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まもなく発射命令?北朝鮮の「軍事偵察衛星」とは

7~10月の国家的行事日での発射が有力視されているが…
福田 恵介 : 東洋経済 解説部コラムニスト
2023年05月24日
北朝鮮の最高指導者である金正恩・朝鮮労働党総書記は、いつ「軍事偵察衛星1号機」の発射命令を下すのか。発射が成功すれば、これまで相次いで弾道ミサイルを発射してきた北朝鮮がついに宇宙空間にまで存在感を示すことになりそうだ。
2023年5月16日、金総書記が、製作された軍事偵察衛星を視察し、「その後の行動計画」を承認したと、北朝鮮の朝鮮中央通信が同月17日に報道した。この日、金総書記は衛星の組み立てやロケットへの搭載準備といった状況を視察したようだ。名前を「キム・ジュエ」とする金総書記の実の娘も同行している様子を撮影した写真も公開されている。
では、いつ金総書記が発射命令を出しそうか。これに先立つ2022年12月18日、北朝鮮の国家宇宙開発局は「偵察衛星を開発するための最終段階の重要な実験を行った」と発表した。このとき、「2023年4月までに軍事偵察衛星1号機の準備を終える」とされていた。
技術準備・天候が合えばいつでも発射か
実際に金総書記は2023年4月18日に国家宇宙開発局を訪問したため、「4月中の発射か」と観測が強まったが、結局、4月は過ぎてしまった。
現段階で発射の可能性が高いと予想される時期がある。まず、7月27日の朝鮮戦争停戦日だ。北朝鮮ではこの日を「祖国解放戦争勝利記念日」としている。次に9月9日の朝鮮民主主義人民共和国創建記念日。さらに、10月10日の朝鮮労働党創建記念日がある。これらの節目を前後して発射するのではないかとの見方が優勢だ。
一方で、こうした記念日に関係なく、技術的な準備が完了し、かつ天候が発射にふさわしいと判断されれば、すぐにでも発射するのではないかという見方もある。もともと北朝鮮は中期的な計画を綿密に立て、その中に弾道ミサイルの開発や発射時期を折り込んで実行に移す。となれば、こうした記念日に合わせるというよりは、それとはそれほど関係なく本来の計画に沿って発射を行う可能性も十分に高い。
発射地点は北朝鮮北西部・平安北道東倉(トンチャン)里の西海衛星発射場だろう。すでにアメリカのVOA放送や北朝鮮専門サイト「38ノース」などが、衛星写真の分析から発射現場に発射台が立てられるなどの動きがあることを報道している。
発射される衛星はどのようなものなのか。朝鮮中央通信が5月17日に報道した写真を基に、高さは1~1.2メートル程度、重量は300~500キログラム程度の小型の衛星と、韓国の専門家は判断している。
偵察能力の精度を測る「解像度」については地上の4メートルぐらいの大きさの物を判別できる程度との指摘が多い。アメリカの軍事衛星の解像度は15センチメートルとされるので、それからすれば精度はかなり低いことになる。
北朝鮮は、2021年1月に開催された朝鮮労働党第8回党大会で、金総書記が「軍事偵察衛星の設計を完成した」と述べてから、その進捗度合いが注目を集めてきた。北朝鮮はこれまで、軍事よりは気象衛星などの民生用の衛星打ち上げに言及し、実際に衛星を発射してきた。
北朝鮮で衛星は「光明星」と名付けられている。1998年8月から2016年2月までに合計5つの「光明星」を発射・打ち上げたとしており、うち光明星「3号1号機」を除いて衛星を軌道に載せることに成功したとしている。ただ、アメリカ航空宇宙局などは、実際には光明星「3号2号機」と「4号」の2つのみが発射に成功、軌道にも投入できたと評価している。
1998年8月の光明星「1号」は発射当時、「金日成(国家主席)と金正日(総書記)を称賛する音楽の旋律をモールス信号で発信している」と明らかにした。2009年4月に発射された同「2号」は「楕円軌道に正確に投入された」と公表している。
発射当日に外国報道陣を平壌に招いたことも
光明星「3号1号機」は金総書記が本格的に政権を担うようになった直後の2012年4月に発射されたが、発射から約2分後に空中爆発した。当時は北朝鮮に外国の報道関係者を招き、発射の様子は取材されていた。金総書記は打ち上げ失敗を認めている。
光明星「3号2号機」は2012年12月に発射され軌道投入に成功、アメリカも成功していることを表明した。また「4号」は2016年2月に発射され、打ち上げが成功している。アメリカの宇宙開発関係者も「北朝鮮が発射した衛星は、きれいな軌道を描きながら宇宙空間にいた」と打ち明ける。
前出の2022年12月に北朝鮮・国家宇宙開発局が「実験を行った」と発表した際、北朝鮮側は「衛星試験品搭載体から撮影した」とする、韓国のソウルと仁川(インチョン)両市の写真を公表した。この写真の分析から、「解像度は4メートルぐらい」で、性能はそれほどよくはないと韓国の専門家らは判断しているようだ。
韓国側からの「軍事偵察衛星としては未熟」といった評価に、金総書記の実妹で、韓国やアメリカとの関係を担当している金与正・党副部長が韓国に向けて談話を発表したことがある。このとき「われわれが行った衛星開発実験のための発射が中距離弾道ミサイル発射である」とし、「誰が830秒に過ぎない1回だけの実験に、高価な高分解能撮影機を設置し実験をするだろうか」と逆ギレ気味の口調で韓国側の見方を否定した。
北朝鮮からすれば、軍事偵察衛星の保有は国家の重要目標であり、「アメリカと南朝鮮(韓国)からの軍事的威嚇や南朝鮮から身を守る国家主権と正当防衛権に属する」ものという意味づけをしている。
北朝鮮は衛星発射は当然の権利であると公言している以上、発射前には国際海事機関(IMO)などの関連国際機関に発射予定と落下推定海域といったことを公表するはずだ。実際に、これまでの衛星発射の中には、事前にIMOなどに通知したことがある。