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安倍総理の志は死なない!!

米中露「三国志」の行方~ウクライナの「反転攻勢」が始まった今、なぜ米中は関係改善に動いているのか?

米国のブリンケン国務長官は6月18日、訪問先の北京で、秦剛外相と会談。台湾問題などを協議したが、議論は平行線だった可能性が高い。とはいえ、米国の国務長官が中国を訪問するのは、約5年ぶりのことだし、バイデン政権の閣僚が訪中するのは、初めてだ。
翌6月19日には、習近平がブリンケンと面会した。要するにこれは、米国も中国も、「関係をある程度改善させたい」ということなのだろう。そこで今回は、以下の3点について考えてみたい。
・米中露三大国のパワーバランスは、ウクライナ戦争でどう変わったのか
・なぜ米中は関係を好転させたいのか
・ブリンケン訪中の意味

米中露「三国志」これまでの流れ
筆者が「リアリズムの神」と呼ぶ、ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は、「世界に大国は三つしかない。米国、中国、ロシアだ」と語っている。
米国は、経済力(GDP)でも軍事費でも世界一の超大国だ。それを追うのが中国で、経済力、軍事費で世界2位。ロシアは、2022年時点で経済力世界8位、軍事費世界5位。米中と比べると、ずいぶん見劣りする。
それでも、ロシアには誇れる部分もある。たとえば、
・核兵器保有数世界一
・小麦輸出量世界一
・国土の広さ世界一
・天然ガス生産量世界2位
・原油生産量世界3位

などだ。
ロシア(ソ連)は冷戦時代、間違いなく世界第2の超大国だった。ソ連崩壊後ずいぶん落ちぶれたが、それでもなんとか「大国」の地位にとどまっている。
この三国の関係は、冷戦終結後どう動いてきたのだろうか?
1991年12月にソ連が崩壊した後、しばらく米中露の関係は良好だった。
日本人はあまり知らないが、米中関係はニクソン大統領が訪中した1972年以降、ずっと良好だった。1989年の天安門事件で一時関係は悪化したが、93年には元通りに戻っている。
米ロ関係は90年代、親欧米のエリツィンが大統領だったので、これも良好だった。しかし、2000年にプーチンが大統領になると、米中露関係は変わっていく。
2003年、プーチンは、フランス、ドイツ、中国と共に、米国のイラク戦争に反対した。さらに同年、プーチンは、米石油最大手エクソン・モービルに、ロシア石油最大手ユコスを売却しようとした男、ホドルコフスキー(同社CEO)を逮捕させた。
米国政府は当時、「近い将来、自国内の原油は枯渇する」と信じており、世界中の石油利権確保に躍起になっていた(その後「シェール革命」が起こり、枯渇の心配は無くなったが)。
当時の米国ネオコン政府は、「ソ連崩壊で衰退し素直になった」と信じていたロシアの反抗に激怒した。その後、ロシアが「勢力圏」と考える「旧ソ連諸国」で、相次いで革命が起こるようになる。
2003年11月 ジョージア「バラ革命」
2004年11月 ウクライナ「オレンジ革命」
2005年3月 キルギス「チューリップ革命」
プーチンは、これらの革命の背後に「米国がいる」と確信。「このままでは、カラー革命で自分もやられる!」と恐怖した彼は2005年、「大戦略的決断」を下す。
大戦略的決断とは、「中国と協力して、米国の一極支配体制を崩壊させる」ことだ。
ちなみに筆者の2007年の著書は『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』(草思社)というタイトルだった。
「中国ロシア同盟」と聞いて、今なら万人が理解するだろう。しかし、実をいうと、事実上の「中国ロシア同盟」は、すでに2005年に成立していたのだ。
中ロ同盟は当時、「調子のいい国同士」の同盟だった。中国は、世界一の高度成長をつづけていたし、ロシアも、プーチンの1期目2期目(2000年~2008年)は、原油高に支えられ年平均7%の成長をつづけていたのだ。
2008年9月、リーマンショックから「100年に1度の大不況」が起こった。これで、「米国一極世界」は崩壊。プーチンの願いは成就した。
ところが、事態は思わぬ方向に向かっていく。
2008年夏、原油価格は、1バレル140ドル台の超高値をつけていた。それがリーマンショック後、30ドル台まで大暴落。これで、ロシア経済は大きな打撃を受けた。
一方、事実上の同盟国中国は、リーマンショックなどなかったかのような快進撃をつづけていた。同国のGDP成長率は、危機がはじまった08年9.59%、09年9.45%、10年10.61%、11年9.55%。
一極支配が崩壊した米国は、どうだったか?
この国は、正しく危機に対処した。年間200兆円以上の財政赤字を出しながら、有効需要を創出することに努めたのだ。
結果、「100年に1度」といわれた大不況を、わずか1年で克服することに成功する。GDP成長率を見ると、2008年は0.12%、2009年はマイナス2.6%。
しかし、2010年には2.71%の成長を果たし、以後2020年に新型コロナパンデミック大不況が起こるまで10年間成長をつづけたのだ。
ロシアのGDP成長率は2008年5.25%、2009年マイナス7.82%。原油価格暴落の影響を受け、三大国の中でもっとも深刻な打撃を受けた。しかし、2010年4.5%、2011年5.07%と順調に回復している。
とはいえ、2014年、15年になると、ロシア経済は二つの理由で、ほとんど成長しなくなっていく。
一つ目の理由は、米国で起こった「シェール革命」だ。これで原油、天然ガスの供給量が増え、エネルギー価格が上がらなくなった。
WTI原油の年平均価格を見ると、2011年95ドル、2012年94ドル、2013年97ドル、2014年93ドル。安定して高値を維持している。
ところが、2015年48ドル、2016年43ドル、2017年51ドル、2018年65ドル、2019年57ドル、2020年39ドル。安定して低い。これがロシア経済の成長を止める要因となった。
もう一つは、2014年3月の「クリミア併合」だ。欧米と日本は、ロシアに制裁を科した。
「原油価格低迷」と「経済制裁」。この二つで、ロシア経済は成長しなくなった。
プーチンの1期目2期目、すなわち2000年から2008年のGDP成長率は年平均7%。ところが、クリミアを併合した2014年から2022年の成長率は、年平均0.74%に過ぎない。
2010年代の米中露「三国志」レースを見ると、高成長時代が終わったロシアは、明らかに「大国レース」から脱落している。
結局、2008年に「米国一極世界」は崩壊し、2009年世界は「米中二極時代」に突入。そして、2018年10月、ペンス副大統領の「反中演説」から、「米中覇権戦争」の時代が始まった。
ウクライナ侵攻でロシアは「中国の属国」に
次に、「ウクライナ侵攻」が米中露関係に与えた影響を見てみよう。
まず、ロシアの最大顧客である欧州は、ウクライナ侵攻開始後、ロシア産原油、天然ガスの輸入を減らしてきた。
たとえば、欧州最大の経済大国ドイツは2021年時点で、天然ガスの55%をロシアから輸入していた。ところが、同国は、たった一年でロシア依存をゼロにしてしまった。
ロシアは、欧州に輸出できなくなった原油、天然ガスを、他の国々に売る必要が出てくる。結果、ロシアは、主に中国、インドに、原油、天然ガスを激安で輸出することになった。
問題は決済通貨だ。SWIFTから排除されドル、ユーロ決済が困難になったロシアは、中国向け原油、天然ガスの代金を人民元で受け取るようになった。要するに、ロシアは、「人民元圏」に取り込まれてしまったのだ。
ロシアは、受け取った人民元で何を買うのか? 欧米日の製品は買えないので、当然、中国製品を買うことになる。こうして、ロシアは、中国の属国となった。
フランスのマクロン大統領は5月14日、ロシアについて、こう述べた。
「実質的に同国(ロシア)は、中国への従属形態に入り、バルト地域へのアクセスを失った。それは決定的に重要だ。なぜなら、それはスウェーデンとフィンランドに北大西洋条約機構(NATO)加盟の決定を促したからだ」
「それは、2年前には考えられなかった。そのため、それはすでに地政学的な敗北なのだ」
簡単に言い直せば、「ロシアはすでに地政学的に敗北している」「ロシアは中国の属国となった」という意味だ。まさしくその通りだろう。
ちなみに、「こうなること」は、プーチンがウクライナ侵攻を決断した時点でわかっていた。
筆者は、ウクライナ侵攻がはじまる8日前の2022年2月16日、『全ロシア将校協会が「プーチン辞任」を要求…! キエフ制圧でも戦略的敗北は避けられない』(現代ビジネス)という記事を出している。
また、昨年9月に出版した『黒化する世界』の中でも、「ウクライナ戦争、最大の勝者は中国」(265p)とし、〈ロシアを「人民元圏」に取り込むことができるようになります〉(266p)と書いている。
プーチンが、これほど当たり前の結果を予測できず、ウクライナ侵攻をはじめたことが驚きだ。
なぜ米中は今、和解に向かうのか?
次に、「なぜ米中が今、和解に向かっているのか?」を考えてみよう。
既述のように、米国務長官が5年ぶりに訪中したことは、両国に歩み寄りの意志があることを示している。
米国サイドから見ると、二つの理由が考えられる。一つは、「二正面作戦を回避すること」だ。
米国は今、欧州方面で(直接ではないが)ロシアと戦っている。そんな中で台湾有事が起これば、米国は中国、ロシアと二正面で戦うことになる。これは避けたい。
もう一つ、ウクライナの反転攻勢がはじまっている。
実をいうと、ウクライナがロシアに勝利するためのカギは中国が握っているのだ。それは、「中国がロシアに武器弾薬を供与しないこと」だ。
欧米は、ウクライナに武器弾薬を提供している。もし中国が、同じようにロシアに武器弾薬を提供するようになれば、ウクライナの反転攻勢は成功しないだろう。つまり、習近平がプーチンを助けないようにすることが絶対不可欠なのだ。
では、中国サイドから見るとどうだろうか?
中国は現在、台湾侵攻ではなく、来年1月の台湾総統選挙に向け、工作重視にシフトしている。反中で人気の高い民進党・蔡英文氏は、総統を2期務めたので、出馬できない。中国は、次期総統選挙で親中の「国民党」を勝利させ、できれば平和裏に台湾を統一したい。
もう一つ、習近平は、「ロシアに武器弾薬を供与しない見返り」を得ることができる。
欧米は今、戦術的に中国と和解している。たとえば昨年11月、ドイツのショルツ首相が訪中した。今年4月には、フランスのマクロン大統領が訪中し、大歓迎された。
6月には、米国のブリンケン国務長官が北京を訪れ、オーストラリアのアルバニージ首相も、9月10月頃に中国と訪問する可能性が高いと報じられている。
こうした動きは、「中国がロシアに武器弾薬を提供しないことの見返りとして、欧米は中国との経済関係を正常化させる」ということだろう。
これは、「米中覇権戦争の終わり」を意味するのだろうか? そうではないと思う。
米国としては、「まずロシア・プーチン政権を打倒して、その次に中国を打つ」ということなのだろう。つまり「各個撃破」だ。
反転攻勢の結果如何で未来が決まる
6月10日、ゼレンスキー大統領は、反転攻勢がはじまっていることを認めた。
ウクライナ軍は、ロシアが一方的に併合した領土(クリミア、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)を奪還し、ロシアに勝つことができるのだろうか?
それとも、ロシア軍が、ウクライナから強奪した土地を守り切るのか?
現段階でははっきりとしたことは何もいえないが、反転攻勢の結果、「戦争の帰結が見えてくる」ことは間違いないだろう。
それでは、ウクライナ戦争が終われば、世界は平和になるのか?
残念ながら、そうはならないだろう。ウクライナ戦争の後は、「米中覇権戦争の第2幕」がはじまる。