Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

習近平政権に警鐘を鳴らしてきた大前研一氏が分析「中国の次なる戦略」

 2月開幕の北京冬季五輪での外交ボイコットを表明したアメリカを筆頭に、各国が様々な対中政策を講じているが、今後中国はどのような政策を推し進めてくるだろうか。かねてより習近平・国家主席の政策に警鐘を鳴らしてきた経営コンサルタントの大前研一氏が、中国の次なる戦略を分析する。
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 アメリカ議会で、人権侵害を理由に中国・新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する「ウイグル強制労働防止法」が成立し、ウイグル族弾圧を否定する中国は強く反発している。2月開幕の北京冬季五輪を外交ボイコットするアメリカと中国の対立がさらに深まるのは必至の情勢だ。
 アメリカのバイデン政権が昨年12月に約110の国・地域を招待して「民主主義サミット」を開いた際、中国政府は「中国の民主」と題する白書を発表し、中国には自国の現実や歴史に根ざした民主主義があるとして「全過程人民民主」という概念を掲げた。現在の中国の政治システムは、いわば「中国流民主主義」だと主張したのである。
 民主主義の原則は「人民支配」「国民主権」だから、中国共産党独裁体制で言論・表現の自由もない強権主義国家が民主主義を標榜するのは「詭弁」「文革時代の再来」などと欧米から批判されている。だがあえて、これが「詭弁」か否か問い直してみたい。もし民主主義の目的が「より多くの人が幸せになること」だとすれば、中国の言い分にも一理あるのではないか、と。
 なぜなら、40年前までの中国は貧しい10億人の国民を抱えた途上国で、1人あたりGDPは300ドル以下だったからである。その巨大な貧困国が鄧小平による改革開放政策が始まってから急速に経済成長し、1人あたりGDPは2019年に1万ドルを超えた。国民のマジョリティは昔より豊かになっているのだ。
 インフラ整備も異例のスピードで進行している。たとえば、2007年に運営を始めた高速鉄道の営業距離は2020年末で3万8000kmに達した。1年に平均3000kmのペースで延びているわけだが、日本の新幹線の営業距離が約3000kmだから、新幹線の全営業距離分を毎年建設し続け、13年で13倍の鉄道網を築き上げたことになる。
 また、世界の「長い橋」ランキングでは、ベストテンのうち七つを中国が占めている。中国は国が土地を所有しているから、共産党がやろうと思えば何でもできてしまうのだ。
 むろん中国は民主主義とは相容れない情報統制国家で顔認証などを使った監視社会である。だが、14億人もの国民は統制しなかったら、百家争鳴でまとまらず、経済成長もままならない。
 実際、中国の友人たちは「言論・表現の自由よりも豊かさがほしい」と口をそろえている。共産党がダメなのはわかっているが、自由選挙にしたらいっそう汚職が横行して世界最大の民主主義国家・インドのように政治が不安定になることは明らかなので、政府がトラ退治・ハエ叩きで腐敗を減らし、自分たちの生活が豊かになっている限り、情報統制や監視社会は黙認しようと考えているのだ。
 以上のような点を踏まえると、中国を統治する政治システムとして、共産党独裁体制は“必要悪”という見方もできるのではないかと思うのである。
武力侵攻でなく、なし崩し的に統一を狙うか
 これまで私は本連載でたびたび「習近平のヒトラー化」に警鐘を鳴らしてきた。独裁政治や人権侵害、武力威嚇に対しては引き続き批判していくべきだと思う。それでも、習近平の立場から西側諸国に対峙してみるという視点は重要だ。そこから何が見えてくるか?
 今年秋の党大会における異例の3期目続投を確実にして“終身統治(永久皇帝)”も視野に入れたとされる習近平の最大の野望は「毛沢東超え」の台湾統一だ。
 その意味で大きかったのは、香港の民主化運動鎮圧である。昨年12月の香港立法会(議会)選挙は「愛国者」しか出馬できなかったため、民主派政党が候補者の擁立を見送り、当選者は親中派ばかりになった。
 台湾海峡では緊張が続いているが、最近の中国は軍事威嚇で台湾の人々を脅えさせながら“戦わずして勝つ”作戦に切り替えたのではないかと思う。その奇策の一環が、台湾の大手財閥・遠東集団に対して4億7400万元(約85億円)の罰金と追徴課税の支払いを命じたことである。台湾独立を目指す民進党への政治献金を問題視したとされるが、遠東集団の徐旭東(ダグラス・シュー)董事長は親中派の外省人で、台湾独立に反対する国民党にも長く政治献金を行なってきた。
 その徐董事長が標的になったとあって、台湾企業は震撼した。中国とビジネスで関係していない台湾企業はほとんどないからだ。今後、台湾企業は民進党への献金に二の足を踏むだろう。
 つまり、遠東集団へのペナルティは、親中派企業に圧力をかけて見せしめにすることで民進党を兵糧攻めにして独立派勢力を弱体化し、直接対話できる国民党政権を復権させて、台湾を武力侵攻ではなく“香港方式”でなし崩し的に統一しようという“高等戦術”ではないかと私は見ている。
 そういう狡猾な独裁者・習近平に日本はどう向き合っていくのか? 今年は9月に日中国交正常化50周年を迎える。「聞く力」があるのはよいが、その結果、迷走しがちな岸田文雄政権の対中政策を注視したい。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。
※週刊ポスト2022年1月28日号