Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

選択的夫婦別姓の議論がスルーする、「実は同姓支持多数」という不都合な真実

裁判官から見れば
「日本の女性の働き方も世論の高まりも変わっていない」
 昨日6月23日、最高裁が「夫婦別姓を認めない」という民法の規定を「合憲」だと判断をした。2015年に続いてこれが2度目で、日本国があらためて「夫婦別姓」にノーを突きつけた形である。
 この結果に失望した方も多いことだろう。家族法が専門の早稲田大学の棚村政行教授はNHKの取材に対して、前回の最高裁判断の基礎となったのが、女性の働き方や国民の意識の現状だったとして、こう述べている。
「今回も、結婚後も仕事をしている女性の割合がどの程度増えているか、世論調査の賛否といった社会の情勢が、6年前の判決の後にどう変化しているのかを総合的に判断することになる」(NHK6月23日)
 その結果がこれだったということはすなわち、司直の目には、日本の女性の働き方も、世論の高まりも6年前からそれほど変わっていないように映っているということなのだ。
「最高裁の目は節穴か!世の中の大多数派選択的夫婦別姓を支持しているぞ」という怨嗟の声が全方向から飛んできそうだが、残念ながらそうとも言い難いシビアな現実がある。
 おっしゃるように、確かに近年、マスコミの間では『世論の多数派はすでに「選択的夫婦別姓」に賛成 日本』(論座2021年5月22日)という主張や、「選択的夫婦別姓、7割が賛成 早稲田大など7千人調査」(朝日新聞2020年11月18日)などのニュースが増えているのは事実だ。ただ、残念ながら、このような報道の多くは、マスコミが自分たちの望むような方向へと世論を導いていく情報操作のテクニックを駆使したものだからだ。
 ……というような主張をすると、「ははあん、さてはこいつは夫婦別姓に反対する、女性蔑視のネトウヨだな」と誤解されてしまうかもしれないが、個人的な考えを言わせていただくと、夫婦別姓は大賛成だ。
 同姓を名乗っていても関係が破綻している夫婦など山ほどいる中で、なぜそこまで同姓に固執するのか理由がサッパリわからない。保守派がおっしゃる、「同姓じゃないと日本の伝統が壊れる」みたいな話もまったくピンとこない。
 ただ、そういうイデオロギー的なところを一旦脇に置いて、選択的夫婦別姓をめぐる「情報戦」を俯瞰してみると、「いやいや、さすがにそれは誘導する気マンマンでしょ」というあまりに杜撰な世論操作が目についてしょうがないのだ。
夫婦別姓「ソフトな反対派」が実は多い
 例えば、その代表的なものが、内閣府がおよそ5年ごとに5000人(有効回収数は3000人弱)を対象にして行っている「家族の法制に関する世論調査」にまつわる報道だ。
 これはマスコミがやっている、無作為に携帯や固定電話にかけてきて一方的に質問をまくしたてる「電話世論調査」と異なる、対面式の「個別面接聴取」だ。そのような点においては、マスコミの世論調査よりも信頼性が高いといえる。
 では、平成29年12月の調査では、どんな結果が出たのかというと、「夫婦がそれぞれ婚姻前の名字を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と回答したのが、42.5%。かたや、「夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきである」は29.3%だった。
「ほら見たことか!」と狂喜乱舞する選択的夫婦別姓支持者の皆さんも多いだろう。一部マスコミも同じリアクションで、この結果が出た時は、「賛成42% 反対派上回る」と報じた。
 しかし、残念ながら、これはちょっと事実と異なる。マスコミの「伝家の宝刀」ともいうべき、「報道しない自由」をフル活用して、自分たちにとって都合の悪い回答を「切り取り」をしているからだ。
 というのも、実はこの調査にはもうひとつ、「夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字を改めた人が婚姻前の名字を通称としてどこでも使えるように法律を改めることはかまわない」という回答があった。要するに、選択的夫婦別姓には反対だが、仕事などで困る人がいないように婚姻前の姓も法的効力があるように法改正しましょう、という「ソフトな反対派」だ。このように答えた方がなんと24.4%もいたのである。
 ここをカウントすると、「反対派」は53.7%。純粋な「選択的夫婦別姓賛成」を上回ってしまうのだ。
マスコミが「ソフトな反対派」を無視するシンプルな理由
 では、なぜマスコミは、この内閣府の世論調査に存在する24.4%の人々の意見をガン無視して、「賛成42% 反対派上回る」などと、あたかも世間が選択的夫婦別姓を圧倒的に支持しているような報道をしたのか。
「うっかりしていた」、「『通称を使えるようにする法改正』は厳密には、選択的夫婦別姓ではない、という庶民は理解できない強いこだわりがあった」……などなど、いろいろな可能性が考えられるが、筆者はズバリ、「選択的夫婦別姓導入は正しいことなので、なんとかそっちに世論を誘導したい」という狙いがあったからだと考えている。
「中立公正なマスコミ様がそんなインチキをするわけがないだろ!」と不愉快になる方も多いだろうが、この調査をさらに深掘りしていくと、そういう結論にならざるを得ない。
 例えば、この調査では選択的夫婦別姓についての国民の意識をさら詳しく探ろうと、この制度が導入された場合、夫婦でそれぞれ婚姻前の名字を名乗ることを希望するかを質問している。
 すると、支持をすると回答した人を上回る47.4%が「希望しない」と回答。「希望する」と回答したのは19.8%と「希望しない」の半分以下となった。賛成はするが、いざ実際にこの制度を自分事として望んでいるのは2割にも満たないのだ。
「世論の多数派は選択的夫婦別姓に賛成」を掲げるマスコミが目を背けたくなるような「不都合な真実」はまだある。「婚姻によって、名字が相手の名字に変わった場合、どのような感じを持つと思いますか」という質問をしたところ、「違和感を持つと思う」は22.7%、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」は8.6%と、マイナスに捉える方たちは確かにそれなりにいる。
 が、実はそれ以上に多いのが、「新たな人生が始まるような喜びを感じると思う」(41.9%)、「相手と一体となったような喜びを感じると思う」(31%)とポジティブに捉えている人たちである。もっとストレートに言ってしまおう。この世論調査で浮かび上がったのは、制度としての夫婦別姓に「賛成」を表明する方もかなりいるが、いざわが身に置き換えてみると、「夫婦同姓」を支持する方たちの方が多数派という事実なのだ。
マスコミの電話世論調査は「誘導」されやすい
 このようにマスコミが触れまわる「世論の多数派はすでに選択的夫婦別姓に賛成」という世論調査が一面的に過ぎないということを示す材料が、次々と出てくることに戸惑う方も多いだろうが、実はそれは極めてシンプルな理由で説明できる。
 かつてマスコミの世論誘導をテーマにした「スピンドクター」という著書の中で詳しく述べたが、マスコミの電話世論調査というのは、調査員の「聞き方」によって、いかようにも誘導ができる。
 例えば、わかりやすい例で言えば、何か不祥事やスキャンダルが発覚した政治家の進退だ。政治家の名前を告げて、「辞任すべきだと思いますか?」という質問をするのと、「現在、国会で××疑惑が追及されている××議員は辞任すべきだと思いますか?」と質問をするのでは、後者の方が「イエス」が圧倒的に多くなるのは言うまでもない。
 ネガティブな問題を説明されたにもかかわらず、「辞任しなくていい」と回答するような人はよほどその政治家や政党の支持者か、モラルが壊れている人のどちらかだ。
 このような「聞き方」で賛成へ誘導できるということでは、実は「選択的夫婦別姓」はまさしくうってつけだ。
 電話で世論調査をする際には、電話に出た人の知識に応じて説明をしなくてはいけない。「選択的夫婦別姓についてお伺いします」と言っても、「それなんだっけ?」では調査にならないからだ。そのため、例えば、あるマスコミはこんな風に質問をしていた。
「法律を改正して、夫婦が同じ名字でも、別々の名字でも、自由に選べるようにすることに賛成ですか」
 日本人の常識的な感覚として「自由」はポジティブなイメージであることは言うまでもない。「自由に選べる」はそれだけで「賛成」につながる要素なのだ。また、マスコミの世論調査は一度にいくつも質問をして、ポンポンと次の質問に行くので、先程の内閣府の調査のように深掘りをしない。
 そのため、どうしても政権の支持率と同じように、「選択的夫婦別姓に国民の大多数が賛成」みたいなザックリとした結果になりやすく、100%賛成なのか、「うちは夫婦別姓なんてしないけど、ま、いいんじゃないの」というレベルの賛成なのかなどの「意志」が見えにくいのだ。
もっとも結婚に切実な若い人たちの声は?
 そのような意味では、マスコミの世論調査などよりも、「結婚」ということをより切実に考えている若い人たちを対象とした、婚活サービスなどの調査の方が実はよほど「民意」を反映させている。
 例えば、昨年12月、婚活支援サービス「パートナーエージェント」が20~39歳の未婚男女2400人を対象にした調査では、「選択的夫婦別姓制度」に賛成したのは54.6%だった。
 しかし、一方で実際に「別姓にしたい」と回答したのは20.6%で、「同姓にしたい」は38.6%、女性に限定すると、42.6%が「同姓にしたい」と回答しており、「結婚して夫婦で同じ名字になることに憧れがありますか?」という質問には、「憧れがない」の23.7%の2倍にあたる49.1%の女性が、「憧れがある」と回答した。
 内閣府の面接調査同様、「夫婦同姓」にポジティブな人が大多数を占めているということになる。
 繰り返しになるが、筆者はどういう形にしろ1日も早く夫婦別姓を認めるべきだという考え方だ。
 女性経営者の方などは、登記の問題などがあるのでどうしても「戸籍上の姓」が強制される。また、アカデミックの世界も頭コチコチの役所ルールに則るので、「戸籍上の姓」を強要されてキャリアが白紙に戻されることもあるという。こういう不利益を被っている女性たちを救済しないで、女性活躍もへったくれもない。
 ただ、そういう考え方だからといって、マスコミが事実をねじ曲げて、「大多数の国民は選択的夫婦別姓を望んでいます」みたいな世論誘導をすることには違和感しかない。
 マスコミが「われわれの言っていることは正しいので、多少の嘘をついても問題なし」みたいな独善的な振る舞いをして暴走をすると、戦時中の日本のようにロクなことにはならないからだ。
そもそも日本人は変化を嫌う
「夫婦同姓」も変えたくない?
 NHKが1978年から続けている「日本人の意識」調査というものがある。全国の2751人(有効数、2018年)を対象に、こちらも個人面接法で調べたもので、世論調査より手間暇がかかっている。
 最新の2018年の結果を見ると、興味深い日本人の意識が浮かびあがる。それは意外にも、「生活の満足度」が高いのだ。1973年には78%だったものが年々増えて、2018年にはなんと92%が今の生活に満足している。
 幸福度が足りないとか、貧困化が深刻だとか、賃金が先進国最低レベルだと言いながら、実は今の生活に「それなりに満足している」という日本人が世の中にはかなりいるのだ。
 これは日本社会が素晴らしいというよりも、日本人は自分たちが思っている以上に、「変化」を嫌うということも大きい。長く続けてきたことは、これからも続けたい。変われと言われても、変わりたくない。「現状」に満足をしている人がたくさんいるのだ。
 この「夫婦同姓」という問題もそうだ。「時代遅れ」「国際社会の中では日本だけ」「女性の社会進出を阻んでいる」なんだとマスコミは世論を煽るが、当の日本人は「夫婦同姓」にそこまで不満を抱いていない。まずはこの現実を直視しないことには、本当の意味での建設的な議論はできないのではないか。
 マスコミが「選択的夫婦別姓は国民の大多数が支持しています!」という方向へ強引に誘導すればするほど、「夫婦同姓」に満足している人々は違和感を抱く。中には、反発する人も出てくるだろう。マスコミによる「選択的夫婦別姓に反対するなんて意識が低すぎる」という上から目線の誘導にイラッとする人は少なくないはずだ。
 そこで提案だが、しばらく本件の世論調査もやめて黙ってみたらどうか。おかしな情報操作がなくなれば、国民もフラットに議論できる。たまには、国民から感謝されるようなことをしてもいいのではないか。
(ノンフィクションライター 窪田順生)