プーチンの大戦略的失敗で崩壊に向かうCSTO
今日は、日テレニュース11月24日から見ていきましょう。
<プーチン大統領は23日、ベラルーシやアルメニアなど旧
ソ連圏6か国の軍事同盟であるCSTO(=集団安全保障条約
機構)の首脳会議に出席しました。
この中でアルメニアのパシニャン首相は、隣国アゼルバイ
ジャンとの衝突にCSTOが介入する役割を果たさなかった
と不満を述べ、一部の合意への署名を拒否しました。
また、プーチン大統領がウクライナ情勢について説明した
のに対して、カザフスタンのトカエフ大統領は、「和平を
模索する時が来た」と苦言を呈しました。
トカエフ大統領はこれまでも軍事侵攻には批判的でしたが、
ウクライナ侵攻によってCSTOの結束に乱れが生じている
とも指摘され、プーチン大統領の求心力低下が浮き彫りと
なっています。>
この記事を読んで、「なるほど、そうなっているのか!」
と思った人は、かなり世界情勢に精通されている方です。
要は、「ウクライナ戦争長期化で、プーチンの求心力が低
下し、CSTOに亀裂が入っている」という話なのですが。
解説が必要でしょう。
▼CSTOとは?
CSTO(=集団安全保障条約機構)は、旧ソ連諸国が1992
年に作った軍事同盟です。
加盟国は、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタ
ン、キルギス、タジキスタン。
CSTOの目的は、なんでしょうか?
ウィキをみてみましょう。
<集団安全保障条約機構の目的は、条約加盟国の国家安全
保障、並びにその領土保全である。
ある加盟国に脅威が発生した場合、他の加盟国は、軍事援
助を含む必要な援助を提供する義務を有する。>
ー-
要するに、一つの加盟国が攻撃されたら、他の加盟国は、
協力して攻撃された加盟国を守ると。
▼アルメニア、不満の背景
NATOの実態は、トランプさんがいっていたように、「
アメリカが他の全加盟国を守る」ということでしょう。
同じように集団安全保障条約機構(CSTO)は、実質「
ロシアが、他の全加盟国を守る」というものです。
ロシアは、CSTOで旧ソ連圏の影響力を保つことができ
る。
他の加盟国は、ロシアに守ってもらうことができる。
一応、「WIN─WIN」の関係ができあがっていたのです。
ところが、最近問題が多くなっています。
ロシアは2月24日、ウクライナへの侵攻を開始しました。
現状劣勢で、他のCSTO加盟国を助ける余裕はないよう
です。
たとえば。
CSTO加盟国のアルメニアと、CSTO非加盟国の旧ソ連
国アゼルバイジャンは、ナゴルノ・カラバフの領有権を
めぐって対立をつづけています。
2020年にも戦争がありましたが、2022年9月にも再燃し
たのです。
ニューズウィーク9月20日を見てみましょう。
<ロシアとウクライナの戦争が泥沼化するなか、旧ソ連国
のアルメニアとアゼルバイジャンの国境紛争が再燃してい
る。
係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって対立してきた両国軍
が、9月12日から13日にかけて国境地帯で再び交戦状態と
なり、双方合わせて数十人が死亡。
アルメニアのパシニャン首相は13日、ロシアのプーチン大
統領と電話協議をし、ロシアと旧ソ連構成国によるロシア
主導の集団安全保障条約機構(CSTO)に紛争への介入を
申し入れた。>
──
パシニャン首相は、CSTOの介入を求めました。
当然ですね。
そのためのCSTOですから。
ところが、CSTOの事実上の支配者であるロシアは、2020
年のナゴルノ・カラバフ紛争時に、同盟国アルメニアを見
捨てた過去があります。
<2020年9月にも、ナゴルノ・カラバフ地方で両国の大規
模な軍事衝突が勃発。この際もCSTO加盟国であるアルメ
ニアはロシアに介入を求めたが、ロシアは軍事介入せず中
立を維持し、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンが事
実上の勝者となった。
今回、アルメニア国防省はロシアが「状況を安定させる」
ため協働することに合意したと発表。
ウクライナで苦戦するロシアにアルメニアを助ける余力は
あるのか。>
──
さて、ロシアとロシアが支配するCSTOは、アルメニアを
助けたのでしょうか?
今回も助けなかったのです。
結果、アルメニアでは、「役に立たないCSTOから脱退し
ろ!!」という大規模デモが起こりました。
アルメニアがCSTOにいても、ロシアは助けていないので、
近い将来脱退する可能性がでてきています。
こういう背景を知った上で、あらためて日テレニュース11
月24日の記事に戻ってみましょう。
<プーチン大統領は23日、ベラルーシやアルメニアなど旧
ソ連圏6か国の軍事同盟であるCSTO(=集団安全保障条約
機構)の首脳会議に出席しました。
この中でアルメニアのパシニャン首相は、隣国アゼルバイ
ジャンとの衝突にCSTOが介入する役割を果たさなかった
と不満を述べ、一部の合意への署名を拒否しました。>
ー-
アルメニアのパシニャン首相が署名を拒否した理由がわか
るでしょう。
ちなみに、プーチンがアルメニアをサポートできない理由
は、ウクライナ問題以外にもあります。
アルメニアと戦ったアゼルバイジャンの背後にはトルコが
います。
トルコが、アゼルバイジャンにドローンを提供した。
そのドローンが、アルメニアの戦車部隊に壊滅的打撃を与
えた。
そして、そのトルコのエルドアン大統領は、ロシアとウク
ライナの仲介役をリアルにしている唯一の人物です。
(一方で、ウクライナ軍にドローンを提供する狡猾な側面
もあります。)
プーチンは、独裁者仲間で影響力のあるエルドアンのトル
コと対立したくないのです。
ま、アルメニアにとっては、そんなことは知ったこっちゃ
ありません。
「ロシアは義務を果たしてくれ!」ということですね。
▼タジキスタンとキルギスの不満
ロシアの態度に不満を持っているのは、アルメニアだけで
はありません。
中央アジアのキルギスとタジキスタンも大きな不満をもっ
ています。
実をいうと、CSTOの加盟国であるキルギスとタジキスタ
ンは9月、一時戦争状態になっているのです。
毎日新聞9月22日。
<複雑に引かれた国境線を巡り対立してきた中央アジアの
キルギスとタジキスタンの治安当局は14日から16日にかけ
て、国境付近で断続的に衝突した。キルギスは59人が死亡
し、180人以上が負傷したと発表し、タジキスタンも38人
の犠牲者が出たことを明かしている。>
──
CSTOの支配者であるロシアは、加盟国同士が戦争状態に
なったのを放置しました。
タジキスタンのラフモン大統領は10月、面と向かってプー
チンを批判しました。
産経新聞10月15日。
<中央アジアの旧ソ連構成国、タジキスタンのラフモン大
統領は14日、カザフスタンの首都アスタナで開かれたロ
シアと中央アジア5カ国の首脳会議で、プーチン露大統領
に対し、
「旧ソ連時代のように中央アジア諸国を扱わないでほしい」
と述べ、タジクは属国扱いではない対等な国家関係を望ん
でいると表明した。
会議の公開部分の発言をタジクメディアが伝えた。>
ー-
プーチンは、タジキスタンを「属国の小国」と見ています。
「属国」の長が、面と向かってプーチンを批判した。
まさに「異例のできごと」です。
▼崩壊にむかうCSTO
ここまでをまとめると、
・CSTOは、ロシアを中心とする集団安全保障条約機構
である。
・CSTO加盟国であるアルメニアは、隣国アゼルバイジ
ャンと戦争状態になり、CSTOに助けを求めるが、ロシ
アは、アルメニアを助けていない。
・CSTO加盟国のキルギスとタジキスタンは9月、一時
戦争状態になったが、CSTOのトップロシアは、何もし
なかった。
というわけで、どこからどうみても、ロシアを中心とする
CSTOは機能不全に陥っています。
近い将来、脱退国が相次いで、事実上の解体状態になって
も、誰も驚かないでしょう。
プーチンは、ウクライナへの影響力を確保するために、侵
攻しました。
結果、ロシア自体が弱体化し、カザフスタン、アルメニア、
キルギス、タジキスタンなどが、ロシアから離れてきてい
る。
旧ソ連圏への影響力強化を目指した侵攻の結果、逆に影響
力を大幅に減らす結果になっているのです。
私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、
「ウクライナに侵攻すれば、ロシアの戦略的敗北は不可避」
といいつづけてきました。
侵攻の結果、旧ソ連圏での影響力が大幅に減ったというの
も、「戦略的敗北」の一つです。
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