Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

IT武装も最後は「人力」頼みの中国コロナ監視体制

音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」下
ファンキー末吉 : 音楽家
2022年03月27日


2021年秋、中国国内をツアー中のファンキー末吉氏(右)とロックバンド「布衣」のメンバー・スタッフたち。2022年春からのツアーがまさに始まろうとした3月、ファンキー末吉氏は思わぬ「とばっちり」の隔離生活を強いられる(写真・本人提供)
ITを駆使し、スマホアプリでコロナの感染拡大を進める中国。そのおかげか、感染者を抑制していることに成功しているかのように思える。しかし、自慢のITによる隔離・監視体制も、人が使えば穴ができる――。中国を拠点に音楽活動を続けるミュージシャンのファンキー末吉氏は、おもわぬ理由で中国の地方都市でコロナ感染を疑われ、隔離を強いられる。中国隔離生活の実態から見える中国社会の一断面。
(『中国自慢のコロナIT監視体制が持つ大いなる穴』の続きです)


前回2021年11月の巻き添え隔離から4カ月。その後、私はバンドが用意してくれた寧夏回族自治区銀川市の部屋に住みながら、2022年4月からのツアーが始まるのを待っている。そんな中、私に珍しい仕事が舞い込んで来た。映画の出演である。
老人ドラマーの役として誰かが私を推薦してくれたのだろう、撮影場所である福建省の泉州に行って来た。そこから銀川に戻ってくると、世間が騒がしい。なにやら中国で、過去最大規模でコロナの爆発的感染が生じているらしいのだ。調べるデータによって数字はまちまちなのだが、2022年3月13日のとあるデータでは、中国全国で2141人。爆発的感染とはいうものの、この程度?という規模だ。同日、東京での感染者は8131人。東京では100万人のうち580人程度が感染しているのに対して、中国全土では同1.5人。感染者が多いとされる都市の深圳でも感染者数は121人で、100万人のうち感染者数は10人に満たない。人口が同規模の東京の70分の1ほどなのだ。
「疑わしきは隔離する」という原則
日本と比べてもたかだか数十分の1の感染者数で、中国はなぜ大騒ぎするのだろうか。それは中国が行っている「ゼロコロナ政策」による。「疑わしきは隔離する」というこの「ゼロコロナ政策」で、この巨大な国ではたかだか1日に数千人の感染者数であっても「爆発的」な感染なのだ。
日本では「中国の都市がロックダウンされた」というニュースにより「相当ひどいんだな」との印象を受ける。しかしこの国は一党独裁の政治体制であり、民主国家ではない。日本や西側諸国と違ってロックダウンなど簡単にできてしまうことを忘れてはいけない。政府が発する鶴の一声で、こんなにも多くの人民の自由を奪うことができる。それゆえ、この巨大な国でこれだけの感染者数ですんでいるのだ。
とはいえ、コロナ関連のいろんなニュースを尻目に、私が住んでいる寧夏回族自治区は平和なものである。コロナ禍が始まってから2021年の夏までずっと感染者はいなかったし、その夏にも1例だけ見つかっただけである。そのたった1例のために、この銀川市で数千人を隔離したと言う。それ以来ずっと感染者は現れなかったのだが、お隣の内モンゴル自治区や甘粛省、陝西省などで感染者が見つかり、ここに来て状況が厳しくなってきている。
そのような状況で、「銀川に入る時には陰性証明が必要」となった。映画の撮影のため、泉州に出発する時にはなかったはずである。陰性証明自体の取得は簡単である。中国では、小さな街でも数多くの病院で検査が受けられ、ロックダウンされて住民の多くが検査を受けるといった必要がない街以外では、基本的にあまり並ぶこともない。検査を受けると、だいたい半日もあればスマホにインストールしたアプリを使ってネット上で結果を受け取り、それが陰性証明となる。別に紙の原本が必要なわけではない。
ところが外国人はそのアプリが使えない。アプリの中の書類フォーマットに「パスポート」という項目がなく、中国人のIDのみだったりする。さらには、外国人のアカウントではアプリサイトからダウンロードできなかったりするのだ。現実的には、外国人は検査結果が出る頃に病院に行って、紙の陰性証明を印字してもらってそれを持ち歩くしかない。


中国の病院で発行される新型コロナウイルス感染の陰性証明書(写真・本人提供)
ところが私のフライトはその検査結果が出る時間まで待っていたら間に合わない。そこで銀川には帰らず夕方の便で北京に行くというマネジャーに、その病院が発行した診察カードを渡して、代わりに陰性証明をもらって写メで送ってもらうことにした。首都である北京へ入るのはチェックがもっと厳しく、必ず飛行機に乗る前に陰性証明を提出しないと飛行機にも乗せてもらえないのだが、銀川のような地方小都市は、着いて空港を出る時に証明があればよいらしい。
銀川に着く頃にはメールで送られて来て、こんなスマホの写真で通るのかなと思ったのだが、検査官はこれをちらっと見ただけで通してくれたのでびっくりした。乗り物に乗る時とかには厳格なIDチェックをするので、犯罪者は国内移動もろくにできないIT大国の中国だが、地方都市での陰性証明自体のチェックはそんなに厳格ではないようだ。
周りの省ではコロナで騒いでいるが、銀川に入ってしまえば平和なものである。大きなショッピングモール以外ではみんなマスクをしてないし、小さなレストランに入店する際の「行動管理アプリや健康管理アプリの提示」もすでに形骸化している。ちょうどライブハウスに北京のバンドが来るというので見に行ったのだが、数百人集まっている会場の入り口では、体温を測るでもなくアプリの提示もなく、数百人がほとんどマスクなどしていない。
都会と地方で変わる監視基準
そんな平和そのものだった銀川も、泉州から戻って2日目に何やらざわざわし始めた。私が映画の撮影で行った泉州が高リスク地域に指定されたのだ。これに対してマネジャーは「あんた、誰かから電話が来てない?」と、とても心配している。


ファンキー末吉氏の行動管理アプリ(写真・本人提供)
「行動管理アプリは何色?」。中国ではこの行動管理アプリの緑色を提示しないと、ショッピングモールや人の集まるところには行けないどころか、駅とか空港にも入れないから列車や飛行機などにも乗ることができないのだ。ここには「泉州に行った」とは書かれているが、但し書きとして「高リスクの時に行ったわけではない」と書かれている。高リスクの時に行った人の行動管理アプリは、赤色もしくは状況に応じて黄色に変わるというので自分は安全だと安心していたら、寧夏の電話番号から私の携帯に着信があった。
「どうしよう……、無視する?」。アシスタントのヤオヤオ君がちょうどいたので聞いてみたら、「コロナ関係だと出なかったらヤバいですよ。下手したら捕まっちゃいます」と言うので、
「じゃあ、おまえが出ろ!」とそのまま丸投げした。彼は「本人は外国人だから、私が代わりに話しています」と話しているのを聞きながら会話を任せていたら、ふと気づくと彼はもうかれこれ1時間近く電話を持ったままいろんなところに電話をかけ直したりして話している。私の中国語力ではここまでするのは無理である。
話の内容はまず「泉州に行ったか」ということで始まる。行ったから電話をかけてきたのであって、実に不毛な会話である。どうやら電話をかけてきた担当の女性は「私の街にあの恐ろしい病が蔓延したらどうしよう」とパニックになっているようである。「これまで平和だったこの街に、高リスク地域から入って来た人間がこんなにたくさんいる、どうしよう、どうしよう」という感じだろうか。
泉州から銀川に戻ってすでに4日が経つ。私が乗って来た飛行機は満席だったわけで、その数百人のみならず、毎日数便がどこかの高リスク地域から飛んで来る。そのすべての乗客にこのように電話をかけて、いろんなことを確認して登録するのが彼女の仕事だとすると、それはそれは気の遠くなるような大変な仕事である。とくに今回担当した相手は外国人である私だ。たまたま電話に出たのが本人でなく中国人だったからいいようなものの、今後はこの外国人と直接話をしなければならない。
ただでさえこの寧夏回族自治区には外国人が少ないのだ。私の知る限り、ここに住む日本人は10人もいない。それに、年齢を63歳(中国では数え年で年齢を言う)と聞いて、「老人じゃないの!! 老人でコロナで重症化しちゃったりしたら私どうすればいいの?!!」みたいな感じなのであろう。最初のうちは「まあ落ち着きなさい」と諭していたヤオヤオ君であるが、そのうちに切れて「人の話を聞け!!」と怒鳴っている。
ヤオヤオ君が伝えたいのは、①泉州で感染が確認された時にはすでに銀川に帰っていた、②泊まっていたホテルは感染者が泊まったホテルとは違う、③しかもそのホテルと宿泊していたホテルは2キロメートル以上離れている、④行動管理アプリは緑色のままで、赤色にも黄色にもなっていない、⑤ワクチン接種を3回も受けていて、銀川に帰る時のPCR検査も陰性だった、だ。結論として彼が伝えたいのは、「この外国人はまったく安全なので隔離をする必要はない」ということである。
「とにかく今日から自主隔離しなさい!」
私が「濃厚接触者」に指定されるとか、万が一陽性であったりすると、彼どころか私が通っているドラムスクールも閉めさせられるし、前日に行ったバーやレストラン、そして何より何百人も集まっていたそのライブハウスの全員が「濃厚接触者」となってしまう。この「高リスク地区に行ったけれども、それはその場所が高リスク地区に指定される前であった」ということを、誰がどのように「濃厚接触者」かどうかと判断するのだろうか。機械的に判断するのならば、この行動管理アプリが示すように私は「緑色」である。しかしこの担当者の判断は……。
このパニックになっている担当者は、ヤオヤオ君に対してヒステリックにこんなことも言う。
「我建议(私はアドバイスする)!!あんたも今日から自主隔離しなさい!!」。自分の愛するこの街を恐ろしい病から守りたいのであろう。「疑わしきは隔離しろ」であろうが、国家が彼に「お前は隔離だ!!」と強制的にそうさせるのなら言うことを聞くが、どうしてこの一担当者の「建议(アドバイス)」によって自分の自由を自分で奪わなければならないのか……。
ヤオヤオ君は、その担当者の上司にも電話をかけて確認している。それは、①もし隔離される場合は隔離施設なのか自宅なのか、②隔離施設の場合、費用は誰が払うのか、③隔離の日数は何日間か、④自分も含めて、私との接触者を隔離、あるいは報告する義務があるのか、だ。とはいえ、結局、上と下とは言うことが違うのだ。上は「自宅隔離は1週間、周囲の人間は隔離しない」という明確なものだった。しかしパニックを起こしている担当者は、とにかくこんな危険な人間は1日でも長く隔離しておきたいのだろう。私の代わりに電話を受けているヤオヤオ君も、濃厚接触者なのだから隔離してしまいたいのだ。
とはいえ、どうやら決定権は現場ではなく上司のほうにあるようで、世界最新鋭のデジタルシステムを使ってでも、決定するのは「人間」だ。しかも、その判断材料は「電話をかけて質問する」という超アナログなものである。話が決まったようで、ヤオヤオ君は私の住むアパートの「社区の長」とやらに連絡を取る。今後1週間、私はその人の監視下に置かれるのだ。電話をかけてきた担当者はおそらく、私をその「社区の長」に引き渡せば仕事は終わりとなり、改めて山ほどいる別の人間に連絡を取って同じことをするのだろう。
ヤオヤオ君は「家に帰ったら社区の長が訪ねて来ますから」と言うのに、次には「じゃあ、メシを食って帰りましょうか」と言う。なんと、ユルい! 「今から隔離される人間が外食なんてして大丈夫なのか」と聞くものの、「大丈夫ですよ、ファンキーさんが濃厚接触者であるわけはないじゃないですか」と返ってくる。レストランに行っても、本来はすべき行動管理アプリで行う行動チェックは形骸化しているので、国家としても私の動きを追跡することはできない。先進的なITシステムを構築しても、そのシステムを誰も使わなかったらまったく役に立たないというわけだ。
上に政策があれば下に対策あり
確かに、私が感染している可能性はとてつもなく低いと思うがゼロではない。私に電話をかけた担当者は「ゼロじゃないんだから」と最悪の可能性、つまり私は「濃厚接触者である」という前提で話をしてきたが、電話を取ったヤオヤオ君は「絶対大丈夫」という前提で行動する。「国が今日から1週間自宅で隔離しろ」と言うのだからそれさえ守っておけばよい。家に帰る前にどこによって何をしようがそれはどうでもよい、ということである。まさに「上に政策があれば、下に対策あり」、だ。


隔離が始まる直前、住居のある「社区」の長がこのような誓約書を持ってきて、サインさせられる(写真・本人提供)
1週間は外食ができないので、たっぷり外食を堪能した後に部屋に帰ったら「社区の長」が訪ねて来た。誓約書のようなものにサインさせられ、「この紙をドアに貼りますからね」と言い残して帰って行った。その赤い紙の写真を撮り忘れたので、「社区の長」が帰ったのを見計らってドアを開けてみたら、なんとその紙はドアの中央に貼られていたのではなく、ドアと壁をまたいで貼られていたのである。つまりドアがその紙によって封印されていたわけで、私がドアを開けたので留めているセロテープが半分剥がれてしまい、片方だけでぶらんぶらんとドアに張り付いた状態になってしまった。


隔離者の住居のドアを開けられないように貼られる赤紙(写真・本人提供)
この赤い紙には、こう書かれている。「この部屋には健康を監視する人間がいます。みんなの健康と自分を守るため、相互に監督しましょう」。相互に監督しましょう? これは私に見せるために貼っているのではなく、ご近所さんに見せるために貼っているのだから、「監督」とはすなわち「ご近所さんに監視させる」ということである。まるで文化大革命時代の密告制度……。気分が重くなってくる。
困ったものである。私はただでさえ金髪の長髪でアヤシイ人間だ。そんな人間が住む家のドアを封印していた赤い紙のセロテープが剥がれてしまったので、アヤシイ人間が隔離を嫌がって脱出して遊びに出ちゃったみたいと思われないか。そこでひらめいた。「ゴミは回収に来てくれる」と言っていたので、家中のゴミをかき集めてドアの外に置いた。これなら「ゴミを出すためにドアを開けたので、その際に剥がれてしまった」と思ってくれるだろう……と。
翌朝は防護服を着た人が訪ねて来た。綿棒を喉に突っ込んで検査をした後、WeChatでこのグループをフォローしろ、と言われる。フォローをしたら、表示されるハンドルネームを本名に書き換えて、毎日2回、体温をここにアップしろと言う。前回の隔離と同じく、ここで隔離されている人たちのグループなのであろう。132人もいる……。
担当者のフットワークを考えると、132人は銀川市全体の感染者ではないだろう。おそらくこの社区だけで、これだけの人間が隔離されて監視されているのだろう。では、銀川全体では一体何人が隔離されているのだろうか。
そして、それは銀川だけの話ではない。泉州から、そしてその他の高リスク地区からは毎日たくさんの便がたくさんの都市に向かって飛んでいる。そのすべての都市で同じことが行われているのである。
私のような人間全員を、国を挙げてこうして隔離して監視下に置いている、というのだから、それはそれは膨大な数になるだろう。報道によれば、今全中国で4000万人の人々が「ゼロコロナ政策」の下、自由を奪われていると言う。
国家のやることは「絶対に受け入れる」
それに対して中国の国民は、すでに数年にわたるストレスは溜まっているにしても、そんな政策の国家に不満があるようには見えない。国家のやることは「絶対」なので、それに意義を唱える人間はいないし、ストレスが溜まるのはコロナが悪いのであって、決して国家の政策が悪いのではないのだ、と思っているように見える。
とくにヤオヤオ君のような1980年代以降に生まれた若者たちは、それこそ諸手を挙げて国を崇拝しているように見える。物心ついた頃には経済成長の真っ只中、もしくは生まれた時にはすでに祖国は世界有数の裕福な国家になっていた。それを成し遂げたのは中国共産党である。この国の建国記念日「国慶節」には、そんな若者たちが諸手を挙げて「偉大なる祖国」をSNSで褒め称える。別に誰に強要されたものではない。彼らは本気でそう思っているのだ。この国の「愛国教育」の賜物であろう。
監視されていることは知っている。でもそのおかげで犯罪は非常に少なくなって、国民はその良い面だけを見て納得している。それを実現してくれたのが中国共産党なのだ。「幸せな監視社会」が推し進める「ゼロコロナ政策」。それは中国という国家が、「コロナと共存」などと言わずに真っ向からコロナに戦いを仕掛け、完膚なきまでにそれを叩きのめそうとしているように見える。そして国民が一丸となって国家と一緒にそれと戦っている。
「欲しがりません、勝つまでは」。「自由」など欲しがらない! そんなものはコロナに完全勝利した時に手にするものなのだ……。それが例え「制限付きの自由」であったとしても。
その後、隔離6日目にしてヤオヤオ君から電話があり「隔離が終了した」と言う。「明日が7日目だから隔離終了は明日じゃないの?」と聞くが、「今終了です。すぐに社区警務室に行きますから、誓約書とドアに貼られた赤い紙を持って降りて来て下さい」というわけで、急いで降りて行って迎えに来たヤオヤオ君の車に飛び乗った。
通常は健康管理アプリによって最後の陰性証明をダウンロードしてWeChatのグループに送信、そのグループに通知が来て隔離終了という流れになるのだが、外国人の私はその健康管理アプリの実名認証がどうしてもうまくいかないのだ。
社区警務室に行って赤い紙を渡して、持って来た誓約書2枚にサインをして、1枚をもらっておしまい。よく見ると、その誓約書に書かれているパスポートナンバーは今のナンバーではなく、更新前の古いナンバーだった。誰がどうやって調べたのかわからないが、どこかに電話番号とひも付けされていた古いパスポートナンバーですべての書類を作ったのだろう。実名認証がどうしてもうまくいかないわけである。
人的な「お役所仕事」で隔離から解放
どうして隔離が1日早くなったかというと、ヤオヤオ君が毎日ここに電話して、この外国人の陰性証明の取得から通常行われる中国人とは違う隔離解除の方法について質問責めにし、そして「本来ならば隔離は泉州に行った日から数えて7日目であるべきで、隔離期間はとっくに終わっている」ということをとうとうと説明していたのだという。そのため、きっと担当者も面倒くさくなって、「陰性なのだからいいだろう」ということになったのだろう。


隔離解除を手にするファンキー末吉氏(写真・本人提供)
世界最新のITTシステムを使っていても、それに情報を打ち込む人間が間違えてしまったらそのシステムは使えない。そして、隔離終了を判断するのが機械ではなくて人間ならば、説得によって隔離を早くすることもできるという「穴だらけ」のシステムであったのだ。
そして、なぜこの社区警務室に急いでやって来たかというと、担当者が午後5時で帰ってしまうからだ。午後5時までにここに来ないと、担当者が明日ここにやって来る朝9時まで隔離解除ができないためである。最新のIT技術を使いながら隔離をされて、解除はごく普通のお役所仕事によって解除されたのであった。
無事に隔離を終えて久しぶりに外食をして酒を飲み、酔い潰れて寝て次の日エレベーターに乗ったら、途中階から乗って来たまったく面識のないおばさんが、私を見てこう言った。「あんた隔離は?」。私はびっくりして「終わりましたけど」と答えたが、「いつ終わったの?」と聞く。社区警務室でもらったサインした書類を見せたら、おばさんは納得してエレベーターを降りた。
どこの誰なのかはまったくわからないが、おばさんは私が隔離されていたことを知っている。あの赤い紙には「みんなで監視しよう」ということが書いてあった。まるで文化大革命の密告制度である。至る所に監視カメラがあり、国家による最先端IT技術での監視よりも、私にとってはこちらの監視システムのほうが数段、おそろしく感じるのだ。