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「台湾に軍事関与」バイデン発言が“コスパ抜群”と言える理由。「政策転換ではない」のが妙味で…

大統領就任後初めてアジア諸国を歴訪したバイデン米大統領は5月23日、東京での日米首脳会談後の記者会見で、中国が台湾を攻撃した場合の軍事的関与を明言した。
多くのメディアはこの発言を、歴代米政権が維持してきた「あいまい戦略」の「転換」を示唆したと報じる。
しかし筆者は、政策転換と受けとられかねない表現をすることで、中国の脅威を際立たせる効果を意識した、コストパフォーマンス抜群の「口先介入」と見ている。
その先には「一つの中国」政策の空洞化という狙いがちらつく。
効果を計算した「確信犯」
まず、バイデン氏が約30分の記者会見でどう発言したかトレースしよう。
バイデン氏は「台湾防衛のため、あなたは軍事的に関与するつもりか」とアメリカの記者に問われ、「イエス」と回答。さらに「関与する?」と念を押されると、「それが我々の約束だ」と述べた。
このやり取りに先立ち、バイデン氏はウクライナ問題について、「ロシアは我々が科した制裁によって長期的な代償を払わざるを得ない。制裁を継続しなければ、どういうメッセージを中国に送ることになるか。台湾を力でとろうとするかもしれない」と述べ、ロシアへの厳しい対応が中国の武力行使への抑止力になるとの論理を展開した。
そして、「我々は『一つの中国』政策を支持している。だからと言って、力で台湾を奪うことを正当化するのは適切ではない」と、中国の武力行使にくぎを刺した。
バイデン発言は途中でつかえたり言い直したりが多く、クリアな説明とは言えない。
ただ、発言の脈絡からみて、思いつきや失言ではなく、「政策転換」と受けとられることも計算に入れた“確信犯”だろう。
バイデン氏は翌5月24日に「政策を転換したのか」と記者から問われ、「ノー」と答えた。オースティン米国防長官も「政策に変更はない」と強調、「軍事関与」とは台湾への防衛兵器の供与をうたった台湾関係法による関与を意味すると弁解した。
記者会見でのやりとりだから、訂正は可能だ。政策変更を否定すれば、中国との火ダネになり続けることもなく、中国の脅威だけが際立ち、コストパフォーマンスはいい。
「あいまい戦略」を「否定しない戦略」
「あいまい戦略」とは、中国の武力行使への対応を一切明らかにしない、アメリカの対中基本政策のひとつだ。
中国には「一つの中国」政策を維持するとの安心感を与え、台湾に対しては「武力で台湾を守る」のを否定しないことで、中国の武力行使を抑止する「二重の効果」がある。
一方、ウクライナ問題についてバイデン氏は2021年12月、ホワイトハウスで米軍のウクライナ投入を「検討していない」と公言した。
その理由について、バイデン氏は別の機会に、(1)ウクライナは同盟国ではない(2)ロシアは核大国である、と語った。不介入を明確化したという意味では「あいまい戦略」と逆の「明確戦略」とも言える。
この発言がプーチンに侵攻を決断させたとして、いまも内外から批判を浴びている。
他方、歴代米政権が維持してきた「あいまい戦略」は、米中対立が激化するなかで「北京に誤ったシグナルを送る」ことになるとして、議会や識者から政策転換を求める声が上がり続けてきた。
バイデン氏は2021年中に少なくとも2回、「台湾防衛」を明言している。いずれも発言の直後、ホワイトハウスや国務省が「政策転換ではない」と、火消しに追われた。ホワイトハウスでアジア政策を統括するカート・キャンベル・インド太平洋調整官も「あいまい戦略」の変更を否定している。
今回のバイデン発言は、ウクライナ戦争に対する「明確戦略」と、台湾に対する「あいまい戦略」への批判を意識しながら、政策変更と受けとられかねないギリギリのラインを狙ったのではないか。
そう発言することで、台湾有事の切迫感を高められるからだ。
明確な発言を何度もくり返せば、「あいまい戦略」自体が意味を失っていくが、それでも「あいまい戦略」を否定する選択はしないだろう。核保有国である中国との衝突を覚悟しなければならず、それはバイデン政権にとって大きな重荷になる。
二重基準(ダブルスタンダード)そのものと言える「あいまい戦略」は便利なツールだけに、簡単には手放せないのだ。
「あいまい戦略」を維持したまま、米台高官の相互訪問や米陸軍顧問団の台湾進駐などを実現することで、アメリカは「一つの中国」政策の空洞化を狙っている。
「代理戦争」も軍事関与の一つ
では、バイデン発言にある「軍事関与」とは、具体的に何を意味するのだろう。
「軍事関与」という言葉からは、米軍が派兵され、中国軍と直接対峙するイメージが浮かぶが、その意味は幅広い。
例えば、ロシア・ウクライナ戦争でアメリカは、米軍を投入する代わりに大量の先進兵器や重火器をウクライナに供与。衛星情報をもとにロシア軍の行動を常時監視し、ウクライナ軍に情報提供を続けている。派兵なき「代理戦争」だが、それも軍事関与のひとつだ。
「代理戦争」はアメリカにとって多くのメリットがある。
第1は、アメリカの軍産複合体の利益だ。ウクライナへの兵器供与では、携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」など1基1000万円もする高額兵器の需要が急増し、業界は「戦争景気」に沸いている。
第2に、代理戦争であれば米兵が直接手を汚さずに済む。アメリカ国内にはベトナム、アフガニスタン、イラク戦争など米兵を投入した「直接参戦」への忌避感が強い。
「アメリカ第一」の空気が依然支配的なアメリカ社会では、台湾有事についても「アジアの戦争はアジア人同士で」との主張は説得力を持つはずだ。
米軍制服トップも代理戦争を示唆
台湾有事でも、ウクライナ同様の「代理戦争」を示唆する発言がバイデン政権内部から出ている。
米軍制服トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は4月7日、ウクライナ戦費などに関する上院軍事委員会の公聴会で、次のように証言した。
「最善の台湾防衛は、台湾人自身が行うことだ。例えばウクライナでしているように、我々は台湾を助けられる。
ウクライナからは本当に多くの教訓を得たが、それは中国がきわめて深刻に受けとめている教訓でもある。
(台湾本島を攻略するには)台湾海峡を横断し、広い山岳地帯で水陸両用作戦を展開したり、数百万人が住む台北市を空爆したりすることになる。
台湾は防衛可能な島だ。中国に対する最善の方法は、接近拒否抑止力を通じて、台湾攻撃が『非常に、非常に達成困難な目標』であることを、彼ら(中国側)に思い知らせることだ」
ミリー氏は「代理戦争」の詳細を明らかにしていない。最終決定ではないし、ホワイトハウスや国務省、議会の意向も明確ではない。
ただ、少なくとも米軍内部では、台湾有事でも米軍を派兵せず「代理戦争」が可能かどうか検討している可能性がある。
ロシア・ウクライナ戦争が台湾問題に与えた教訓の一つが、「代理戦争」という軍事関与だ。台湾はアメリカの同盟国ではなく、中国は核保有国であるという2つの条件は、ウクライナ(への米軍投入の可能性を否定した理由)と重なる。
「言行一致」求める中国
中国の台湾問題研究者で筆者と旧知の陳鴻斌・元上海国際問題研究院研究員は、「米軍の最新表明は台湾情勢に影響する」と題したシンガポール紙への寄稿で、ミリー氏の「台湾を軍事支援する」という表現を、アメリカの「あいまい戦略」から「明確戦略」への政策転換と解釈する。
また、陳氏は「アメリカはウクライナに直接派兵せず、軍事支援と包括的な対ロ制裁という間接的方法によって目標を達成した」と指摘し、「代理戦争」の形での軍事関与が効果を発揮しているとみる。
中国外交の実務上のトップである楊潔篪・共産党中央政治局委員は5月18日、アメリカのサリバン大統領補佐官と電話会談。
習近平国家主席とバイデン大統領は重要なコンセンサス(意見一致)に達しているのに、アメリカでは台湾問題について「誤った言動がみられる」と発言し、言行一致を求めている。バイデン氏のアジア歴訪に先立ち、クギを刺した形だ。
3度目の米中オンライン首脳会談が近く行われるとの観測が出ているが、この会談が実現すれば、バイデン氏が習氏に約束したとされる「中国と衝突する意思はない」など「四不一無意」の厳格な履行を、習氏は求めるはずだ。
中国は東京での日米首脳会談について、すでに対日批判を開始している。中国包囲と排除を狙った日米豪印の枠組み「クアッド(Quad)」や「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」をめぐっても、岸田政権に対する中国の視線は一段と厳しさを増すだろう。
(文・岡田充)
岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。