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安倍総理の志は死なない!!

台湾の「現状維持」を「独立」とみなす中国の論理

「台独」と「独台」は異句同義なのか
岡田 充 : ジャーナリスト
2023年07月25日
中国は、台湾の蔡英文総統の「現状維持」路線を「外国勢力の力を借りて台湾独立を画策」していると批判している。「統一」でも「独立」でもない「現状維持」は台湾の「主流民意」でもあるが、中国が分類する「台湾独立」(台独)と「独立台湾」(独台)から「現状維持」を判断すると、現状維持を「台独」の一種とみなす論理が鮮明になる。
「台独」の意味を曖昧化しているのか
中国は、蔡政権の「現状維持」路線を「台独」と断定はしていないが、「外国勢力(筆者註:アメリカを指す)の力を借りて台湾独立を画策」していると批判してきた。
この「レッテル貼り」に対し、日本でも「中国は台湾独立の定義を曖昧にし、自分に都合よく解釈しようとしている」「『中華民国は独立国家』」という立場も台湾独立と認定される」などと習近平指導部の解釈に疑問を呈する声もある。例えば、小笠原欣幸氏の<知っているようで知らない「台湾独立」の真の意味>だ。
そこで「台湾独立の定義が曖昧」であり、「都合よく解釈できるようにしている」という主張の是非を判断するには、中国側の「台独」に対する定義を確認しておく必要があろう。中国政府のウェブサイト「中華人民共和国中央人民政府」が2006年4月26日付で発表した「“台独”と“独台”」の内容から検討する。
「台独」の定義についてこの文書は「第2次世界大戦後に台湾および海外に存在し、外国勢力によって扇動され支援された分離主義の思想と運動の傾向」と位置づける。
さらにその理論的特徴として、①「台湾の法的地位は未定」「台湾は中国の領土ではなく、台湾問題は中国の内政ではない」「台湾問題の国際化を提唱」、「台湾独立」を達成するために「外国軍を呼び込む」、②「台湾文化は中国文化の一分野ではない」「台湾人は中国人ではない」との認識を広め、「台湾国家論」を提唱する、③「台湾の住民の自決と独立」または「台湾の未来におけるすべての住民の自決」と「新しい独立国家の樹立」を挙げている。
これに対し、前出の記事を執筆した小笠原欣幸氏は「『台湾独立』とは、台湾を統治する中華民国を解体して、台湾共和国あるいは台湾国を建国することを指す」と定義する。この定義は、極めて狭義の解釈であることがわかる。
一方の中国側は、「台湾は中国の領土ではなく、台湾問題は中国の内政ではない」「台湾問題の国際化」「台湾住民自決論」など、台湾与党の民主進歩党(民進党)が党綱領でうたう主張を含めて「台独」理論に相当すると広義に解釈する。
ここで注意したいのは、小笠原氏が「民進党は1991年制定の綱領で台湾共和国の建国を掲げたが、1999年の党大会決議(台湾前途決議文)によって中華民国を続ける現状維持に転換」したと書き、「台独」路線を「現状維持」路線に転換したことを強調している点だ。
「台湾共和国」を建国して、狭義の「台独」を実現するには「1つの中国」を前提に組み立てられた「中華民国憲法」の改訂が必要だ。しかし改憲には立法院(4分の3の出席で、4分の3の賛成)と公民投票(有権者の過半数の賛成)の高いハードルをクリアしなければならない。さらに日米両政府とも、台湾独立を支持しない「1つの中国」政策を採っているから、外交承認はしないとみられる。
そのため民進党は「台湾独立は国内政治的にも国際政治的にも不可能」という判断から、「現状維持」路線へと転換したとみるのだ。
改憲手続き論からすればその通りだが、民進党が「台湾前途決議文」を採択したのは、第1に翌2000年3月の総統選挙を有利に戦うため、同党の「台独」イメージを薄めるうえで、「台湾共和国建国」が綱領にあるのは不利との政治的判断が働いたためだった。
第2に「現状維持」路線に転換したにもかかわらず、陳水扁氏は2008年3月の総統選挙で「台湾名義による国連加盟」の是非を問う国民投票を実施(不採択)した。現状維持路線ではなく、狭義の「台独」路線に執着したのだ。民進党の政策の不徹底ぶりがうかがえる。
「分裂分治」の固定化
では、「すでに独立した台湾」(独台)という認識を中国側はどう定義しているのか。先に引用した「“台独”と“独台”」は、「台湾当局が(両岸の)『分裂分治』を堅持し、『1つの中国、2つの対等な政治主体』ないし『段階的に2つの中国』政策を追求する台湾当局の路線を指し『B型台独』ともいう」と書く。つまり「台独」の一形態とみなすのだ。
「独台」の具体的な主張として、①対内的には憲法修正によって、総統直接選出、台湾省廃止、単一「議会」の実施により、台湾の「主権」と「国家」形態を強調、②「現在の統治権は中国大陸には及ばない」との口実から「中華民国は台湾の主権独立国家である」との主張を展開、③両岸の一時的分離状態の、固定化、“合法化”、永久化を意図、④「独台」は当局が推進するパッケージ化された分離主義路線であり、「台湾独立」と本質的な違いはない、と書くのである。
そこで中国が広義の「台独」とみなす台湾側の主張を振り返る。李登輝元総統は1999年7月9日、ドイツの放送局「ドイチェ・ヴェレ」とのビデオインタビューで、台湾と大陸の関係を「国と国」、ないし「少なくとも特殊な国と国の関係であり(略)『1つの中国』の内部関係ではない」と述べた。「2国論(両国論)」といわれるこの主張は、まさしく「独台」の典型であろう。
つまり台湾建国という「台独」ではなく、「現状維持」という「独台」路線である。また、陳水扁元総統が2002年8月2日、世界台湾同郷連合会第29回東京年会でのビデオ談話で「台湾は1つの独立主権国家である。台湾と対岸の中国は一辺一国と明確に分かれている」と表現した「一辺一国」論も、「台独」ではなく「独台」路線だ。
「二国論」「一辺一国」も現状維持路線
「独台」というレッテルが張られた有名なこの2つの用語こそ、李登輝と陳水扁による「現状維持」路線と言い換えてもいいだろう。
蔡英文氏はどうか。蔡氏は2019年10月の「建国記念日」演説で、「中華民国」ではなく「中華民国台湾」という「名称変更」を提起した。ただ法的変更ではなく、政治的メッセージにすぎない。台湾外交部は変更について「中華民国台湾は主権を有する独立した民主国家であり、主権は2350万人の台湾人民に属する」という解釈を提示した。
蔡氏の「中華民国台湾」は「中華民国」とは異なり、台湾当局が実効支配している台湾地域のみの主権を有する「国家」という主張だ。この認識は「二国論」と「一辺一国」も共通する。蔡氏の場合「中華民国」という「1つの中国」を前提にした「国名」と「憲法」をそのまま用いれば、「中国の主権は台湾に及ぶ」という中国側論理に対抗できない、含意があると思われる。
次に問われるのは台湾の「現状」とは何かだ。中国側の現状認識はどうか。2005年3月の「反国家分裂法」第2条は「世界に中国は1つしかなく、大陸と台湾は同じ1つの中国に属しており、中国の主権および領土保全を分割することは許されない」とし、統一していない現在も、中国の主権は台湾に及んでいるという認識を提示している。
台湾側の現状認識は、馬英九元総統の「中華民国は主権独立国家」という現状維持路線も、「二国論」「一辺一国」「中華民国台湾」と大差ないように思える。そこで中国側は台湾の各リーダーに、(中台)両岸関係の「政治的基礎」として「92年コンセンサス(合意)」の受け入れを迫るのである。
現状認識の相違を「1つの中国」容認によって埋めようとする「踏み絵」だ。「92合意」については北京が「両岸は『1つの中国』原則を堅持」で合意したと主張するのに対し、台北は「『1つの中国』の解釈は(中台)各自に委ねる」(「一中各表」)合意だったとして解釈は異なる。
しかし国民党も現状維持をうたう以上、「92年合意」受け入れによって「1つの中国」を担保し、民進党政権との違いを際立たせたい中国側の思惑が読み取れる。馬英九政権は、「92年合意」を受け入れたことで、両岸関係は大幅に改善し交流が復活した。
一方、蔡政権は2016年の総統就任式で「92合意」は認めず、両岸交流は完全にストップし、政治対立は「敵対関係」と言えるほど悪化した。
「独台」も武力行使の対象
前述の「反国家分裂法」の第8条は、「台独分裂勢力」への非平和的手段(武力行使)を認める条件として、①台湾を中国から切り離す事実をつくり、②台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変の発生、③平和統一の可能性が完全に失われたとき、の3条件を挙げた。
「重大な事変の発生」がどんな事態を想定しているのかなど具体的内容は曖昧だが、「台独」と「独台」を区別していないことは注意を要する。とくに③は、「現状維持」路線が「分断分治」の固定化につながることを想定しているとも受け取れる。
中国が「独台」を台独の一種とみなしている以上、「台独の定義を曖昧にしている」と批判したところで、意味はない。中国が問題にしているのは現状維持という名前の広義の「台独」だからだ。