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安倍総理の志は死なない!!

リニアの命運を握る、「6月静岡県知事選」の行方

選挙に強い川勝知事、対抗できる有力候補者は
小林 一哉 : 「静岡経済新聞」編集長
2021年01月22日


今年6月に予定される静岡県知事選挙の最大の焦点は、「リニア」である。川勝平太知事は昨年暮れ、突然、リニア工事凍結宣言の表明をJR東海に迫った。川勝県政の継続となれば、事実上、静岡工区の工事凍結は続く。自民県連は有力な候補者を立てて対抗したいが、新型コロナの影響もあり、擁立は難航する。今夏、知事交代がなければ、リニア計画の未来は真っ暗である。
なぜ、県知事の座がそれほどまでに大きな意味を持つのか?
リニア工事の最難関とされる南アルプス静岡工区は地下約400mにトンネルが建設される。昨年、JR東海社長や国土交通省の事務次官が県庁を訪れ、トンネル本体工事とは無関係の準備工事再開を要望したが、知事はトンネル工事の一部とみなして拒否した。そんな無理無体が通るのは、県知事の許可権限が強大だからである。
リニアトンネルは県管理の大井川直下を通過する。たとえ、地下400mの大深度であっても、JR東海は河川占用の許可を得る必要がある。知事は中下流域の「利水上の支障」を盾に認めない姿勢を崩さない。
知事は内心では立候補を決めている
国は、知事権限を召し上げることができないから、有識者会議を設置して、水問題の解決を図ろうとする。知事は有識者会議が結論を出しても、県専門部会に諮り、地元の理解を得ることまで求める。たとえ、水問題が決着しても、南アルプスの自然環境に問題ないことをすべて示せと要求している。
知事がJR東海に工事凍結宣言の表明を迫るのも、ひとえに知事の強大な権限がバックにあるからだ。だから、6月の知事選で「リニア」問題は大きな山場を迎える。
7月4日任期満了を迎える川勝知事は4選出馬を内心ではほぼ決めている。
昨年12月23日の会見で、出馬を問われた知事は、2011年3月11日の東日本大震災発生後、被災地の統一地方選が延期された事例を出したあと、「現在は、リニアとコロナの危機という真っただ中にあり、それ(東日本大震災)に匹敵するという認識を持っている。平常と同じことをするべきではない」などと述べた。
コロナと並列でリニアの危機を唱えるのは、もし、自民系候補が知事に就けば、現在、議論が続く水環境や自然環境問題は国やJR東海の主張通りに従い、静岡県にとって不幸な結果を招くと言いたいからだろう。国やJR東海と「闘える」のは川勝以外にいないとも聞こえる。
「平常と同じことをするべきではない」発言は、公職選挙法改正を伴う知事選の延期をほのめかしたしたわけではない。
知事は、自らの出馬を念頭に、対抗馬を模索する自民県連を牽制しているのだ。新型コロナという緊急事態の中で、選挙活動は密をつくるから、早期の立候補は危険を生み出すと警告、さらに自民県連は候補擁立を断念して、政策協定を結ぶ選択をすべきと言いたいのだ。
2017年の前回選同様に自民県連が候補擁立をできない状況も頭にあるようだ。新型コロナによる「有事」を強調して、“挙県一致”でコロナの危機に当たろうと提案する。県議会が全会一致の推薦を決め、お膳立てをしてもらったうえで、選挙直前に立候補表明したいのが知事の本音だろう。
県民には帰省自粛を要請したが、自分は別荘へ
ただ、新型コロナによる緊急事態、有事と言うわりには、川勝知事には緊迫感が欠ける。その好例が、12月26日から1月3日まで長野県軽井沢町の自宅で正月休みを取ったことである。1月4日の会見で、知事は、ベートーヴェンを聞いて新年を迎える優雅なひと時を過ごしたことを明らかにした。さらに、菅義偉首相宛に、国内でのワクチン開発とともに、南アルプストンネル工事の静岡工区について事業凍結が望ましいと書き、菅首相の似顔絵のついた飴を添えて、「頑張ってください」としたためた手紙を送ったというのだ。
新型ウイルスの緊急事態というならば、知事はいつでも陣頭指揮を執る備えをしなければならない。感染症対策を担う県職員は連日出勤し、年末年始もなかった。県トップを務める知事が不在にしているなど職員は思いもしなかったはずだ。
有事の際、重要な役割を担う知事が、往復8時間以上かかる軽井沢まで出掛けることが望ましいはずはない。暮れには、新型コロナの緊急事態を強調して、年末年始、県境をまたぐ、不要不急の帰省を避けるよう県民に要請したばかりだった。
また、軽井沢までの遠い道のりを考えると、いくら運転に自信があるとしても、高齢であり、冬の積雪期のドライブにはさまざまな危険がつきまとうのだ。何らかの事故に巻き込まれれば、知事という職務を放棄しなければならない。
知事の海外出張好きは県庁内で有名だが、陣頭指揮を執るという強い責任感の欠如が今回、正月休みを軽井沢で過ごしたことで明らかになった。
もっとも、軽井沢で優雅な休みを取ることができたのも、今夏の知事選に対する自信の表れともいえる。
その大きな理由は、暮れになっても、自民県連が対抗馬を明らかにできなかったことだ。1期目の選挙は、民主旋風に乗って、1万5000票余の差で自民、公明両党の推薦した前副知事の女性候補を破り、2期目は圧倒的な大差、3期目ではとうとう自民県連は候補を擁立できなかった。政治家として一度も選挙に負けていない自信は大きいだろう。
2019年12月、知事は自民県議団を念頭に「やくざの集団、ごろつき」「県議の資格はない」などと発言している。最後は、知事が発言を撤回、謝罪したが、自民県議らの怒りはいまも収まっていない。それなのに、自民県連は候補を擁立できないでいる。現在、県連幹事長らに一任して、2月初めまでの立候補表明を目指しているが、知事の思惑通りに政策協定といかないまでも、候補擁立が実を結ぶかどうかの不透明感は強い。


川勝知事は、県民の大多数にリニア工事によるマイナスイメージをしっかりと植え付けることに成功した。リニア工事で、水が失われ、南アルプスエコパークが傷ついてしまうと何度も主張、多くの県民は知事発言を鵜呑みにしている。
そんな県民の支持を受けて、知事は「JR東海は、有識者会議の結論が出て、地元の理解が得られるまで南アルプスのトンネル工事凍結宣言を表明すべきだ」と迫った。この「工事凍結」は、2027年品川―名古屋間の開業ではなく、2037年品川―大阪間の一括開業を目指すべきという知事の持論に裏付けられている。静岡工区を凍結して、名古屋から大阪までのルートや環境アセスを急ぐべきとしたいのだ。
リニアの是非が選挙の焦点になるか
ただ、もし、「リニア工事凍結」をJR東海が表明すれば、リニア計画中止を求める世論に追い風となるのは間違いない。リニア工事差し止め訴訟は論拠を得たかたちとなる。コロナの影響で、新幹線需要が落ち込み、在宅勤務の奨励などでリニア整備の意義に疑問符をつける学者らも多いから、静岡工区の工事凍結となれば、そのままリニア計画の中止につながる恐れも強い。
また、静岡県ではリニア開業によるメリットが何ひとつ見当たらないから、大井川流域や女性を中心とする知事支持層のリニア計画中止を求める声は大きくなるだろう。川勝知事は、リニア計画の是非まで知事選の焦点にしてしまうかもしれない。
現在、鈴木康友・浜松市長の名前が対立候補として挙がっているが、県内東、中、西の経済界が手をたずさえ、三顧の礼で迎えて支持表明しなければ、出馬の可能性は薄い。また、圧倒的な知名度を持つタレントや県出身官僚などの有力候補者は見当たらない。このままでは、川勝知事が圧勝し、リニア計画は大幅な見直しを迫られるだろう。