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安倍総理の志は死なない!!

域内感染「ほぼゼロ」の台湾にみる、正しいコロナ対策

昨年12月22日、約8カ月ぶりに域内感染例が発表された台湾で激震が走った。多くの台湾人が、国内感染ゼロのまま、新型コロナ感染は終息すると信じていたからだ。久しぶりの国内感染に関してすぐに多くのうわさが流れた。域内感染者の足取りなどをSNSにアップするなどの犯人捜し、魔女狩りも起こりかけた。しかし、台湾中央感染症指揮センターの対応とその記者会見の内容は見事だった。台湾の取り組みから、「正しいコロナ対策とは何か」を考察してみたい。(アジア市場開発・富吉国際企業顧問有限公司代表 藤 重太)
行動履歴を隠せば
最大110万円の罰金
 台湾の中央感染症指揮センター(日本の新型コロナウイルス感染症対策本部に相当)は昨年12月22日、海外への渡航歴がない感染者(=国内感染者)が1人確認されたと発表した。域内感染は実に253日ぶりだ。
 感染したのは30代の台湾人女性で、すでに12月20日に感染が確認されていた60代ニュージーランド人男性の濃厚接触者であったことも発表された。
 今回注目されたのは、この台湾人女性の感染経路と感染発見までの経緯だった。台湾では感染者に対して疫学調査が行われ、濃厚接触者の有無や感染が確定するまでの足取りなどが聴取される。
 感染者が感染確定した日から14日前までの足取りをすべて調査し、感染確定者との接触者を「明確な濃厚接触者」「濃厚接触もしくは接触可能者」「公開した同一時刻同一場所にいて症状のある人」と3種類に分類して、隔離措置、経過観察、診察検査を行う。なお、濃厚接触者とは「感染確定者と1~2メートル以内で15分以上接触した人」と明確に定義されている。
 この疫学調査において、接触者や行動履歴を隠匿などした場合は伝染病防治法43条の違反に問われ、また同法67条第1項第3款の規定により6万~30万元の罰金が科せられると規定されている。
 こうした厳しい罰則があるにもかかわらず、前出のニュージーランド人男性は、疫学調査の際、「明確な行動歴は思い出せない」として、台湾人女性の存在を隠蔽(いんぺい)した。
 しかし、台湾の警察がニュージーランド人男性の行動経路を調べたところ、台湾人女性と接点があることが判明。12月21日に無症状であった台湾人女性に事情聴取、検査の結果、陽性反応が出て、この域内感染が迅速に発見されたのだ。
 なお、ニュージーランド人男性は、疫学調査で重大かつ明らかな隠匿行為をしたとして最高額の30万台湾元(約110万円)の過料が科されることが決まった。また、このニュージーランド人男性は民間航空会社で機長の職にあったが、今回の件で解雇された。
感染者の行動履歴に
明確な開示基準
 中央感染症指揮センターは12月22日の会見で、このニュージーランド人男性と台湾人女性が12月8日から11日までに訪れたデパートなど3カ所の店名と滞在時間を公表。同じ時間帯にいた人たちに対し、外出時のマスク着用や公共の場への出入り自粛などの「自主健康管理」を呼び掛けた。また、該当者で何らかの症状が出た場合は、ホットラインに電話するか保健所などに申し出て診察や検査を受けるように注意喚起した。
 今回感染が判明した2人の足取りが3カ所しか発表されなかったことに対し、市民やマスコミからは不安や疑問の声も上がった。だが、台湾当局の発表基準は明確だった。それは2020年4月1日に公布された「指揮センター記者会見の感染確定者個別情報発表に関する原則」で、具体的には下記の通りだ。
<非公開情報は以下3点で、非公開の上適切に防疫措置が取られる>
・プライバシー情報および接触者が特定できる情報(家族や交友関係)
・出入りする人間が特定される情報(学校や職場)
・明らかに場所が特定される情報(レストランや会員制クラブ)
<公開される情報、該当者は診察、検査を優先的に行う>
・不特定多数の人間が自由に出入りする場所と時間情報(百貨店などや長距離交通機関)
 その後、中央感染症指揮センターは12日24日の会見で、域内感染した台湾人女性の勤務先を中心とする接触者176人全員の陰性が確認されたと発表された。また、前回の会見から2日間で関連の通報が多数寄せられ、41件の検査が行われたとも付け加えられた。今回の域内感染の件では、のべ250人あまりが接触者として調査検査を受け、全員の陰性が確認されたことになる。見事なクラスターつぶしといえるだろう。
プライバシー侵害と
デマ拡散に厳しく対応
 中央感染症指揮センターは12月22日の夜、同日2度目となる会見を開いている。指揮官の陳時中衛生福利部長(厚生大臣に相当)は、「この域内感染案件は感染経路が完全に特定できているので、過度に怖がることはありません。国民の皆さんは引き続きマスク、手洗いなどを継続しながら、安心して普段の生活を続けてください」と断言した上で、年末年始の大型イベントの開催者と参加者に対して、以下の厳格な対応の要請と注意喚起を行った。
(1)イベント開催者は、十分な空間や換気などの予防措置を取ること。開催に疑問や問題点がある場合は必ず当局に連絡や相談すること
(2)隔離期間中の人はもちろん、自主健康管理該当者は、これらイベントの参加を絶対にしないこと
(3)発熱やせき、腹痛その他倦怠(けんたい)感など健康状態が万全でない者は、外出は控え、イベントには絶対参加しないこと(出演者およびスタッフも含む)
(4)イベント開催者は、イベント参加者の入場時の検温と消毒を必ず行い、会場では水分補給以外の飲食禁止、またマスク着用を厳守させること
(12月22日 衛生福利部の発表内容を筆者要約)
 台湾政府は市民に対し、感染を防ぐための厳格な対応を求める一方、プライバシーへの配慮もしっかりと行った。
 12月23日の会見時、記者たちからは、域内感染した台湾人女性の足取りについての質問が集中した。だが、陳時中指揮官は、「それらの事実かどうか確認できないことをむやみに拡散、報道しないでほしい。防疫に必要のないゴシップは誰も流してはいけない。必要な情報は、すべて中央感染症指揮センターが発表する」と強い口調で述べ、デマの拡散やプライバシーの侵害を行わないよう求めた。
 また、翌24日の会見時も、「中央感染症指揮センターが発表する情報は専門者会議で十分に協議された結果である。中央感染症指揮センターの発表以外の情報を詮索して、不確実なうわさやデマを流した場合、国民に余計な恐怖を与えるだけでなく防疫活動の妨害にもなり、刑事および民事等の法的な追及もされることがあることを理解してほしい」と述べている。
 筆者は年明け、台湾在住の友人に「域内感染のその後」について聞いたところ、「すぐに全接触者の陰性が発表されたことや蔡英文総統の明確なメッセージなどにより、早い段階で平静を取り戻しました」と話していた。
 中央感染症指揮センターは1月6日、今年初めての会見を行った。
 陳時中指揮官は、国民に協力への感謝を述べた後、「防疫に余計な修飾語や文学(情報)はいらない。逆に国民が余計な想像をするだけだ。台湾の防疫の原則は単純明快だ。『プロフェッショナル』『効率』『思いやり』『助け合い』、その四つだけだ」と自信を持って述べた。
 日本にも同じような信念と行動力を持つリーダーが登場してほしいものである。
 なお、台湾で1月12日に医療従事者2名の域内感染案件が、新たに発見された。中央感染症指揮センターは24時間以内に感染者の接触者520名へ検疫調査を実施し、その後、さらに2500名規模の調査を進めている。こちらも徹底した対策が行われていくことだろう。