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大幅値上げに契約お断り、「電力難民」急増の危機

関西の企業が公正取引委員会に独禁法違反で申告
岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2022年05月24日
値上げを受け入れなければ、契約打ち切り。電力業界で起こる前代未聞の異常事態に迫る。
ウクライナ戦争後、「資源大国」であるロシアは世界のエネルギー秩序を崩壊させた。エネルギー資源の9割を輸入に依存する「資源小国」の日本は無傷ではいられない。


電気料金の値上げを受け入れるか、解約の申し込みをしていただきたい。さもなくば、当社側で契約を打ち切らせてもらいます――。
東京電力グループの新電力会社テプコカスタマーサービス(東京・港区、以下TCS)による一方的な電気料金の大幅値上げの提示が独占禁止法違反(優越的地位の濫用)に当たるとして、関西地区の顧客企業が公正取引委員会に排除措置命令を出すように求めていることがわかった。
公取委に申告書が送付されたのは4月27日。関係者によれば、申告に加わった企業は5月中旬現在までに400社を超えるという。
TCSは卸電力価格高騰を理由として、従来の2倍を上回る大幅値上げに動いた。4月7日付で顧客宛てに出した文書によれば、「このたびの東欧情勢を踏まえると電源調達費用の上昇が解消される見込みが立たない状況になっている」と書かれている。
趣旨は大幅値上げだが、指定の期限内に値上げに承諾しなければ契約解除も辞さないとしている。
売れば売るほど赤字拡大
「関西地区あるいは全国規模で事業からの撤退を進めようとしていて、その一環として大幅な値上げを顧客に通告しているということか」との東洋経済の質問に対し、TCSの広報担当者は「事業の撤退を進める一環として料金の見直しをお願いしているわけではない」と回答している。
しかし、関西地区では値上げの通知は広範囲の顧客に送られているもようで、同社の対応に不信感を抱いている企業は少なくない。
値上げの背景には、卸電力価格の高騰がある。TCSのように、自社で発電所を持たない新電力会社は、電力の調達量の多くを卸電力市場に依存している。
発電用燃料である液化天然ガス(LNG)価格の高騰に端を発した、昨秋からの日本卸電力取引所における卸電力価格の上昇は、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機にさらに加速した。3月の平均価格は1キロワット時当たり26円に跳ね上がった。昨年の同じ月の4倍を上回る超高値だ。
企業に供給される電力(高圧契約)の小売価格は1キロワット時十数円程度であるため、卸電力取引所に多くを依存する新電力会社は売れば売るほど赤字が拡大する。その結果、新規の顧客獲得を取りやめる事例が続出。撤退や倒産に追い込まれた新電力も急増している。
他方、新電力の電力調達のポートフォリオには、価格上昇が比較的緩やかな大手電力会社や大手企業の自家発電設備などからの相対調達が含まれているケースもある。卸電力価格の高騰がどの程度原価高に直結するかは会社ごとに異なる。そのため、卸電力価格高騰から受ける影響はさまざまであり、営業エリアによっても異なる。
新電力会社の多くで契約の維持が困難に直面していることは確かだが、値上げに際して丁寧な説明が必要であることは言うまでもない。解約をちらつかせた大幅値上げの提示は、あまりに一方的だと言わざるをえない。
セーフティーネットの契約件数は急増
なお、新電力会社が倒産したり、顧客の料金滞納などで契約を打ち切られたりした場合、大手電力会社グループの送配電会社が「最終保障供給」と呼ぶ特別なセーフティーネットを用意している。同契約を結べば、従来と同様に電気の供給を受け続けることができる。実際に最終保障供給の契約件数は急増している。
ただ、大手電力会社の通常の料金メニューと比べると2割程度割高となる。新電力と契約する顧客の多くは大手電力の通常料金よりも割安な条件で契約を結んでいるため、最終保障契約への切り替えは大幅なコスト増になる。実質的な大幅値上げを伴う最終保障供給料金制度の見直しも経済産業省で検討されている。
今回、TCSはほかの電力会社への切り替えもしくは送配電会社への最終保障供給契約の申し込みを顧客に促している。ただ、他社が手放した顧客の受け入れに応じる電力会社は大手、新電力とも極めて少ない。大幅値上げを通告された企業はそれを受け入れるか、割高な最終保障供給契約を結ぶ以外に手だてがないのが実情だ。
「電気代が2倍以上に上がったら、やっていけない」
東大阪市でプラスチック成形加工業を営む足立鉄工所の雲井克典工場長は、TCSから届いた通知文の内容を見て「とても受け入れられない」と話した。
送配電会社も警戒を強める
金型の製作や成形品の製造で電気代がかかるため、少しでも安くしたいという思いから3年前にお得な料金を売りにしていたTCSと契約を結んだ。ところが、今回の値上げにより、1カ月の電気代は従来の2倍を上回る50万円以上に跳ね上がる見通しだという。同社はTCSの通知内容を見て、関西電力の送配電子会社に最終保障供給契約に関する相談をした。
しかし、雲井工場長によれば、関電の送配電子会社の対応は予想外だったという。「相手先の小売電気事業者が倒産したり、先方から実際に契約を解除されたりしたならば相談をお受けするが、電力の供給を受けている状況での相談には応じかねるという姿勢だった」と雲井工場長は振り返る。
送配電会社の最終保障供給契約の料金水準は大手電力会社の標準契約と比べて2割程度割高だ。とはいえ、現在の燃料価格を前提とした場合、送配電会社であってもコストに見合わず、契約が増えるほど赤字がかさむ。そのため送配電会社側も、安易に顧客の受け皿とされることに警戒感を強めているようだ。今回切り捨ての憂き目に遭った企業の多くは、こうした電力業界特有の事情に翻弄されている。
TCSに顧客を仲介し、今回公取委への申告書の代表申告者となった日本電気保安協会(大阪市)によれば、TCSによる4月の値上げ通告は昨年11月に次いで2度目だ。「昨今の燃料費高騰分も含めると実際の料金水準は最初の値上げ以前の3~4倍になるケースも少なくない」という。
TCSの顧客宛て通知文によれば、6月13日までに値上げを承諾しないまたは解約に応じない場合には、6月30日をもって同社側で解約するとしている。
その根拠として同社は電気需給約款の記述内容を引用している。そこには発電用燃料費や卸電力価格の高騰などが生じ、その状態が解消される見込みが立たない場合は料金を適当な水準に見直すため、顧客と同社で協議すること、そして協議が不調のまま推移した場合、契約期間中であっても電力の契約を解除できるとしている。
電話してもつながらない
しかし、こうしたTCSの姿勢について、日本電気保安協会の代理人弁護士は優越的な地位の濫用に当たると指摘する。
「TCSと電力の契約を結んでいる企業は、ほかの電力会社が新規受け付け停止の措置を取っている現在、取引先を変更できる余地はほとんどなく、TCSとの取引の継続が困難になることは経営上大きな支障を来す」
そのうえで著しく高い単価での取引を要請し、企業側がこれを受け入れざるをえない場合には、優越的地位の濫用として問題になるという。値上げに際して顧客との間で十分な協議が行われたかも問われるという。
東洋経済の取材に対してTCSの広報担当者は「お客様にご理解いただけるよう、引き続き丁寧に説明していく」と答えた。
しかし、前出の雲井工場長は「電話してもつながらない。なぜ倍を上回る値上げが必要なのかについても、満足な説明はない」と答えている。
契約期間中であるにもかかわらず、解約の通知をいきなり顧客に送りつける新電力もある。丸紅新電力は3月、電力調達価格の高騰に加え、足元での電力供給量を確保することが難しいことを理由として、「6月30日をもって契約を終了する」という通知を一部の顧客企業に送付した。受け取った東日本の企業は、運よく切り替え先の新電力を見つけ出して新たに契約を結び、難を逃れた。
大手電力会社の対応も厳しい。現在、多くの大手電力は、新電力の顧客からの契約申し込み受け付けを事実上「お断り」している。下表では大手10電力会社の対応状況について示した。北海道電力と沖縄電力を除く8社で、申し込み受け付け自体を中止、もしくは受け付けはしているものの実態としては対応困難となっている。


実はそうした実態は最近になるまで明らかにされていなかった。4月15日の記者会見で「(ホームページ上で)開示するのが望ましい」と萩生田光一経産相がコメントするまで大手各社はそうした対応の事実をホームページで開示していなかった。
大手電力の多くも申し込みお断り
新電力からの契約切り替えの受け付けを停止している理由について、大手電力会社は東洋経済の質問に次のように回答している。
「燃料価格が高騰している現状で追加供給力を市場から調達すると、調達コストを加味した料金は、標準的な小売料金の1.2倍の最終保障供給料金よりも高くなる可能性がある。また、その状況下で調達コストよりも安い価格で契約すると不当廉売に当たるおそれがあると政府の審議会でも指摘されている」(九州電力)
そうした理由により、大手電力の多くが新電力の顧客の契約切り替えを受け付けていない。なお、中部電力は「新たな選択肢となりえる料金メニューの検討を進めており、5月中には顧客への提案を開始したい」と東洋経済の質問に答えている。
このように大手の一部で変化の兆しはあるが、企業が入り込んだトンネルの出口は見えない。電力難民の救済は、いまだ手探りの状態だ。
因果応報では?