Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「ブリンケン訪中」の謎…中国側の異常なまでの“冷遇”と“上から目線”は、いったい何を意味するのか?

「世界最強国家」であるはずが
アメリカのブリンケン国務長官の中国訪問が終わったが、これはあまりにも異常なものだった。世界最強国家であるはずのアメリカがやたらと低姿勢に徹する一方、アメリカとの国力差はまだまだ大きいはずの中国が極めて高飛車な態度を示したからである。
アメリカの国務長官を出迎えるにあたって、中国側はレッドカーペットも用意せず、出迎えたのは普通の役人が数名だけで、大臣クラスの政府要人さえ、ひとりも空港に来なかった。
中国側で出迎えた最高位は、中国外交部の北米・オセアニア局長だった。訪中の労をねぎらう歓迎パーティーも開かなかった。しかも、こうした失礼な処遇をアメリカ側が問題にした形跡すらないのだ。
ブリンケンは初日に中国の外交No.2の秦剛外交部長(外務大臣)と5時間半とも7時間半とも言われる長時間の会談を行った。
中国では政府部門の上に共産党の指導部がある。外交部長は大臣級とされても、外交部長より上のポジションが中国には存在する。したがって中国の外交部長は日本で言えば外務事務次官のような存在だ。実質的な外交トップは中国共産党の王毅政治局員だが、ブリンケンとの初日の会談では王毅は同席せず、秦剛のみが対応したのである。
秦剛は、中米関係は国交正常化以来最悪の状態にあり、このような状態は両国の人々の利益にならず、国際社会の期待にも背くものだとの認識を示した。中国はアメリカとの間の相互尊重、平和共存、ウィンウィン協力の原則を順守していると述べた。
また、中国は安定した予見可能性がある、建設的な中米関係の構築に力を尽くすとも述べた。だがこれを言葉通りに受け取るなら、アメリカを明らかに格下に見たかのようなブリンケンの冷遇はありえないだろう。
中国は米中関係が最悪の状態にあるとしながらも、双方が歩み寄ることによって解決を目指すという立場には立たなかった。悪いのはアメリカであり、態度を変えるべきはアメリカなのだという姿勢を一貫して示したと言えるだろう。
「皇帝」にかしずく外交使節のように
翌日には外交トップの王毅との会談も行われたが、No.2との長時間に渡る会談によってアメリカ側の出方・主張をよく理解した上で、これに対応するように調整した会談が行われたと見るべきだ。つまり、完全に中国ペースに合わせた外交が組まれたのである。
その上で王毅は、中米関係が低迷している根本的な原因は、米国側の誤った認識による誤った対中政策にあり、米国側は深く反省する必要があると述べた。前日の秦剛との会談をさらに上回る高飛車な態度に出たのである。
その後、習近平との会談が実現したことになっているが、これはブリンケンと習近平との「会談」と呼べるようなものではなかった。
左側にブリンケンを筆頭としたアメリカの代表団の列が、右側に王毅国務委員を筆頭にした中国側の代表団の列が並ぶ中、習近平はその真中の一番上座に、両者の立場を超越した別格として座ったのである。
習近平はこの場で一方的に自説を延々と述べた。それを要約するなら、このような内容になる。
「中国は終始、中米関係が健全で安定したものになることを希望している。アメリカが理性的、実務的な態度を取り、中国と共同で努力していくことを望む。バイデン大統領がバリ島での会談でのコンセンサスを堅持し、中米関係をよきものにしていくことを願う」
要するに、「アメリカの態度こそが問題なのであり、態度を変えることを求める」と、ブリンケンに迫ったのである。
これに対してブリンケンは、こう答えている。
「バイデン大統領は習主席によろしくと言っている。米国はバイデン大統領がした約束を守り、『新冷戦』を求めず、中国の制度変更を求めず、同盟諸国との関係強化を通じた中国への反対を求めない。『台湾独立』を支持せず、中国と衝突するつもりはない」
まるで中国を中心とする華夷秩序の中にアメリカが組み込まれ、習近平皇帝陛下にかしずく外交使節とでも形容すべきあり方だったのだ。
米企業の利益や社員の安全が脅かされても
今回の米中会談では、中国側からの主張・要求は明確に出てきてはいたが、アメリカ側からの主張・要求は事実上報じられていないのではないか。現実には、アメリカから中国に要求すべきことは山のようにあるはずなのだが……。
例えば、合成麻薬フェンタニルは、18~45歳のアメリカ人の死因のトップであり、年間で10万人以上が命を落とす状態になっている。このフェンタニルの原料の90%以上が中国から来ているのだ。
アメリカに持ち込まれるフェンタニルはメキシコ経由で持ち込まれるが、中国はフェンタニルを錠剤にする機器をメキシコに輸出していることもわかっている。アメリカはこれに関わった中国企業を制裁するに至ったが、ブリンケンがこの件で強く中国政府に対応を迫ったとの報道はない。
それどころか、中国側はブリンケンにこの中国企業への制裁をアメリカ側の誤った判断だとして、逆に制裁解除を要求しているのである。
また、新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所からの漏洩であり、研究所の研究員3人が最初の感染者であることを米国務省は100%確信していることを確認したとのレポートも発表されている。
レポートの中には、3人の研究者の具体名まで明らかにされている。バイデン政権はこの問題で中国の責任を厳しく追及すべき立場のはずだが、今回、この話がブリンケンによってなされたとの報道もなかった。
中国は米マイクロン製の半導体に深刻なサイバーセキュリティ上のリスクが見つかったことを理由として、重要情報施設などでの調達を禁止したが、この問題の改善についてアメリカ側から提起したとの話も出ていない。
中国は4大会計事務所のひとつであるデロイトの北京事業の業務を3カ月停止し、企業信用調査会社ミンツ・グループやコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの中国事務所を家宅捜索して、現地社を拘束したり、コンピューターや写真を押収したりしている。
米企業の利益やその社員の安全に関わる事態が相次いで発生しているのに、これらの問題がアメリカ側から提起されたという話も出ていない。
「半導体輸出規制」さえも実際にはザル
もちろん、ブリンケンが行った中国側との話し合いにおいて、これらの話題が一切出ていないとは思わない。当然話されているだろう。
しかし、こういう要求を行ったというのはアメリカ国民へのアピールとしても重要なものであるから、マスコミを通じて報じられるようにするのが通例だが、それが今回は見られないのである。
さらに言えば、今回だけが異常なのではなく、今回の会談以前からアメリカの対中政策は異常だったと言わざるをえない。
バイデン政権はファーウェイに対する輸出規制の実施を延期した。ウイグル人権弾圧に関与している中国当局者への制裁も延期した。TSMCやサムスンの中国国内工場での操業に対する規制についても、適応猶予を延長して、少なくとも当面は規制を行わないままにした。アメリカ側から中国の気球問題を取り上げないことにした。
ウォール・ストリート・ジャーナルがすっぱ抜いた、中国がキューバに新たな通信傍受のスパイ施設を設置するとの話は、当然、アメリカの国防上重大な意味を持つはずだが、これについても中国側に抗議したとの報道はない。キューバ側に懸念を伝えただけである。
中国はキューバと中国の合同軍事訓練施設をキューバに作り、人民解放軍がキューバに常駐する見通しが出ているのに、これにも抗議する姿勢を見せていない。
アメリカは中国に対して厳しい半導体輸出規制を行っていることになっているが、この輸出規制も実際はザルなのだ。禁輸リストに掲載されている企業への直接の輸出はできないものの、禁輸リストに掲載されている企業の子会社などを迂回して輸出することを、米政府は実は容認している。
広島で行われたG7サミットにおいても、中国とのデカップリング(切り離し)ではなく、デリスキング(中国リスクの低減)へと立場が変更された。サミット終了直後の記者会見でバイデン大統領は中国との雪解けが近いと発言した。
そうした関係改善のメッセージがアメリカ側から中国側には何度も届けられているが、中国側がこのアメリカ側の呼びかけに応えるような姿勢を一貫して見せていないのだ。
やはり中国に弱みを握られているのか
6月2~4日にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、アメリカのオースティン国防長官と李尚福国防相との会談を行うことをアメリカ側は申し入れたが、中国はこれすらも拒絶している。
そして今回の訪中によっても、米軍と人民解放軍の間のコミュニケーションを再開することはできなかった。台湾有事を想定した場合、軍同士のコミュニケーションが存在すると、却って動きにくくなると中国側が判断しているのだろうか。
このような体たらくでありながら、バイデン大統領は米中関係は「正しい道筋にある」と述べた。ジャンピエール米大統領報道官も「率直で実質的、建設的な対話だった」として米中会談を評価し、バイデン大統領は習近平との首脳会談の実現を期待していると述べている。
こうして見ると、バイデン政権の動きがあまりにもおかしいことがわかるだろう。中国に弱みを握られていないのであれば、こんな対応にはなるまい。
バイデン一家が賄賂を受け取って外交を行っていたとの疑いは、現在、米下院監査委員会でコマー委員長のもとで調査が進められている。主に究明が進められているのはウクライナの話だが、中国絡みの話もある。
そもそもバイデン大統領の息子のハンター・バイデンが設立した、米中の政府関係のコンサルタント会社「ソーントン・グループ」は、2007年から中国の全国人民代表大会を相手に仕事を始めている。それ以降、ハンター・バイデンは中国とは深い関係を築いているのだ。
コマー委員長はバイデン一家の賄賂総額が2000万ドル(28億円)から3000万ドル(42億円)に達するのではないかとの見通しを示している。是非ともこの全容解明を進めてもらいたいものである。