Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「土木建築殉職者慰霊塔」のはなし ~〝平和の戦士〟として祀られた土木建築殉職者達の〝英霊〟

From 藤井聡@京都大学大学院教授


こんにちは。表現者クライテリオン、編集長の藤井聡です。


 クライテリオンの執筆者のお一人で、以前、表現者奨励賞をとられた仁平千香子さんから教えてもらったのですが、彼女が東京の芝公園を歩いていると、増上寺にこんな石碑がありましたよ、とのことで、写真を送付いただきました。


 そこにあったのは「土木建築殉職者慰霊塔」の碑石。当方の専門が土木ということで教えてくださったわけですが、この碑石の言葉を観ると、令和の御代と戦前の昭和の時代(昭和12年(1937)3月21日)とでは、土木建築に関わる者に対する社会の態度が、ここまで変わってしまったのかと愕然としてまいります。


この碑石には次の様に書かれています。


『土木建築事業ハ一國文化ノ象徴産業ノ先躯ニシテ厥ノ能ク山岳ヲ貫キ雲閣ヲ築クや固ヨリ険ヲ犯シ危キヲ怖レス斯ノ高業ニ従フモノ洵ニ平和ノ戦士トモ謂フベシ而シテ不幸ソノ職ニ殪レシモノ豈ニ其ノ英霊ヲ祀リ其ノ幽魂ヲ慰メスシテ可ナランヤ茲ニ全國同業者ノ寄進ニ依リ慰霊塔ヲ建立シテ永ク其ノ菩提ヲ弔ハントス』


ほぼ現代文ですが、改めて口語に直すとこうなります。


『土木建築事業は一国文化の象徴産業の先躯であって、山岳を貫き雲閣(摩天楼)を能く築きあげるものだが、そもそもその仕事は大変な危険を冒しつつも危うきをおそれぬものである。したがってその素晴らしい事業に従事する者は、誠の平和の戦士とも言うべき存在である。ついては不幸にしてその事業において命を落としてしまった者の英霊(秀でた者の霊魂)をここに祀り、その霊魂を慰めぬことなど絶対にあってはならない。ここに全国同業者の寄進によって慰霊塔を建立して永くその菩提を弔う。』


もう多言を弄する必要はありませんね。


そもそも建設という仕事は、昔も今も、たくさんの方が亡くなる仕事なのです。例えば、戦後、黒部ダムを造った時、100人以上の方がそのトンネル工事だけで亡くなっています。今でも、厚労省の報告によれば、建設業の労働災害による死亡者数は288人(2021年)で業種別では最多となっています。


そもそも土木という仕事は、人が棲むことが出来ないこの自然の中に、人が棲める文明環境を作り上げる仕事。


したがって、必然的にその「現場」は、「人が棲めない環境」となるのであり、したがって、命は保障されていない場所となっているのです。したがって、必然的に死と隣り合わせなのです。


もちろん、建設業が高度化するにしたがって、建設の現場の方々の長年にわたる努力の結果、命を落とす方はどんどん少なくなってきてはいるのですが、その「現場」の性質上、それをゼロにすることは現実的に不可能となっています……。


一方で、土木が「人が棲める文明環境」を作り上げる仕事であるということは、翻って考えるならば、現代の我々が生きていることができるのは、土木という仕事があったからこそであり、さらに言うなら、土木という仕事なかりせば、我々は誰一人今の暮らしをする事などできない、という実態が見えて参ります。


その仕事の崇高さは、瑞穂の国日本で何よりも崇高なものとして、文字通り「祭り」上げられている「農」に匹敵するものといってよいでしょう。それ以外の職業は無くても生きていけなくは無いわけで、あの命を守る「医」という「仁術」ですら、それが無くとも多くの人々が健康に生きていけるわけで、人類は繁栄することができます。しかし、農と土木は、それなかりせば、人類が繁栄するどころか存続することすら不可能となるものなのです(もし両者がなければ、原始狩猟時代に戻らねばならなくなりますね)。


というよりも、農は土木なかりせば始めることすらできない営為です。田畑をつくるのは土木なのですから、土木の崇高さたるや農を凌ぐという側面すらあるように思えてきます。


今日の令和の御代にこうした認識を持つ者はほぼ皆無と言ってもいいでしょう。それほどに、現代日本人は「忘恩」の極致に至っているわけですが、戦前の日本人はそうではなかったのです。


この碑文にある様に、土木建築の仕事は「一国文化の象徴産業」であると同時に、そこで働く人々は「平和ノ戦士」であり、したがって、そこで亡くなった人々の魂は、あの靖国神社に祀られている戦争で亡くなった方々の魂と同じ「英霊」であると断じているのです。


……


こうした言葉が、戦前の昭和12年には、当たり前の様にあったのです。


私たちは、いつの間にか親に甘やかされ過ぎてスポイルされてしまった(=ダメになってしまった)「お坊ちゃん」のような、あらゆる恩義を忘却し、自分達だけで生きていると勘違いしている傲慢極まりない存在に堕落してしまったようです。


……今度、是非、この令和の御代においてもなお、ひっそりと残り続けているその小さな碑文と、その碑文を立てた当時の日本人の遠い思いを探しに、増上寺に行って参りたいと思います。


是非皆さんも、芝公園あたりに訪れられたときには、増上寺の境内を探してみられてはいかがでしょうか。


追伸1:この記事は当方のメルマガ『表現者クライテリオン編集長日記』からの抜粋です。無料メルマガ上では書きづらい事等、有料の形で配信しています。ご関心の方は是非、ご登録下さい。


追伸2:『編集長日記』ではここ一週間下記記事を配信しました。ご関心のものがあれば是非、ご一読下さい。


「スローガンに群がる愚」について〝ゲーム理論〟の視点から解説します ~SDGs/AI批判序説~
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