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安倍総理の志は死なない!!

国会の安保論戦で「必要最小限の打撃力」とは? 中国に日本攻撃を思いとどまらせる…トマホーク数百発では足りない

国会の安保論戦で、「必要最小限」という言葉をよく聞く。言うまでもなく、国家と国民を守るための必要最小限だ。それは、周りの脅威に比例する。ニュージーランドのように、近くに隣国もいない海洋国家なら、小さな軍隊で済むであろう。
しかし、日本は大陸側に中国、ロシア、北朝鮮という軍事大国と直面している。3カ国とも核武装している。特に、中国は、この10年間で経済規模が日本の3倍となり、米国の7割5分にまで追いついた。人民解放軍の実力は、すでに域内最強を誇る。習近平国家主席は、2027年までに「台湾武力併合の準備」を終えるように指示したとされている。
「台湾有事は日本有事」である。日本最西端の沖縄県・与那国島を始めとする先島諸島は、台湾からわずか100キロの距離にある。中国は「尖閣諸島(中国名・釣魚島)は中国領だ」と言って憚(はばか)らない。最近は、習氏が「沖縄と中国の歴史的関係」にまで言及し始めた。
日本は、台湾有事にあたって、①日米安保条約第6条に従って米軍に基地を供与する②重要影響事態法によって後方支援を行う③存立危機事態を宣言して集団的自衛権行使に踏み切る―という3つの選択肢がある。
いずれの選択肢を取るにせよ、重要なことは、安易なエスカレーションを避け、国土を戦場にしないことである。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の野望が引き起こしたウクライナ戦争は、ウクライナを焦土にして戦われているが、NATO(北大西洋条約機構)諸国やロシア本土は戦場となっていない。ロシアとNATOの双方が、エスカレーションを回避しているからである。
日本もまた、台湾有事において米国と台湾をどのように支援するにしても、紛争が直ちにエスカレートして、日本本土、中国本土を互いに攻撃対象とし合うような事態は、可能な限り避けるべきである。
そのためには、十分な反撃力がいる。習氏が、日本本土攻撃を躊躇(ちゅうちょ)するとすれば、それが紛争のエスカレーションを招き、日本が本格的な対中反撃に移ると考えるときだけである。
さもなくば、日本本土の自衛隊基地、米軍基地、備蓄燃料タンクなどは、中国軍によって大規模にサイバー攻撃され、あるいは爆撃されるであろう。
その時、中国に日本攻撃を思いとどまらせる必要最小限のミサイル能力とは、現在、論じられているトマホーク数百発という次元ではない。
「弾道ミサイル、極超音速ミサイルを含めた数千発の反撃用ミサイル」が必要である。それが日米同盟の対中ミサイルギャップを埋め、日米同盟の抑止力をさらに向上させることになるのである。 =おわり
■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『安全保障戦略』(日本経済新聞出版)、『官邸官僚が本音で語る権力の使い方』(新潮新書)、『君たち、中国に勝てるのか』(産経新聞出版)など多数。