Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

世良光弘「国防の危機」 中国は「やる」と決めれば武力行使辞さず台湾侵攻 忘れてはいけない「天安門事件」の教訓 沖縄や南西諸島は戦場に

「あり得ないことだ。何でこんなことが起きたのか?」
ひと月前より北京にいた私には、目の前で起きた予想だにしない惨劇をすぐには理解できなかった。
轟音(ごうおん)を立てて動き出した人民解放軍の戦車が、座り込みを続ける学生や市民たちに無差別発砲し、天安門広場は血の海に染まったのだ。
1989年6月4日未明、最高指導者・鄧小平ら共産党幹部は、ついに民主化運動の徹底弾圧に乗り出した。北京市内の主要道路の交差点には戦車が配置され、建物の屋上には狙撃兵が配置された。市民だけではなく広場に近づく外国人記者には、発砲許可が出ており、私も約1メートル先に銃弾を受け、身を伏せてほふく前進するのがやっとだった。
事件後、西側諸国は経済制裁を科すと思いきや、米国や日本は「中国が経済的発展すれば、いずれは民主化が進むだろう」という幻想を抱き、本格的な制裁は行わなかった。
あれから30年以上の歳月が流れたが、西側の予想は大きく外れ、中国は民主化とは反対の方向へと加速、軍事大国化していった―。
一方でこの間、中国共産党と人民解放軍の軍拡路線は強化され、中国の国防予算は39倍になり、今年は30兆円を突破する世界第2位の軍事大国となったのである。
とりわけ、中国政府が狙うのが台湾だ。中国にとって台湾は自国の一部だとして「一つの中国」を原則とし、武力統一を行使しようとている。この構図は、ロシアがウクライナを旧態然としてあたかも「自国領土」と認識し、ロシア系住民の保護と主張して軍事侵攻したケースと極めて類似している。
英国の調査報道サイト「ベリングキャット」によると、中国の習近平国家主席は2021年12月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「22年秋に台湾を侵攻する計画を立てている」と伝えたという。もし、ウクライナがロシアに抵抗せずに陥落していたら、中国のこの計画は予定通りに進んでいただろう。
ロシアにとっては、欧米の強硬な反発によるウクライナ支援は予想以上だったにせよ、中国にとっては依然として台湾侵攻は第一目標であり、軍事的には譲れない。中国にとって台湾は海洋進出を目指すうえでも地政学的にも絶対に譲れないポイントである。
もちろん、周辺地域の沖縄や南西諸島は、中国の台湾侵攻とともに戦場となる。この戦いは自衛隊と在日米軍の防御にかかっているのだ。中国は「接近拒否・領域拒否(A2/D2)戦略」を取っているが、日米は逆に島嶼(とうしょ)部の拠点を結んだ形での「海の万里の長城」を築き、ホームグラウンド化して中国の海洋進出を迎え撃つしか方法がない。
この防御に自衛隊で中心となるのは島嶼防衛を主眼に置いた陸自「水陸機動団」の緊急展開運用と、南西諸島へのミサイル部隊の配備だ。これらの動きを加速化させ、有事に対し徹底的に守りを固めることが必要だ。
米軍も今年1月には、新たに在沖縄の第12海兵連隊を第12海兵沿岸連隊(MLR)に改編することが発表された。この連隊は部隊を小規模に分散化させて島々に素早く展開させ、対艦ミサイルを運用する。配備に対し時間的余裕はない。まさに、わが国にとっては「国防の危機」とも言えるだろう。
冒頭に述べたように、中国共産党指導部は「やる」と決定すれば、どんな結果になろうとも武力に訴えてでも必ず実行する。その価値観は西側の予想とは異なり、「あり得ない」ことも起きるということだ。30年以上がたっても、筆者にとってはこれだけは忘れてはいけない〝教訓〟である。
■世良光弘(せら・みつひろ) 軍事ジャーナリスト。1959年、福岡県生まれ。中央大学卒。時事通信社を退社後、出版社勤務。週刊誌や月刊誌に携わり、主に紛争地からのルポを発表。フィリピン革命からはじまり天安門事件やドイツ統一や湾岸戦争、複数回にわたり平壌や中朝国境地帯などを取材した。99年からはフリーとなり、軍事や防衛問題中心にテレビやラジオにも出演。著書・共著に『坂井三郎の零戦操縦』(並木書房)、『世界のPKO部隊』(アリアドネ出版)、『紫電改』(学研)など多数。