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安倍総理の志は死なない!!

中国の「なんちゃって科学技術」は本当に自前でやっていけるのか 技術戦争、中国の脅威度を診断する・前編

「なんちゃって」だらけだが
中国製品と言えば、1960年代の日本製品さながら、「安かろう。悪かろう」の代名詞だった。しかし外資が機械と部品を持ち込み、厳格に品質管理をして組み立てた製品を輸出するようになって20年余。今では我々は、made in Chinaの家電製品を安心して使っている。
今では中国は米国と宇宙空間の制覇で競争を繰り広げ、米国は中国ファーウェイ社の5G技術が世界を席巻するのを、力で強引に食い止めなければならないほどになった。中国は、このまま技術を自前で磨き、米欧日韓の経済を凌いでしまうのか? 
それには「?」がつく。今から数年前、日本のある自動車会社の幹部から聞いたことがある。その人は、中国での自社工場の責任者だったことがあるので、中国の労働者の質について聞いたのだ。「まあいいんですが、ちゃんと見てる必要があります。工程が1から10まであるとすると、工程1をちゃんとやっているのでちょっと目を離し、現場に帰ってくるともう工程10をやっている。工程2から9までは手抜きなんですね」とその人は言った。
そしてつい最近。筆者はインターネットの広告で、安い画期的なヒーターとかいうのを見た。これは注文が殺到して売り切れになると思い、アマゾンで2個、一度に注文したら、2個ともまがい物だったのだ。
すったもんだのあげく、返品を認めさせ、先方の言ってきた住所に返送すると、突き返されてきた。「最近、アマゾンの返品用住所に使われて迷惑している」というのだ。あまり詳しいことを書くと、先方が可哀そうだから(返金してくれたので)控えるが、要するにこれは中国いる何者かが日本のアマゾン上で販売していたのである。
この2つの例で問題なのは、1つは製品の質の問題、もう1つは彼らが商業面での倫理・信用を軽視しているということ。最近では「中国の科学技術の脅威」が語られているが、開発能力、人間としての行動様式、この2つの面で問題がある。以下、この2つの指標で中国の科学技術の脅威度を診断してみたい。
直らない西側への依存――経済の「コメ」半導体
外国への依存は半導体部門で目立つ。半導体はほぼあらゆる電化・電子製品で使われ、「産業のコメ」と言われるだけ、致命的である。ファーウェイが製造した「オナー」ブランドのスマートフォンを分解してみると、部品の4割が米国製で、それは20年モデルでは1割だった時から急増していた。メイン半導体や5Gの通信半導体といった中核部品が米国製であった(2022年4月22日日本経済新聞)。
中国は製造大国であるにもかかわらず、半導体の自給率は低く(2020年で16%)、中国半導体産業協会によると、2020年の中国の半導体輸入額は約3500億ドルに上っている。「中国産半導体」と銘打っても、実際はその過半を台湾のTSMCや韓国のサムスン電子、SKハイニックスなど海外メーカーの中国拠点が生産している(2021年10月13日付日本経済新聞)。
政府が旗を振り、助成金もつぎ込んでいる、自前の半導体製造工場の建設は、多くがうまくいっていない。2020年は、政府支援もあって、半導体分野の投資額が前年の5倍近くの1400億元に膨らんだが、野放図な投資や事業の乱立が見られた。しかも資金の7割近くは設計分野に向けられ(資金を横領しやすい)、材料・製造設備には2割しか向けられなかった。肝心の製造装置は70%以上を外国製に依存している。
エンジニアも足りない。2020年初め、液晶や半導体など、デジタル製品の根幹を成す電子部品工場の拡張作業が遅れるという問題が生じた。それは、半導体などの製造装置の大半を外国製に依存しているため、立ち上げには日本や米国の技術者が不可欠なのだが、彼らの渡航がコロナで制限されたからである(2020年4月19日日経)。その外国エンジニアも、作業現場のエンジニアが多く、研究開発部門の人材が不足している。
「留学帰り」は万能薬にあらず
中国人は多数、海外に留学している。2020年のピークで、米国内で博士号をとる中国の若者は年間約5000人(日本は200人程度)に達し(2020年8月8日付日本経済新聞)、地元の教授たちに引き立てられる優秀な人材も数多いが、中国本土での活用ぶりはまだまだのようだ。
1979~2018年、600万近くが外国に留学(9割が自費)したが、戻ってきた者は370万のみだった(2020年11月10日Newsweek日本版)。
AIなどでは、中国の人材の多くが米国での就職を選んでいる。ポールソン研究所によると、18年に米国の高レベルな学会でAIについての論文を発表した中国生まれの研究者10人のうち、9人が米国の機関に所属していた。中国国内で登録しているAI専門家のうち、最高レベルの技術を持つ人材はわずか5.6%に過ぎない(2020年1月10日付日本経済新聞)。
もっとも最近は、帰国する者が増えているようだ。中国企業が高給で雇用するようになったし、米国内で中国人研究者に対する当たりがきつくなっているためかもしれない。しかし海外で学んできたことを、中国でそのまま活用できるわけではない。周囲の嫉妬、必要な設備・資材の欠如、旧態依然の制度が彼らの足を引っ張る。
なんちゃって論文
「この頃の中国の科学技術研究はすごい。国際的学術誌に掲載される論文の数、他者に引用される論文の数とも米国を抜いて1位になりつつある」という言説があるが、2020年8月8日付日本経済新聞は次のように報ずる。
――文科省科学技術・学術政策研究所が3年平均で算出したところによると、査読などがしっかりしていて一定の質があると判断される学術誌に掲載された自然科学分野の論文数で、中国(曖昧な概念だが)が米国を抜いて1位となった。2017年、中国の論文数は30万5927本で、米国の28万1487本、3位ドイツの6万7041本、4位日本の6万4874本を上回った。
中国は論文の質でも米国に迫る。他者に引用された率では2017年、米国の24.7%に迫る22.0%だった。中国は材料科学、化学、工学、計算機・数学で好論文が多い。米国は臨床医学、基礎生命科学が高い。中国の研究者数は約187万人で、米国(約143万人)を上回り世界1位である――。
これに対して2018年6月12日のNewsweek日本版は、以下のように水を浴びせる。
――中国の科学系学術誌の多くには、画期的とは言えない研究、誰も読まない論文や剽窃された論文が多い。査読が不十分なためか、不正による論文撤回の件数が世界で最も多い。12~16年に全世界で撤回された論文の半数以上が、中国の研究者によるもので、臨床試験データの80%以上が捏造であった。質より量、エビデンスより学界の通説、独自性より同調(つまり学界の大御所へのへつらいのことだろう)が支配的である――
生命科学や医学の領域では、論文の偽造を組織的に請け負う「論文工場」があるそうだ(2022年2月18日付日本経済新聞)。
また2018年3月20日の「エコノミスト」誌は次のように言う。
――JST(科学技術振興機構)の日本人研究者が2016年、引用回数の多い中国人研究者の論文をピアレビューした。その結果、内容について非常に厳しい評価を下した。引用回数が多いからといって、必ずしも質が伴っているわけではない。研究者が研究開発費獲得のための実績作りで、仲間同士で引用しあっている――
2019年1月12日付Economist誌は、次の点を指摘する。
――研究者はノルマを達成するため、盗作、偽作で論文を「書いて」いる。金を払えば掲載してくれる悪質雑誌が多数ある。Critical-thinkingに欠ける者がおり、彼らは学問も、上からの指令次第で変える。最良の研究者は海外に残りたがる――
中国人科学者は、米国人科学者等と共著論文を手掛けることで、国際的な雑誌への掲載を容易にしている面がある。また、2017年、中国は研究者による引用回数が上位10%に入る「注目論文」の数で初めて米国を抜いた。その数は2008年に比べて5倍を超えており(2020年9月20日付日本経済新聞)、不自然なものがある。おそらく、上記にあるように、必死でお互いに引用し合ったのだろう。
ただし、中には本物と目されるものもあるので、注意しないといけない。例えば、人工光合成では、中国の研究は進んでいるようだ。量子コンピューターの開発でも、「量子超越」を達成したと称するなど、中国は存在感を発揮している(2022年3月1日付日本経済新聞)。
以上のように科学研究の上げ底ぶりは顕著だが、しかし、中国は先端産業も驚異的な成長を示しているのも事実だ。
【後編・日本はすでに「なんちゃって製造大国」中国への先端技術規制を行っている】では、ベンチャーなどの「たかり体質」、そして先端技術規制の実態について考察していきたい。