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安倍総理の志は死なない!!

脱炭素の大号令、実は上級国民の「綺麗事」に過ぎなかった? BEVを通して再考する

北河定保(自動車ジャーナリスト)


世界に広がる「グリーン・ウォッシュ」とは何か
 すでに世界各国でバッテリーEV(BEV)が販売され、欧州、中国と米国では販売台数が急増している。フォーブス誌は、


「気候危機が広く理解されるようになると同時に、環境意識を高く持つ消費者も急増。消費者側がブランドに対して、より緊迫感をもった行動を要求するきっかけとなり、企業の気候危機対策が加速する一員にもなっている」
と状況を分析する一方で、
「グリーン・ウォッシュである、と指摘されるケースも増加している。グリーン・ウォッシュとは、一見、環境に配慮しているように見せかけて、実態はそうではなく、環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指す」
と警鐘も鳴らす。
 例えば2019年には衣料品のH&Mと格安航空会社のライアンエアーが公的機関から「グリーン・ウォッシュである」との指摘を受けた。
 最近、欧州ではBEVの高性能スポーツカーや大型SUVが登場し、米国では最量販カテゴリーであるピックアップ・トラックのBEVが発売された。
 電動化が本格化する以前、欧州の自動車会社各社は「ダウンサイジング」を省燃費技術として大々的に宣伝していたが、その思想はいつの間に姿を消した。
ピックアップBEV、環境への負荷は?
 ロイター誌は、
「コロラド州の高速道路でテスラを数台見かけたが、それ以上にリビアン社など多くのトラックを見た。テキサス州ではフォード、シボレー、ラムズ、コロラド州ではトヨタのタコマ、ジープやブロンコのほかにSUVも多い」
「広大で町と町の間の距離が長い米国西部でも、ガソリンスタンドを見つけることは簡単だが、充電ステーションはあまり見ない」
と、米国自動車の印象を述べている。
 そして米国のザ・ドライブ誌は、ピックアップ・トラックのBEVは「グリーン・ウォッシュ」だと指摘している。
 その理由は、
1. 米国の電力の化石燃料比率の高さ
 (天然ガス34.3%、石炭等30%、原子力19%、再エネ10.1%、水力6.7%)
2. バッテリ製造時のCO2の多さ
の2点だ。
 ペンシルバニア州のエネルギー・環境研究所(IEE)は、フォードの最量販ピックアップ・トラックであるF-150のガソリン版とBEV版(ライトニング)、テスラ・モデル3とプリウス・ハイブリッド(HEV)のライフサイクル(LCA)でのエネルギー効率とCO22排出量を比較した。
ガソリン車とEV エネルギー効率で比較

© Merkmal 提供 フォードF-150 ガソリン車、BEV、テスラ3、プリウスのLCAでのCO2排出量を比較(画像:ペンシルバニア州エネルギー・環境研究所)
 まず、エネルギー効率;1ガロン(3.79L)のガソリンまたはそれと等価の電力で走行可能なマイル(1.6km)数「mpg(e)」を比較する( [ ]内はkm/Lへの換算値)。
1. テスラ3 : 141mpg(e) [59.5km/L]
2. F-150ライトニング(BEV) : 70 [29.6]
3. プリウスHEV : 52 [21.95]
4. F-150ガソリン : 22 [9.29]
 小型BEVのテスラ3が最良だが、大きく重いピックアップ・トラックでもBEV化すれば、HEVのプリウスよりもエネルギー効率が良くなる。
 次に、ガソリンと電力製造時に消費されるエネルギーを差し引いた「正味」エネルギー効率である「mpgE」を比較すると、
1. プリウスHEV : 52mpgE [21.95km/L]
2. テスラ3 : 45 [19.0]
3. F-150ライトニング : 23 [9.71]
4. F-150ガソリン : 22 [9.29]
 プリウスHEVが最良となり、F-150ライトニングの優位性は失われる。
 さらに、製造時と走行時のCO2排出量を、年間走行2万1600kmと仮定して、日当たり排出量(kg)を計算すると、
1. F-150ガソリン : 14.9kg
2. F-150ライトニング : 9.08
3. プリウスHEV : 6.36
4. テスラ3 : 2.27
となり、走行中はゼロ排出のF-150ライトニングも、LCAでは多くのCO2を排出していることを明らかにした。
米人、環境のために大金を払いたくない?

© Merkmal 提供 米人の68%は気候変動抑制のために月に10ドル以上余分の電気代を払いたくないと考えている(画像:AP-NORC)
 米国の環境意識が低いわけではない。
 カリフォルニアと他11州(ニューメキシコ、コネティカット、ニューヨーク、イリノイ、オレゴン、メーン、ロードアイランド、マサチューセッツ、バーモント、ニュージャージー、ワシントン)は、長年世界で最も厳しい排気ガス規制と燃費規制に取り組んできた。
 それにもかかわらず、米国車の脱炭素は進んでおらず、米国環境保護庁(EPA)は、車は大きく、重く、高出力化し、燃費も悪化し続けていることを示した。
 シカゴ大学の全米世論調査センターAP-NORCの調査によると、米国人の68%は気候変動のための追加電力料金を、10ドル以上は払いたくないと考えている。
なぜ人気? 米国人の嗜好と消費動向
 なぜ米国でピックアップBEVが売れるのか?
 第一に、米国人は大排気量V型8気筒の大型車を好み、都市部以外では特にピックアップ・トラックが人気だ。第二に、米国民は燃料価格に敏感で、燃料価格が上昇すると燃費の良い車が売れる。
 米国ではEPAが承認した燃費(と環境ランク)ラベルを新車に貼り付ける義務がある。
 F-150ライトニング(BEV)は、平均的な(ガソリン)ピックアップ・トラックに比べて前述の「mpg(e)」では「燃料費が5年間で1750ドル節約できる」と、ラベルには記載されている。
 米国人はLCAでのCO2排出量である「正味エネルギー効率mpgE」には興味がなく、「走行時のエネルギー効率mpg(e)」が良いF-150ライトニングを買うのだ。
BEV ぜいたくな生活を維持する免罪符

© Merkmal 提供 動力方式別のライフサイクルにおける温室効果ガス(GHG)排出量比較(画像:国際エネルギー機関)
 1997(平成9)年に発売されたトヨタ・プリウスは、唯一の本格的環境車として世界市場に登場し、当初は環境意識の看板としてプリウスを買う人も多かった。
 しかし、時間をかけてコストを下げ、性能を高めることにより、HEVは市場全体に拡大し、2021年の日本市場では電動車(BEV、FCEV、PHEV、HEV)のシェアが44.7%となった。
 BEVを否定はしないが、まだ補助金抜きでは市場を獲得できないうえに、発電と製造時を含むLCAでのCO2排出量はHEVと大差がない、発展途上の技術だ。
 一方、車体とエンジンの小型・軽量化「ダウンサイジング」は、省エネルギー、省資源、低コスト、高性能、快適性を同時に実現できる完成された環境技術だ。
 1960年代の英国のミニやイタリアのフィアット500など、欧州の車は現在の軽自動車よりも車体は小さかった。
 この半世紀で人間の体格が倍になったわけでもないのに、今や車体サイズは倍以上、エンジン出力は10倍以上の車も多い。
 日本の環境では軽自動車が使いやすい。平均体格の大きな欧米人などでも、日本の5ナンバーサイズの車なら不都合はない。
「脱炭素」を叫ぶのは、すでに裕福な人々
「脱炭素」を声高に叫ぶ人々の多くは
・すでに裕福である
・環境を道具に裕福になろうとする
 あるいは、ノルウエーやアイスランドなど、地形や地質に恵まれ、
・水力などの再生可能電力を容易に入手できる

の、いずれかだ。
 恵まれた人たちが、自分たちの生活を「ダウンサイジング」することなく、新興国の「アップサイジング」を抑える姿勢は、公平性に欠ける。
 活動家のグレタ・トゥーンベリ氏が「アーミッシュ(電気も現代技術機器も使わず、快楽を求めない宗教団体)」に入信するのであれば、その言動に説得力が生まれるだろう。
 現在のBEVは脱炭素の象徴であると同時に、先進国がぜいたくな生活を維持するための「免罪符」に過ぎない。