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安倍総理の志は死なない!!

中国軍迫る! 「台湾退避」タイミング探る日本企業、“脱中国”も加速か

米下院議長、今春訪台か
 2022年8月初め、当時のペロシ米下院議長が訪台したことにより、中国はこれまでにない規模の軍事的威嚇を示し、台湾有事を巡る緊張が一気に高まった。そして、台湾には2万人余りの日本人がいる中、台湾に進出している日本企業や、台湾と取引がある日本企業の間でも、駐在員の安全・退避という「ヒトの安全」、貿易やサプライチェーンという「モノの安全」から、同情勢の行方を心配する声が増えるようになった。
 2023年に入っても、緊張は続いている。1月上旬に中国軍機57機が中台中間線を越え、2月1日にも中国軍機20機あまりが同線を超え、台湾の防空識別圏に進入したと台湾国防部は明らかにした。
 そして最近、新たに米下院議長に就任したマッカーシー氏が2023年春ごろに台湾を訪問する計画があると、米メディアが報じた。中国はマッカーシー下院議長に訪問を自制するよう呼び掛けているが、仮に訪問が実現すれば、中国は2022年8月のように大規模な軍事的威嚇に出ることだろう。
 また、米国のオースティン国防長官は2月2日、フィリピンを訪問してマルコス大統領と会談し、米軍がフィリピンで使える基地を新たに4カ所増やして計9カ所にすることで合意した。新たな4カ所の位置は明らかになっていないが、ワシントンポストはそのうち2カ所はルソン島北部と報じており、仮に事実であれば、ルソン島と距離が近い台湾での有事を想定したトランスフォーメーションの可能性が高い。
 日本企業としては、こういった外交・安全保障上の動きを事前に察し、それをもとに危機管理対策を強化することも重要である。このような中、今日、日本企業は台湾情勢で、これから挙げるような項目を真剣に考え、悩んでいるように筆者(和田大樹、外交・安全保障研究者)は感じている。
帯同家族の退避、検討

台北の街並み(画像:写真AC)© Merkmal 提供
 まず、多くの企業が有事に発展する恐れのある「トリガー」(引き金)を見つけようとしている。しかし、これは一種の“予想屋”のような試みであり、当然ながら完全な答えはない。
 有事に発展するトリガーとしては、大規模なサイバー攻撃や偽情報の流布、経済制裁の連鎖、台湾政府による独立宣言(現実論では考えにくいが)、台湾海峡付近での人民解放軍の異常な集中または大規模な軍事訓練の常態化などが言われるが、経済制裁やサイバー攻撃などは既に行われており、今日企業の間ではトリガー探しのような現象が生じている。
 このような状況で企業がやるべきことは、国際政治や安全保障、軍事、防衛などの専門家の見地を最大限利用し、「ヒトの安全」と「モノの安全」の両面から、リスクを最小化するよう努めることだ。日本企業が台湾情勢で悩む際、こういった専門家たちが企業関係者と同じ部屋で議論をすることはほぼない。今後は、国際政治や安全保障、軍事や防衛の専門家と企業の経営者・危機管理担当者との接近がさらに進むことが望まれよう。
 また、トリガーと同様なものであるが、台湾在住の駐在員や帯同家族を退避させるタイミングを企業は探っている。しかし、ここで言えるのは、トリガーが現実に生じてからの台湾国外への退避は、極めて難しくなることだ。
 ポーランドなどと陸続きのウクライナと違い、海に囲まれた台湾からの退避は難しく、唯一の安全な退避手段である民間飛行機の運航は、すぐにストップする可能性が高い。事実、2022年8月のペロシ氏の台湾訪問直後、韓国の大韓航空は8月5日と6日の仁川~台湾便の運航を停止、アシアナ航空は5日の台湾直行便の運航を停止した。
 有事となれば、中国軍は台湾周辺の制空権と制海権を奪取してくるとみられ、そうなれば日本への安全な退避は難しくなる。企業にとって、進出先から撤退すること、責任者の立場にある駐在員を帰国させることは、決して簡単な決断ではない。しかし、命の危険を脅かす有事となれば話は別で、筆者周辺では、台湾在住の駐在員や帯同家族を退避させるタイミングを真剣に検討する企業が増えているように感じる。
 完全な答えは提供できないものの、今後の情勢を考慮し、筆者は帯同家族については「一足早い退避」「平時における退避」を推奨することもある。
「脱中国」さらに?
 最後に、日中関係の悪化である。台湾有事となり、米軍が関与することになれば、日本は米国との軍事同盟上、米軍を支援する立場に回る。そうなれば、日中関係が冷え込むことは避けられず、それによって日中間で経済摩擦が拡大する可能性が考えられる。
今日の国家間紛争は、経済や貿易の世界を中心に繰り広げられることから、台湾有事がきっかけとなり、中国側から輸出入規制や高関税といった制裁措置が取られることが想定される。企業関係者の中ではそういったリスクを想定し、「脱中国」ができる範囲内で、日本への回帰、もしくは第三国へシフトさせようとする動きが増えているように感じる。企業としては、「台湾有事と日中関係は別物」と捉えるべきではなく、台湾を巡る情勢の変化がいかに日中関係に影響が出てくるかを注視していく必要がある。
 企業によって台湾への依存度は異なり、企業によって悩みも異なる。駐在員の退避を巡るタイミングも企業によって異なるだろう。しかし、企業関係者と議論を続ける中、台湾情勢への懸念の声が強まっているのは間違いない。しかも、ただ情勢の変化を見守るだけでなく、まだまだ数としては多いと言えないものの、行動に移し始める企業が増えているのは肌で感じる。2023年、この動きはいっそう拍車が掛かるかもしれない。