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安倍総理の志は死なない!!

LNGを買い占めた中国...過去18年間の取引を検証、浮かび上がった2つの重要テーマ

<ウクライナ侵攻前後に中国企業による購入契約が激増、ロシアから事前に計画を知らされていたのか>
中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が最近、ロシアとウクライナの和平をめぐってウクライナに接近し、中立的な仲介役を演じようとしていることで、外交情勢が揺らいでいる。中国は、ロシアのウクライナ侵攻計画について事前に知らされていたとの報道や、北京冬季五輪後まで攻撃を延期するようロシアに要請したとの報道を強く否定してきた。
しかし、中国が何を知っていたのか、その情報を利用してロシアの狙いを支持したのかという疑念は残る。ユーラシア大陸の2つの権威主義大国が共有する戦略的利益を考えれば、この疑念は十分根拠があるかもしれない。ロシアのウクライナ征服が成功すれば、中国にとって台湾への武力行使の強力な前例となる。
筆者らは、こうした疑念を裏付ける中国のエネルギー取引のデータを入手し、過去18年間における世界の液化天然ガス(LNG)の購入取引600件以上を検証した。この定量的指標は、ウクライナ侵攻前後の中国の姿勢が詳細に物語る。そして、これまで公に議論されることのなかった2つの重要なテーマが浮かび上がった。
第1に、中国企業によるLNG購入はロシアによる侵攻前の6カ月間、際立っている。2021年9月1日からロシアがウクライナに侵攻した22年2月末まで、国有企業の中国海洋石油総公司(CNOOC)、中国石油化工集団(シノペック)、中国中化集団(シノケム)を含む中国企業11社が、長期契約(通常4年以上)で世界のLNG購入量の91%以上を占めた。
戦争が始まった後も、中国企業は契約を増やし、他国が供給源を求めて奔走し始めた22年4月までに、世界のLNGの長期契約購入量の57%に達した。21年9月1日~22年4月1日の7カ月間に交わされた複数の契約を合わせると、LNGの年間購入量は2300万トンを超える。それ以前の暦年での購入量の2倍以上だ。06~20年の同国の新規調達量は、年平均約500万トンで、世界の約15%にすぎなかった。
ウクライナ侵攻前の半年間における中国のLNG購入は、11社による22件の契約によるもので、うち1社を除く企業の全てを国または地方政府が所有している。さらに、データに含まれる中国企業20社のうち9社は21年9月以前にはLNGの契約実績がないとみられ、中には中国が世界のLNG調達を独占した21年の第4四半期にのみ契約を締結していた企業もある。この侵攻前の買い占めは、個々のケースが少量であったため見過ごされたが、それらを合わせると、短期で調達可能な量のほとんどが市場から奪われた。
ガスプロムは供給削減
第2に、中国の独占によって短期的なLNGの供給が吸い取られている。中国企業がアメリカ、カタール、ロシアのサプライヤーと締結した契約(該当期間の取引総量の90%)は、供給開始予定が1~2年以内だ。それ以前に中国企業が契約した新規のLNGプロジェクトのほとんどは、供給開始が3~5年先だった。
重要なのはその背景だ。中国の買い占めによって短期で供給可能なLNGが消えるなか、ロシア国営企業のガスプロムは、21年に欧州へのガス供給を削減。欧州のガス貯蔵量の約25%を占める同社は、21~22年の冬に同地域での貯蔵量をほぼゼロにしている。
22年2月下旬にロシアの侵攻が始まると、ガスプロムはヨーロッパ向けの天然ガスの供給を止めると脅した。そして実際に、ヨーロッパの天然ガス供給の最大約40%を占めていたロシアのパイプライン経由分が、ほぼ全て止まった。
ヨーロッパは節約や燃料転換を進め、22年1~4月にアメリカが輸出したLNGの74%を輸入するなど、ロシアのエネルギー恐喝に対処した。しかし、天然ガスや電力の価格は高騰し、ヨーロッパは大きな代償を払うことになった。
欧州が被る長期的不利益
この問題は現在進行形で、戦略上、大きな意味を持つ。中国は21年の終わりから22年の初めにかけて、国有のガス輸入会社にLNGの買い占めを指示した。戦争前のノルドストリーム1(ロシアからバルト海経由で天然ガスを運ぶパイプライン)の供給量の約60%に相当する量だった。
中国に好意的な解釈をすれば、中国の政治家や企業がヨーロッパ向けの天然ガスとLNGの価格が高騰すると予想したタイミングに合わせて、買い占めたとも考えられる。しかし、世界有数の商品取引会社や優秀なLNGトレーダーが、21年9月~22年2月の市場機会にはほとんど反応しなかったが、侵攻開始後はLNG契約の主な原動力になっていることを見れば、中国が優秀なトレーダーだったという説明も色あせて見える。
中国で新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)が解除されることを見越して、中国のバイヤーが追加のエネルギー供給を確保するために動いたという見方もある。しかし、中国のゼロコロナ政策はさらに1年続き、22年11月と12月に大規模な抗議デモが発生した後に突然解除されたことから、計画的だったとは言い難い。
あるいは、20年1月に米中が署名した経済・貿易協定「第1段階の合意」の期限が切れる21年12月末までに、中国が500億ドル分のエネルギー製品を購入する義務を果たそうとしたのかもしれない。ただし、協定では幅広い分野でアメリカ製品を購入することや、知的財産権の保護を目的とした法改正などが求められていたが、中国が履行したものはほとんどなかった。
中国が、世界的な気候変動対策の目標と国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)での自らの公約に従い、21年の夏の終わりに石炭から天然ガスに切り替えることを決めたという可能性はあるだろうか。
仮にそうだとしても、その後すぐに方針を転換している。中国生態環境部の22年度の「中国環境報告」によると、石炭火力発電所や炭鉱の新設が承認され、22年の石炭使用量は4.3%増加したのに対し、天然ガスの使用量は減少した。さらに、22年10月の中国共産党大会で習は、気候変動対策よりエネルギー安全保障が最優先だと宣言している。
中国はウクライナをめぐり、国外には中立的な立場をアピールして、国内では親ロシア的なプロパガンダを続けている。しかし、中国が戦争が近いことを知っていて、LNGを買い占めてヨーロッパに直接的かつ長期的な戦略的不利益を与えたのだとしたら、中国はロシアの同盟国以外の何者でもない。