緊急事態宣言の発令を要請した。愛知県や栃木県も同様の要請を行っている。感染者が爆発的に増えているからだ。だが菅義偉政権は、いまだにこの要請に応えていない。何をためらっているのか、理解できない。


 1月10日、NHKの日曜討論に出席した菅首相は、関西3府県知事が緊急事態宣言の対象に追加するよう要請していることに対して、「緊迫した状況であることは承知している」と述べた上で、「政府分科会の先生方は、もうしばらく様子を見て、分析したいという方向だったようだ」と述べた。まるで他人事のような答えだ。菅首相は、これまでの数少ない、短時間の記者会見でも、大事なことは同席している分科会の尾身茂会長に丸投げしてきた。


 専門家でないと答えられないような質問ならともかく、緊急事態宣言を発令するかどうかは政治判断の問題でもある。もちろん専門家の意見を踏まえることは大事だが、菅首相の場合、あまりにも自分の判断がなさ過ぎる。


 東京の小池百合子知事や大阪の吉村洋文知事は、すべて自分の言葉で語っている。小池知事は時間制限など設けずに、しっかりと記者の顔を見ながら回答している。2人とも目力を感じる。ところが菅首相は、目を伏せ、目が泳ぐことが多すぎる。これではメッセージ力がないのも当然である。


 だから支持率も下がるのだ。前述の共同通信の調査では、昨年(2020年)12月の調査で12.7%下がったのに続いて、今月も9.0%下がった。その結果、支持率は41.3%なのに対して、不支持率は42.8%となり、不支持率が上回った。


説明責任を果たさないことが常態化している
 菅首相が官房長官時代に、記者会見での対応・回答が「安定している」という評価があったようだ。正直、この評価には驚いた。この当時、ある週刊誌から安倍晋三首相の後継として、菅官房長官をどう評価するか聞かれたことがあった。その際の私の回答は次のようなものだった。


 結論としては、次の首相にまったくふさわしくない。それは官房長官としての記者会見を見れば分かる。菅氏の会見は、国民に何かを分かってもらおうという意思がまったく感じられない。国民への訴える力があまりにも乏しい。的確に情報を国民に知らせようという気もまったくない。後で手を縛られるような情報をできるだけ出さずに、その場をかわせば良い、というものだ。こんな会見しかできない人が首相になってもろくなことはない。


 今思えば、ああいう会見しかできなかったのかも知れない。ただ現在の加藤勝信官房長官も、菅氏と同様にできるだけ話さないようにしているとしか思えない。いつから日本はこんな政治家ばかりになってしまったのか。


 ニュージーランドのアーダーン首相は、新型コロナ問題で連日記者会見を行い、国民に情報を発信してきた。そして見事に新型コロナを押さえ込んだ。ドイツのメルケル首相も心を打つ演説を行ってきた。こういう政治家が日本にはいないのか。情けなくなる。


 緊急事態宣言を出さないのなら、その判断を誰もが納得するように語るのが首相の、政治家の責任である。「政府分科会の先生方は、もうしばらく様子を見て、分析したいという方向だったようだ」、こんなことしか言えないのならテレビになど出てくるなと言いたい。


こんな緊急事態宣言では感染者は減らない
 今回の緊急事態宣言でよく分からないのは、午後8時以降の外出自粛を強く要請するとしていることだ。昼間も不要不急の外出自粛を求めているというが、これは明らかに誤ったメッセージになっている。渋谷にいる若者にあるテレビ局がインタビューをしていたが、「午後8時以降は自粛を求められているので、それまで遊ぼうと思っている」という主旨の回答をしていた。そう受け取って当然である。


 事実、東京や大阪の繁華街の人出は、昨年の緊急事態宣言時に比べて2倍から4倍になっている。不要不急の外出自粛などまったく効いていないのだ。20代、30代の若者の感染者が多くなっているが、若者には外出自粛要請がまったく届いていない。これで感染者が増えるのが当然で、減るわけがない。不要不急の外出自粛を強力に呼びかけるべきである。


 中国、韓国を含む11カ国・地域との間のビジネス関係者らの往来に関しては、継続する方針を決めた。新型コロナ変異種の市中感染が「1例でもあったら(当該国との往来は)即停止する」としているが、果たして十分なチェックができるのか。すでに日本には変異種が入ってもきている。現在の感染者数の急増とこの変異種の関係はまだ解明されていないが、関係がある可能性も存在するということを指摘する専門家もいる。ビジネスも含めて完全に入国禁止措置をとるべきである。


 そもそも今回の緊急事態宣言は、飲食規制を行った北海道や大阪で感染を押さえ込めたということが前提になっている。この前提がすでに崩壊しているのだ。それは大阪の感染者数の急増を見れば分かる。北海道もさほど劇的に減っているわけではない。


 前回の緊急事態宣言は、もっと緊迫感があった。街からは劇的に人が減った。だが今回は飲食店対策が中心である。感染拡大は飲食店だけではない。家庭でも感染が広がっている。日本医師会の釜萢敏(かまやち・さとし)常任理事も「飲食だけを抑えれば、うまくいくわけではないというのが共通認識。1カ月半、2カ月ぐらいの期間をみなければいけないのではないか」と語り、「感染地域をまたいだ人の出入りをどれぐらい抑えられるかがポイントになる」と強調している(1月7日付「産経新聞」)。


 釜萢氏は分科会のメンバーである。その分科会の共通認識が緊急事態宣言に反映されていないということだ。何か聞かれれば分科会に丸投げをしてきたにもかかわらず、都合の良いところだけをつまみ食いしているのが、今回の緊急事態宣言なのである。分科会の共通認識を取り込めば、飲食中心にはならなかったはずだ。県境をまたぐ移動制限も強力に推し進める必要もあるのだ。だがそういうメッセージはまったくなされていない。


 昨年の2月末に、当時の安倍首相が学校一斉休校の方針を打ち出した。これには自治体や医療関係者、自民党内からも「首相の独走」だという批判の声があがった。コロナ民間臨調によれば、ある官邸スタッフはコロナ民間臨調の聞き取りに対して、「同時期に行った一斉休校要請に対する世論の反発と批判の大きさに安倍首相が『かなり参っていた』ことから、さらなる批判を受けるおそれが高い旅行中止措置を総理連絡会議において提案することができなかった」と語っていたという。


 しかし、今から思えばこの一斉休校の方針は、決して悪いものではなかったと思う。これによって社会に緊張感をもたらしたからだ。GoToトラベルやGoToイートは、逆に国民から緊張感を奪ってしまったように思えてならない。もう一度、この時の緊張感を取り戻さないと感染拡大は止められないだろう。近所のスーパーマーケットを見ても、昨年の緊急事態宣言の際には入場制限を行っていたが、大晦日など超密状態でも制限はなかった。入場制限の呼びかけも行った方が良い。


 緩んでいる菅政権は、覚醒して責任を果たせと言いたい。