Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

日本協力の在来線高速化にインドネシアが中国招請

インドネシアでは現在、中国企業との合弁会社が、首都ジャカルタと大都市バンドンとを結ぶ全長約140キロの「高速鉄道計画」が進んでいる。日本と中国が受注を競い、不可解な経緯で中国が落札した事業だ。


 これとは別に、日本の協力の下、ジャカルタとインドネシア第2の都市スラバヤを結ぶ在来鉄道(約720キロ)の「高速化計画」も進んでいる。2017年にインドネシアがこの在来線の高速化計画への協力を日本に要請、事業化調査が進んでいる。日本の国際協力機構(JICA)が調査を進め、在来線を改良して高速化して、現在は12時間かかるジャカルタ―スラバヤ間を約半分の5時間半にすることが検討されている。



 ところがそこに、インドネシアが突如として「中国の参加」を求めていることが明らかになった。インドネシア政府が中国に対して資金面などでの参加を1月12日に打診していたことを、投資調整庁が19日に明らかにしたのだ。


財政面での支援を当て込んで中国に参加要請
 中国との合弁で進めている、ジャカルタと内陸部である西ジャワ州バンドンを結ぶ「高速鉄道計画」は、工事の遅れにより、当初の2019年開業の予定は達成できていない。


 2015年に実施された「高速鉄道計画」の入札では、鉄道技術や運用面の実績などから日本が圧倒的に優勢と見られていたが、インドネシア政府はこの入札を白紙化。そして財政負担を求めないという中国案の採用を決定。こうして「東南アジア初の高速鉄道事業」は中国主導で進められることになった。当然ながら、日本側には大きな「不信感」が残った。


 こうした経緯があるにも関わらず、今回、在来線の「高速化計画」でも急遽、中国へ参加を要請した背景には、中国主体で建設中ながら進捗が滞っている「高速鉄道計画」の尻を叩きつつ、日本の協力の下進めている「高速化計画」にも中国の財政的バックアップを促したい思惑があると見られている。


王毅外相に直接要請
 地元報道によると、1月12日にインドネシア訪問中の中国・王毅外相とルフト・パンジャイタン調整相(海事・投資担当)が会談。その中で、ジャカルタ―バンドン間の「高速鉄道計画」を、バンドンからさらに延伸してジャカルタ―スラバヤを結ぶ「高速化計画」につなげ、途中から一体化する構想への財政面での参加・支援をインドネシア側から中国に求めたのだという。


 報道によれば、このインドネシア側の意向は、ジョコ・ウィドド大統領から習近平国家主席にもすでに伝えられていたという。


 中国側はインドネシア側の要請を受けて「計画を調査する」との姿勢を見せ、今後専門家チームをインドネシアに派遣する予定だ。インドネシアの大規模インフラ整備計画への参画は、中国が世界的に進める「一帯一路」構想にもかなっており、前向きに検討する可能性が極めて高いとみられる。


日本の消極姿勢で中国参加要請か
 ジャカルタ―バンドンの「高速鉄道計画」をさらに延伸し、ジャカルタ―スラバヤの「高速化計画」と一体化させるという案は、昨年6月にアイルランガ調整相(経済担当)がジョコ・ウィドド大統領の意向として突如表明。このときジョコ大統領は「日本に再度参加してもらおう」との考えを持っていることも伝えられた。


 しかしバンドンまでの「高速鉄道計画」で建設中の線路と、スラバヤまでの「高速化計画」で改良予定の在来線の線路とではゲージ(軌間・線路の幅)が異なるため、技術的には極めて困難だ。そのため日本側は報道を通じて知ったジョコ大統領の意向に困惑、消極的な姿勢に終始せざるを得なかった。


 ところがこうした日本の姿勢を、インドネシア側は「インドネシアと中国の共同事業体への参加を日本が拒否した」と受け止めていた模様だ。


 中国が受注したバンドンまでの「高速鉄道計画」は2016年に着工したものの、当初の完工予定である2019年という目標は土地収用などが難航したことなどから、2021年に延期されていた。


 さらに2020年には折からのコロナ禍により建設は実質的に中断に追い込まれ、工期の見直しが再度行われ、完工は2022年9月まで再び延期されている。



 共同事業体であるインドネシア・中国高速鉄道(KCIC)は、土地収用はほぼ終わり2020年末までに建設工事全体の進捗率を70%とすることを目標にするとしていた。


中国以外からの投資も歓迎
 2015年9月に日中が争っていた「高速鉄道計画」が中国に受注されることになった際、当時の菅義偉官房長官は「(日本が入札から外された)経緯については理解できない。全く遺憾である」と厳しい姿勢を見せ、受注過程の不透明さに対する不満を露わにした。


 そこに日本がFS中の「高速化計画」にまで「中国の参加要請」したことに関して、日本はこれまでのところ静観しているが、今後のインドネシア側の説明次第では態度を硬化させる可能性もあるだろう。


 インドネシア側は「高速化計画に関しては、中国にだけ投資面での参画を求めているわけではなく、国際社会に広く募っている」として理解と支持を求めている。「もちろん日本の参加も待っている」としているが、日本以外の有力な投資参加国として韓国の名前も取りざたされており、状況は不透明になってきている


日本は中国の出方に要警戒
 インドネシアの「高速鉄道計画」では煮え湯を飲まされた日本ではあるが、これまでのように「安全や技術、運用といった面での優位性」だけでは、海外のインフラ投資において「とにかく財政面で有利な条件を提示する」中国に太刀打ちできない可能性が高まっている。


 協力するにしても民間企業が主体となる日本としては採算性を度外視するわけにはいかず、かつ鉄道運行に関わる安全性確保も図らねばならないというのが原則的な考え方である。


 これに対し中国は「金は出す、労働者も派遣し突貫工事で短期に完成させる」という、国家総動員での中国方式を使い、インドネシアのみならずアフリカや東南アジアでのインフラ整備計画などに臨んでいる。


 インドネシアが、「高速化計画」の財政面で再び中国に依存する事態になれば、高速化事業そのものへの中国の発言力や介入が強まる懸念も出てくる。


 中国主導で進捗が遅れている「高速鉄道計画」と、日本が協力する「高速化計画」とをドッキングさせ、中国の財政力と日本の技術力とを引き出し、2つの鉄道計画をうまく成就させようという腹積もりなのかも知れないが、インドネシア政府の思惑に従ってしまうと、中国への技術流出の懸念なども高まる。かといって中国を目の前にして、海外でのインフラ事業展開のチャンスから手を引いてしまうのは、日本のインフラ産業の将来を閉ざすことににもなりかねない。果たして日本はどう対応するのか。中国の出方を見守りながら、難しい判断を求められることになる。