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安倍総理の志は死なない!!

日本はすでに「なんちゃって製造大国」中国への先端技術規制を行っている 技術戦争、中国の脅威度を診断する・後編

【前編・中国の「なんちゃって科学技術」は本当に自前でやっていけるのか】では、論文数などで急速に世界一の座についた中国の科学研究の上げ底の実態を見てきた。それでは、驚異的な成長をみせる先端産業はどうなっているのか、そして、西側の先端技術規制の効果はあるのかを検証してみたい。
ベンチャーも政府補助金目当てのなんちゃって生産
我々は、中国での電気自動車の増産ぶり、そして若者の起業熱に圧倒され、「だから日本は駄目なんだ」とうなだれるのだが、中国の「なんちゃって体質」に惑わされてはいけない。中国ではスタート・アップ企業の数も、電気自動車(EV)の数も補助金次第。多くのものは、補助金をもらうためのプラットフォームとして作られ、補助金をもらったあとは捨てられる。
EVにはこれまでに1兆円を超える公的資金がつぎ込まれ、2015年頃から政府補助金を当て込んだ起業が相次ぎ、少なくとも60社程度の新興EVメーカーが創業した。代表格の上海蔚来汽車(NIO)は18年、米ニューヨーク株式市場に上場するまでになったが、EVの発火事故を起こし、2019年夏には1000人規模の人員削減に追い込まれている(2020年5月19日付日本経済新聞)。
2019年6月から、EVに対する政府補助金がほぼ半減すると、販売台数は急減し、製造大手BYDは社債1500億円の返済に一時窮した(2019年11月26日付日本経済新聞)。
ベンチャーも、国家資金に依存している。2014年、政府がベンチャー支援策「大衆創業・万衆創新」を発足させて以降、スタートアップ数は大幅に増加した。2013年には留学生の帰国率が85%に高まっているが、これはこの補助金を狙ってのものかもしれない。当時は、新卒毎年700万のうち、20万が創業した(2018年通商白書)。
今はAIが主戦場のようだ。地方政府による資金拠出はバブル状況を呈し、21の省が補助金や奨励金を財源とするAI集積地を設置する計画を発表している。地方同士の過度な競争は、AI市場の分断を引き起こしかねない(2020年1月10日付日本経済新聞)。
そして特許も、補助金取得のプラットフォームとして愛用されている。中国が保有する特許のうち96%は国内のものだが、特許を申請すると補助金がもらえるので、これ目当ての出願も見られるそうだ。
「皇帝集権国家」は経済を窒息させる
中国の長い歴史では、紙、火薬、羅針盤など西欧をはるかに先回る技術が開発されながら、それは「皇帝の御覧に供せられる」程度で、広く活用されて経済全体を底上げすることにはつながらなかった。今回は、深圳の諸企業やファーウェイなど、中国人の活力が開放された時のすさまじさを納得させる事象は現れてはいるものの、アリババがそうだったように、共産党の権力の下に組み込まれて、活力を失っていくのだろう。
官の介入は、浪費と横領を生みがちである。半導体業界強化のために約18兆円の資金がつぎこまれているが、半導体の自給率はほとんど上がらない。資金の一部は流用されただろう。昨年7月下旬には「国家集成電路産業投資基金」のトップが調査されている。紫光集団で長年トップを務めた趙偉国氏も7月に身柄を拘束されている(2022年8月6日付日本経済新聞)。
またガラパゴス的に高性能なものを作って空威張りする点も時に見られる。例えば2016年に中国はスパコン「天河2号」で世界1の演算速度を達成したが、技術的には目新しいところはなく、年間15億円もの電気代がかかる(フル稼働の場合)わりには、ソフトが少ないため役に立たなかった。
また国営企業、外国との合弁企業では、社会主義企業の名残で、企業で私腹を肥やすマインドが根強く残っている点も問題だ。「中国の企業は、会計担当も倉庫係りも皆盗む」とさえ言われる。ソ連と同じ。企業と自分の利益は違うのだ。終身雇用でないからだろう。現地法人の経理担当が不正を働くせいで、外国の企業は多額の損害を受けている。彼らは、銀行のstatementも一貫して偽造するのである。 
民間企業の活力の代名詞は深圳だ。ただここでは、儲かるものに手を出すのは速いが、品質等に難ありとの指摘も聞かれる。冒頭で言及した、「画期的なヒーター」もその類だろう。
ソ連には効いた先端技術制限
今、西側と中国の対立激化で中国への先端技術提供を絞る方向になっている。これについて、果たして効果はあるのか、という疑問を呈する向きがある。
筆者は冷戦の時代、政府で対共産圏輸出統制委員会(ココム:共産圏への先端技術輸出を制限していた国際取り決め)を担当していたことがあるので言うが、ソ連の場合には確かに効いていた。ソ連は1960年代、人工衛星等で米国の先を行ったが、1980年代までに後れは明確になっていった。1950年から米国主導でココムが発足。金属加工技術、コンピューター技術等の対ソ連輸出を規制したことが大きく効いた。
数が限定されたミサイル等の兵器では、ソ連は何とか米国に並んでいたが(それこそ、秋葉原あたりで部品を購入し、スーツケースで運び出すだけで足りた)、金属研磨技術の後れから、ソ連の航空機エンジンは出力と耐久性で大きく劣ったし、潜水艦のスクリューは大きな騒音を立てて、容易に検知された。
ソ連崩壊後、米国が1990年代頃から始めた「電子戦」(センサー、通信等を駆使して諸兵器の統合・遠隔運用を可能とする技術)では、ロシアは決定的な後れを示す。ロシア軍の装備は基本的に第2次大戦型で、ウクライナ戦争では緒戦で500両以上もの戦車を、米国がウクライナ軍に提供した小型携帯ミサイルJavelinに破壊されている。
中国に対しても現在、先端技術の輸出は厳しく統制されるようになっている。今、米国が日本にこの統制を強化するよう迫っていると言われるが、少し誇張されている。と言うのは、日本企業の多くは以前から、米政府の対中規制を研究し、これに「違反」する対中取り引きを控えているからだ。先端世代の半導体製造機械などを中国に輸出して米政府から制裁を食らい、米国での製品販売、あるいは特許使用に制限をかけられたらたまったものではないからだ。
それにココムの時代からある、輸出貿易管理令に付属する別表1には、中国、ロシア等に輸出する場合には経済産業相の許可を必要とする物品が網羅されている。
つまり先端技術の対中輸出は以前から規制されているし、その下でもかなりの貿易が可能であった、そしてそのことはこれからも大きくは変わらない、ということなのだ。
先端技術の輸出規制は、別に対中全面禁輸ではない。中国は豊かになると満足するのではなく、周囲に歯を剝いてくる。このような国に、我々が苦労して開発した技術を渡し、兵器に使わせるのは、お人好しを超えて愚かそのものと言える。日本は別に、米国に言われるから先端技術を絞っているのではないのだ。