Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

ウクライナ戦争、身動き取れぬ中国が決断する日

あいまいな態度の裏にあるロシアとの複雑な関係
薬師寺 克行 : 東洋大学教授
2022年03月24日


習近平国家主席との電話会談に臨むバイデン大統領(写真:AFP=時事)
はたから見ても中国が今、身動きが取れず様子見を決め込んでいることは明らかだ。何事にも独自の理論を展開し、周囲の事情など顧みることなく自国の利益を強引に追求する中国が、ウクライナ戦争に関してはほとんど動かない日々を送っている。
ウクライナで膠着状態が続く3月18日、アメリカのバイデン大統領は中国の習近平国家主席に電話会談で、もしも中国がロシアを支援した場合、「それがもたらす影響と結果を詳しく説明した」という。つまり、ロシアの求めに応じて中国が経済的、軍事的な支援をすれば、中国もロシア同様に経済制裁を受けるぞ、という脅しである。
これに対し習近平氏が会談でどう応じたかは知る由もないが、中国政府の公表文書は、「ロシアとウクライナの対話と交渉を共同で支援する必要がある」などと当たり障りのない内容にとどまっている。
ウクライナとロシアの間で続く交渉の行方が最も重要なことは言うまでもないが、同時に世界が注目しているのが表舞台に出てこようとしない中国の動きである。
ロシアの行為に極力言及しない
ロシアの侵略が短期間で片付くという見通しでも持っていたのか、中国メディアは当初は「アメリカが人口1.4億人のロシアを世界から孤立した島に押し込むことは不可能。そうしようとすることは世界の分裂と対立を招く」「ワシントンは混乱の源として行動するのではなく、特別な責任を取るべきだ」(環球時報)などと、ウクライナに侵略したロシアではなく、お門違いのアメリカ批判を繰り返していた。中国外交部の記者会見もやはりアメリカやNATO批判に力点を置き、ロシアへの言及を避け続けていた。
141カ国の圧倒的多数の賛成で「ロシア非難決議」を議決した国連総会の緊急特別会合で中国は棄権票を投じた。中国の演説は「緊張を悪化させるアプローチを拒否し、継続的な人道的努力に対する支持を表明する」「すべての国の主権と領土保全が支持されなければならない」「冷戦は終わった。新しい冷戦を掻き立てることから何も得られない」など、やはり意味不明の内容だった。
ロシアの侵略を公式に支持することはできない。だからと言ってロシアを切り捨てることもできないから、ロシアの行為については極力、言及しない。一方で東方拡大を続けたNATOやその中心にいるアメリカは批判する。かといって欧米に対して何か行動するわけでもない。中国がこうしたわかりにくい行動をするにはそれなりの理由がある。
中国とロシアは現在、ともにアメリカに対峙する同盟国のように見える。しかし、中ロ関係は単純ではない。中国共産党は100年前に結党したが、当初はモスクワ留学から帰国した「ソ連留学組」の党員が力を持っていた。ところが長征の過程で権力を握った毛沢東は中国国内の事情を無視してコミンテルンの指示に従うだけのソ連留学組を次々と粛清し党中枢から外していった。
やがて中国共産党は国民党との戦いに勝利し中華人民共和国の独立にこぎつける。毛沢東は国家運営についてソ連のスターリンに指導を仰ごうとする。ところがスターリンは、中国共産党をインテリ労働者ではなくマルクス理論をまともに知らない農民出身者の党であると見下しており、毛沢東を冷たくあしらった。それでも毛沢東はスターリンに対する畏敬の念を失わなかったようで、1950年に「中ソ友好同盟相互援助条約」を締結しソ連と軍事同盟を結ぶ。
経済では欧州・アメリカ、軍事ではロシアと協力
そうした関係は長く続かず、1956年にソ連共産党第一書記のフルシチョフがスターリン批判を展開すると、この同盟関係は崩壊し、中ソ対立の時代に入る。それを好機と見たアメリカが中国に接近し1972年のニクソン訪中が実現した。以後、経済成長を優先する鄧小平が改革開放路線の名のもとに西側諸国と良好な関係を構築し、経済大国への道を走り続けた。一方で中ソ両国は長きにわたり対立関係にあったのだ。
冷戦終焉とソ連崩壊が転機を招いた。ゴルバチョフ大統領のもとで、長年の懸案であった中ソ国境問題解決の動きが加速し、2008年に最終的な決着を見た。それを受けてロシアが中国に対し活発に戦闘機やミサイル、艦船などの供与や軍事技術の協力などを進め、中国は一気に軍事大国に成長した。
中国は経済成長を欧米の協力で、軍備の近代化をロシアの協力で実現した。今やアメリカとの関係は対立に変化する一方で、ロシアとは経済力で圧倒し支援を求められる関係になったのだ。
つまり中国はその時々の国家目標を実現するために手を握る相手を現実的に選んできたのだ。こうした実利を優先する国家関係に真の信頼関係が生まれないことは言うまでもない。しかも今の中国とロシアとの間に、かつてのような軍事同盟条約はない。近年の中ロ両国は共通の敵であるアメリカを前に蜜月を演じていたのだろう。
こうした中ロの歴史を踏まえると、米中対立が構造化し激しさを増している今、中国にロシアを切り捨てるという選択肢はないだろう。だからと言って今や侵略国家となったロシアを全面的に支援するということも難しい。
仮に中国が欧米諸国と同じようにロシアを侵略国であるとして切り捨てればどうなるか。
ロシアはさらに劣勢に陥り、ウクライナ戦争の結果いかんにかかわらず、衰退を加速させるだろう。もちろん中国との蜜月関係は終焉する。国連安保理などで中ロが共同歩調をとることも減り、中国の孤立化が進む可能性が出てくる。また米中対立が解消するわけでもない。ウクライナ問題と米中対立は別の話であり、引き続き緊張状態が続く。つまり、中国にとってメリットはほとんどない選択肢なのだ。
では逆に苦境にあるロシアを支持し、経済・軍事的支援に踏み切ることができるか。こちらの選択肢も容易ではない。
まず欧米との対立が決定的となり、バイデン大統領が牽制しているように中国もロシア同様の制裁対象となりうる。さらに米中対立も経済面だけでなく安全保障の面など幅広く深刻化し、それらが中国の国内経済に大きな影響を与えるだろう。
米中関係を見ながらあいまいな態度に終始
一方、ウクライナ戦争の出口が見えない中、ロシア自体が中国にとって経済、軍事面でどこまでお荷物になるかもわからない。また大国が中小国を力の論理で侵略し国家主権を犯すというロシアの行為を支持すれば、中国自身が掲げてきた「すべての国の国家主権、領土保全を尊重」という主張に矛盾することになる。当然、国際社会で批判を受けることは避けられず、一帯一路政策などによる莫大な資金提供を投じて作り上げてきた多くの国との関係は一気に崩れていき、国際的な孤立が進むだろう。
つまり、ロシア支持の道も中国にとっては得るものがあまりないのである。簡単に言えば、中国は今、袋小路に入り込んでしまい身動きが取れない。だからあいまいな態度を続けながら、ウクライナ情勢だけでなく米中関係をみているのだろう。
とはいえ、いずれ何らかの決断を下す日が来るだろう。もちろんロシアを切り捨てることはできない。同時にアメリカが容認できる道としたい。それが中国にとってはベストだろうが、そんな都合のいい方策があるのか。


秋の党大会へ向け失敗はできない習近平国家主席(写真:AFP=時事)
党書記の任期延長がかかる党大会
習近平氏にとって、さらに重要なことは秋に予定されている党大会で自らの党総書記の任期制限を撤廃し3期目に入ることだ。そのためにはここで失敗は許されない。
習近平氏は2月4日、北京五輪開会式の日に、プーチン大統領と会談し「NATOの継続的な拡大に反対」などという共同声明に調印し、反欧米での協調ぶりを誇示したばかりだ。したがって、共同声明と今後のロシア侵略への対応との整合性も問われることになりかねない。短期間で政策がぶれることになれば、党大会で政権延命を目指す習近平の足元が大きく揺らぐことは間違いない。
朱鎔基元首相ら引退した党幹部の間から任期延長に反対の声が出ているとも伝えられている。習近平氏はいかにして自らが生き残るか、思いをめぐらせていることだろう。