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安倍総理の志は死なない!!

「もう住めない」高学歴者たちが大都市から流出中

高すぎる生活費にアメリカで進む大脱走
The New York Times
2023年05月21日
およそ10年前にサンフランシスコではホワイトカラーの職に就く大卒者の流出が増え始め、その勢いは加速している。アメリカのほかの地域に移住する人が増加していっているのだ。高学歴ワーカーの流出の加速は、アメリカの比較的貧しい地域なら「頭脳流出」と考えられてもおかしくないような状態となっている。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まると、こうした移住の流れは急激に強まり、最近のサンフランシスコ地域では高学歴ワーカーの流出が流入を上回るようになっている。
カリフォルニア州のサンノゼやロサンゼルスでも同様のパターンが浮上。その傾向は、ワシントンDCやニューヨーク市などアメリカ各地で強まっている。リッチな大都市からの高学歴ワーカーの流出は、パンデミック以前から続く現象だ。
揺らぐ「スーパースター都市」
国勢調査のマイクロデータを使ったニューヨーク・タイムズの分析で露わとなったこの傾向は、振り返ってみればショッキングとさえいえる。大企業や官庁が欲しがる高学歴ワーカーのハブとなっていたのが沿岸部の大都市で、経済学者からはそうした沿岸部への富の集中を嘆く声が上がっていた。
人々の不満につけ込む政治家も、こうした状況をうまく利用していた。沿岸部の大都市は「スーパースター都市」として別格の存在となり、高学歴ワーカーを集積することでアメリカ経済に巨大な影響力を及ぼすようになっていた。
ところが、国内の人口移動データを見ると、低所得の住民が生活費の高い沿岸部の都市に住めなくなる状況が何年も続いた後、今度は高所得ワーカーもそうした都市から流出するようになった。
確かに沿岸部の大都市には、今でもアメリカのほかの地域から生産年齢の大卒者が流入し続けている。とはいえ、流出者の数が急速に増加していることから、高学歴人材を引き寄せてきた大都市のメリットは薄らぎつつある。上述の分析からは、サンフランシスコ、サンノゼ、ロサンゼルス、ワシントンDCのすべてで、大卒者が流入する以上に流出するという、重要な一線を越えたことが明らかになっている。
今世紀に入ってからほぼつねに、アメリカ国内で移住する大卒者の動きは人口100万人以上の大都市にプラスとなり、小規模な都市が割を食ってきた。だが、こうした大都市の中でも最も生活費の高い12の都市(そのほぼすべてが沿岸部に位置する)では、大卒者が流入によって純増する一方、学位を持たない労働者が大量に流出するという、ほかにはない2方向の人口移動パターンが観察されてきた。
少なくとも、最近まではそうした状況になっていた。ところが今では、生活費の高い大都市からは、大卒者とそうでない労働者の双方が流出するようになっている。
豊かな地方都市に移住する動きが加速
大都市から流出した大卒ワーカーは、栄えてはいるがそこまで生活費が高くないフェニックス、アトランタ、ヒューストン、フロリダ州タンパのような都市に向かう傾向が強まっている。パンデミック中には、メイン州ポートランドやノースカロライナ州ウィルミントンなど、比較的小さな都市に流入する大卒ワーカーも増えた。
アメリカの人口移動率は現在、歴史的に見ても低い水準となっており、1980年代以降、移住率はあらゆる人口集団で低下してきている。もっとも、大卒ワーカーの間では近年、そうした傾向が逆転した。
パンデミック前の数年間で、大卒ワーカーの移住率は実際に上昇していた。どんどんと移住するホワイトカラーと、1つの場所にますますとどまるようになったブルーカラー労働者の間で、アメリカ経済に新たな分断が潜在的に生まれた格好になる。
高学歴ワーカーにおいては、生活費が高すぎて大都市に住めなくなった人と、生活費的には問題なくても大都市を去る選択をした人を区別するのは簡単ではない。
それでも、アメリカで最も生活費が高い大都市では、収入が比較的高い層でも生活費を払えなくなる人が全体として増えてきていることははっきりしている。これら大都市が一段とリッチになるにつれ、住宅価格の高騰に拍車がかかったからだ。
「その結果、生活費を払えずに出ていく人がますます増える。平均的な収入の人々だけでなく、高収入で大学の学位を持った人々でさえも、だ」。アメリカ商務省で経済問題担当次官を務めるジェド・コルコはそう話す。
例えば、ベイエリアが1世代以上前にバス運転手や在宅介護士がチャンスを夢見て住める場所でなくなったように、今のベイエリアはエンジニアやコンサルタントにとっても魅力的な場所ではなくなりつつあるのかもしれない。
リモートワーク普及で捨てられる大都市
パンデミックでリモートワークが急増したことも、この傾向を加速させる要因となった。リモートワークが広がったことにより、ただでさえ広い自宅を確保するのが難しい地域で、広い自宅に引っ越したいと考えるホワイトカラーが増えた。さらにリモートワークによって、高学歴ワーカーが収入の高い仕事に就くには高い生活費を甘受しなければならないという構図にも変化が生じた。
「高学歴で高収入の労働者は今、これまでになかった選択肢を手にしている」。そう話すのは、カリフォルニア公共政策研究所の人口統計学者ハンス・ジョンソンだ。
今ではこうした労働者の少なくとも一部は、サンフランシスコの仕事をキープし(あるいはサンフランシスコの仕事を受け)ながら、生活費がそこまで高くないヒューストンやノースカロライナ州のシャーロットに住むことができる。こうしたことが今やカリフォルニア州全体で大卒者の流出が流入を上回るようになった理由の1つではないかと、ジョンソンは考えている。
リッチな都市は長年にわたって、低賃金労働者の流出がもたらす不均衡に悩まされてきた。低賃金労働者が流出することで、低賃金のスタッフを雇う必要のある企業はストレスにさらされ、労働者階級が住む地域は住民を失ったことで荒廃する。
また、沿岸部の大都市は求人が多くセーフティーネットもしっかりしているが、高すぎる生活費が低所得世帯の流入を阻む要因となっていた。生活費が高すぎて消防士や保育士のようなエッセンシャルワーカーが住めない状況は、その地域にとっても好ましくない。
「富の異常な集中」のひずみが臨界突入?
他方で大卒住民の流出からは、もっと込み入った問題が浮かび上がる。国内の人口移動はゼロサム、つまり、地方自治体の担当者や税務署が引き留めたいと考えている大卒者のワシントンDCやサンフランシスコからの流出は、ミズーリ州カンザスシティーやフロリダ州オーランドにとってはプラスとなりうる。格差問題を専門とする研究者は、大卒者(および彼らの購買力)が沿岸部に集中する状況が緩和されるのはよいことだと指摘する。
「スーパースター都市における富の集中はすさまじく、健全とはいえない」。高学歴でない労働者向けのよい働き口が徐々に失われてきた経緯をたどる研究を行っているマサチューセッツ工科大学の経済学者デイヴィッド・オーターは、「そうした都市の富は一部の人々に極端に集中しているともいえる」と話した。
ミネアポリス連邦準備銀行で「機会とインクルーシブな成長研究所」を率いるアビゲイル・ウォズニアックによれば、「これは選択をめぐる問題、誰が選択肢を持っているかをめぐる問題だ」。
「店を開く夢を持っていた」。生まれ故郷のニューヨーク市で自分のバーを持ちたかったというローラ・ニューマン(33)は、「その夢を本当に追いかけたかった。でも、どれだけ貯金しても無駄だった」と語る。「だって、貯金しても、店を持つのに必要な費用がどんどんと上がっていくんだから」。
ニューマンが2017年にアラバマ州バーミンガムに引っ越したのは、そのためだ。彼女はニューヨークではなく、そこで自分にとって初めてのバーを開くことにした。
(執筆:Emily Badger, Robert Gebeloff, Josh Katz)
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