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安倍総理の志は死なない!!

価格競争で電気代はどんどん安くなると言っていたが…夢のシステム「電力自由化」の大きすぎるツケ

なぜ電気代の値上がりが止まらないのか。テレビプロデューサーの結城豊弘さんは「日本の再エネ活用には課題が多く、化石燃料に依存している限りは電気代の値上げは避けられない。さらに、価格競争を促すはずだった電力自由化や発送電分離には、いくつも落とし穴が存在する」という――。
エネルギー自給率は震災前の20.2%から12.1%へ
「値上げ」「物価上昇」。こんな見出しを新聞やテレビニュースで毎日見かける。値上げラッシュともいえる状況。あちこちで商品や食料品が値上げし、家計をもろに直撃する。その中でも、ほぼすべての家庭に影響するのが電気代の値上げだ。
6月1日から大手電力10社のうち7社(北海道電力、東北、東京、北陸、中国、四国、沖縄)が電気料金を大幅に値上げした。原発が稼働している関西と九州、そして中部の3社は値上げを見送った。
今回は、電力値上げのカラクリと疑問をひもといていく。
IEA「World Energy Balances 2020」(2019年推計値)と資源エネルギー庁「総合統計」(2019年度確報値)によれば、日本のエネルギー自給率は、たった12.1%しかない。
世界的に見れば、1位ノルウェー816.7%、2位オーストラリア338.5%、3位カナダ174.5%、4位アメリカ104.2%。イギリスは11位で71.3%。フランス16位54.4%、よく日本と比較されるドイツは24位で34.6%、お隣の韓国は34位で17.7%……日本はというと、韓国の次の35位で12.1%だ。
しかし、東日本大震災前の2010年は20.2%だった。低下原因は、原子力発電所の全停止に他ならない。
日本中につくられたメガソーラーの功罪
エネルギー資源が乏しく自給ができない日本は、石油・石炭・LNG(天然ガス)といった化石燃料を輸入に依存してきた。資源エネルギー庁の資料によれば、2019年度の化石燃料への依存度は84.9%。これも2010年には81.2%だった。
これらは、いかに原発が日本のエネルギーの供給構成に寄与していたかが分かる数字だ。
日本では、福島第一原発事故後、原発依存からの脱却を模索し、再生可能エネルギーに注目が集まった。政府(民主党政権〜自民・公明党政権)の政策として電力自由化が進み、新電力会社もたくさん生まれた。また、太陽光や風力へのエネルギーシフトが政府の後押しで進み、再生可能エネルギーで生まれた電力を固定価格で買い取る制度(FIT・FIP制度)が太陽光発電パネル施設を強力に進めていった。
その結果、メガソーラーが誕生し、合わせて日本中に太陽光発電パネルが施設された。業者の不備や環境問題も各地で噴出してはいるが、日中の日本の電力構成に貢献しているのは確かだ。
電力不足でも作りすぎてもブラックアウト
しかし、ここに見落としがちな問題点がある。太陽光発電は、日中しか発電できない。しかも悪天候の日は発電が無理だ。そのため、よく「昼間に充電すればいいじゃない」と質問される。
日本の蓄電技術は、まだまだ、余剰電力を全て充電できるまでにはいたっていない。リチウム電池は高価で品薄だ。理由は電池に欠かせないのがレアメタルで、その一番の供給元は戦争中のロシア。リチウム・コバルト・ニッケルは全て輸入に頼っている。そうなると蓄電池の技術革新を待つしかない。「昼間に充電」には程遠い。
送電線で送ることのできる電気の量にも限界があり、せっかく太陽光パネルで発電した電気も、作りすぎのときは、送電せずに調整命令で捨てるしかない。
では、送電容量を超えて電気を送ってしまったらどうなるか。ブラックアウト(全域停電)する。電力不足でもブラックアウトが起こるのだが、作りすぎでも送電網に負荷がかかり、同じ状況が起こる。これを回避するには、送電網を大容量電線や機器に変えなければならないのだが、インフラ整備には膨大な資金がいる。そもそも作りすぎの電気は、誰も使わない。いや、いまの日本の技術では、使いたくても使えないのだ。
再エネの頼みの綱は洋上風力発電
「風力発電をやれば良い」とも言われる。しかし、日本は風が欧州ほどは吹かない。頼みの綱は洋上風力発電だ。
秋田港沖と能代火力発電の沖につくられた秋田洋上風力発電は、今年1月から日本初の洋上風力の商用発電を開始した。私も実際に現地取材をしたが、海から突き出す風車の大きさと数は圧巻だった。秋田港に13基、能代港に20基の着床式洋上風力発電風車がつくられ、合計で約140メガワットの発電を行っている。
先日、岡垣啓司・秋田洋上風力発電社長が私の担当する「石川和男の危機のカナリア」(BSテレビ東京・毎週土曜日朝7時放送)に出演した。計画通り順調に発電ができていること、また洋上風力の可能性を力強く語った。
再生可能エネルギーの主力電源化への切り札として2020年12月に政府が示した「洋上風力産業ビジョン」では、2040年に洋上風力発電で約3000万〜4500万キロワットを発電するとしている。
ちなみに秋田洋上風力発電の発電量、140メガワット(=14万キロワット)は、一般家庭約13万世帯の消費電力に相当する。計画ビジョンの壮大さが、この数字からもわかるだろう。
大手電力の一斉値上げを防ぐ対策はどうなったのか
話を戻す。
相次ぐ電気代の値上げは、大手電力会社各社の値上げ申請が国に認可されたためだ。冒頭にも触れたように電力は食品と同じく生活のインフラである。全ての製造業、工場、病院、小売店、レジャー、公共施設など電気を使わない場所はない。一般家庭だけではない。電気代の高騰は、日本の全ての面で悪影響を及ぼす。究極の生活必需品が実は電気なのだ。
元経産省で政策アナリストの石川和男氏は「生きていくのに必要なのは、空気と水、そして電気」と話す。われわれが送っている現代生活を考えると、石川氏の指摘は当たっている。
ここで一つ疑問が浮かぶ。「確か大手電力会社が横一列に値上げと叫ばないように、そして競争の公平性を確保するために発送電分離を行ったのでは?」と。まったくその指摘通りだ。
値上げ申請には厳しい査定がこれまでも行われてきた。また大手電力会社の発電と送電は別会社化されたが、結局、両社は現在も資本関係が維持されているから、なんとなくグループ化して見え、実際のところ本社のスタッフが異動するなど、その関係性は強い。これも外から見えると分離どころか密に連携しているのではと思ってしまう。
電力自由化でより安い会社を選べるはずが…
さて、ここでまた疑問が浮かぶ。「消費者は電力自由化で電力会社も選べるし、安い電気も使えたはずだ」と。
そもそも自前の電力会社を持たない電力小売業者は、大手電力会社の余剰電力を安く買い、消費者に届ける。また、送電会社と契約を結び、自前の再エネ電力を電力会社に買い取ってもらう。あるいはインターネットやガスなどのサービスと組み合わせ、電力の値段を下げるなどのサービスで新電力として電気事業を進めていくはずだった。
確かにうまくいった会社もある。しかし、その多くは、2016年にはじまった、電力全面自由化によって消費者を含めて翻弄(ほんろう)されていく。
電力会社は、営利企業なので自由に値上げしてもいいと思うのだが、値上げするには、国の認可が必要となる。つまり規制料金制度が、自由化前と同じく残存してしまっているのだ。
結局、新規参入した小売電気事業者はどこも青息吐息。結局、高い電気代を消費者に転嫁するしかない。大手電力よりも、電気が安いと思って契約した工場や店も、逆に大手電力よりも値上がりした電気を買い続けなければならない。その高い電気代は、る商品やサービスに値上げ分として上乗せされ、物価上昇の要因を生み出す。
大手電力はまだ規制料金に縛られている
ここにもう一つ落とし穴がある。実は規制料金制度は、2020年度に撤廃される予定だったが、新電力のシェアが十分に伸びていないという見方から引き延ばされたままなのだ。
電力が社会のインフラという観点に立てば、安定供給はマスト。電力会社には、重い供給責任が生じるはずだが、政府はそれを明確に課してはいない。このあたりも甘い。参入したが利益の出ない新電力。安いと思い込み新電力と契約した消費者。そして規制料金に縛られる大手電力……。これが、電力自由化しても電気代が安くならない構造だ。
さらに、日本の電力コストの大半が化石燃料による燃料費に占められている。
ウクライナ侵攻というロシアの暴挙が、ここに深刻な影を落とす。慶應大学産業研究所の野村浩二教授研究室の推計値〔(一財)キヤノングローバル戦略研究所 杉山大志 研究主幹のリポート〕によれば、日本全体の1カ月の電力コストは、2022年12月に過去最高を更新して、月額2兆3000億円に達した。日本の火力発電所は、天然ガスと石炭を燃やし発電している。天然ガスと石炭の高騰が、電力会社を直撃し、そこに円安影響が響いた。
電気代を底上げしていた再エネ賦課金の変化
その上に、まだある。再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)も影響している。皆さんは電気料金の請求書の明細を毎月ご覧になっているだろうか。請求総額だけを見て「高いなー」と嘆かれていないか。明細をよくご覧いただくと必ず「再生可能エネルギー賦課金」という項目が目につくはずだ。
先ほど紹介した、FIT(固定価格買取制度)とFIP(フィードインプレミアム)の買い取り価格と合わせて2023年度の再エネ賦課金の単価が、経産省から今年3月に発表された。
再エネ賦課金の単価は、昨年度の3.45円/キロワット時から驚くほど下がり、今年度は1.40円/キロワット時になった。今年の5月分の電気料金から適用されている。FITは2013年から開始された制度。開始時の2013年には0.35円/キロワット時だったが、毎年上がり続け、去年をピークとして、やっと下がった。
なぜこんなことが起こるかというと、再エネ賦課金の単価は、その年度に想定される電力事業者の買い取り費用の総額から、「回避可能費用」と事務費を差し引き、想定される販売電力で割って算定されるからだ(2023年度の再エネ賦課金の算定結果については経済産業省HPを参照)。
ここで出てくる「回避可能費用」とは、FITやFIPで買い取った電力量と同じ量の電力を、もしも火力発電などで調達したら、値段がどうなるかというコストである。
化石燃料に依存する限り、日本の電気代は上がる
2022年度は化石燃料の大幅な高騰でこの「回避可能費用」が大幅に増えた。その費用は、前年比2.5倍にも膨れ上がった。この説明は前述の杉山大志氏のリポートとも一致する。
その結果として、再エネ賦課金で回収する費用が大きく減少し、その恩恵が表面化したということで、結局、高くなった化石燃料を燃やさないと日本では電力は作れないので(原発再稼働が進めば、ここは変化するが……)、その分、電気代は結局上がる。少しサービス値引きがあるにはあるが、値引きを電気代が上回るという結果は避けられない。
再エネは世界的な流れで、日本もカーボンニュートラルの実現を世界から求められている。買い取り制度は再エネ普及のためには、やめられない。FITやFIPの買い取り費用は増加していくことは確かだが、もし、再エネシフトが進めば、火力発電を圧縮することは可能だろう。
複雑化したシステムを解決する「一体化案」
ここまで説明したように、電力値上げの真相は、複雑だ。さまざまな要因が絡み合い電力料金を押し上げている。ほかにも、燃料調達の難しさや火力発電と再エネのベストミックスの長期計画と見通しの見極めも難しい。安定電源の保守と構築の難しさ、法律の古い壁、業界のしがらみなどが、電力大手の会社経営を硬直化させ、改革を進まなくさせていると私は考える。
電気事業は莫大な資金と人材を必要とする、設備産業である。もし今後、従来型より小さく、高い発電力を生む太陽光パネルや風力発電が開発され、蓄電池を活用する小規模型の発電システムが全国に円滑に普及していけば、大型発電とともに地産地消の発電ができるようになる。そうすれば電力確保や電力値下げにつながることだろう。
送電網と電力会社の一体化も円滑な電力安定供給に資するはずだ。複雑なシステムを解消できるだけでなく、資金調達や発電と送電の計画を一体化でき、無駄な発電や調整がなくなる。
ついでに大手電力会社の一体化も考えてはどうだろうか。明治期につくられた都道府県の線引きや行政管轄が時代遅れになってきたように、日本に電力会社が生まれた時代から続く大手電力会社の境界をなくしてはどうか。東日本大震災以降、大手電力会社間の余剰電力の相互送電が行われているが、一体化すれば、電力が余った地域から足らない地域への送電がもっと迅速に進められるはずだ。住んでいる地域による電気料金の格差も解消する。
社会の大切なインフラである電力。そして値段の上昇。どうか毎月の電気代明細をじっくり眺め、その奥にある複雑な問題を見つめ直してほしい。
---------- 結城 豊弘(ゆうき・とよひろ) テレビプロデューサー 1962年鳥取県境港市生まれ。駒澤大学法学部卒業。元読売テレビ報道局兼制作局チーフプロデューサー。「そこまで言って委員会NP」「ウェークアップ!ぷらす」「情報ライブミヤネ屋」の取材・番組制作を担当した。現在はBSテレビ東京「石川和男の危機のカナリア」の総合演出や、プロデューサーとして各局の番組制作を続ける。その他、鳥取大学医学部付属病院特別顧問と境港観光協会会長を務める。合同会社ANOSA CEO 。著書に『オオサカ、大逆転!』(ビジネス社)、『吉村洋文の言葉101』(ワニブックス)、共著に『“安倍後"を襲う日本という病』(ビジネス社)がある。 ----------