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北海道「並行在来線」貨物存続に立ちはだかる難題

費用と複雑な「支線」の扱いで議論紛糾の可能性
森 創一郎 : 東洋経済 記者
2023年07月25日


函館本線・七飯―大沼間の通称「藤城支線」を走る貨物列車(写真:杉山茂)
2030年度末に予定される北海道新幹線の札幌延伸開業に伴いJR北海道から経営分離される並行在来線のうち、函館本線・長万部―函館間(約148km)についての議論が動き出す。
7月26日に札幌で開く、国土交通省や北海道庁、JR北海道、JR貨物の4者協議で、旅客輸送の存続が不透明な同区間を貨物路線として存続する場合のメリットやデメリットを整理したうえで、2023年内にも有識者会議(道庁・国交省の共催)を設置。路線の運行形態や費用負担などについて本格的な議論が始まる見通しだ。
複雑な路線、全区間残すのか
長万部―函館間は1日50本程度の貨物列車が走る物流幹線で、この区間が廃止となれば、それは北海道から鉄道貨物が消えることを意味する。さらに、札幌までのネットワークがあってはじめて成り立っている仙台から北の鉄道貨物網も存続できなくなる可能性がある。
ただ、「貨物路線として残す方向にはあるが、4者で存続を合意した事実はない」(国交省幹部)。議論の行方によっては依然、存廃まで含め予断を許さないのが現実だ。
というのも、今回議論される長万部―函館間は複雑に入り組んだ路線になっていて、費用の分担についてはもちろん、そもそもどの区間を残すかも含め議論が紛糾する可能性がある。
函館本線は、函館から七飯までの約14kmは複線だが、七飯―大沼間(約13km)は西側の本線と東側の通称「藤城支線」に分岐する(それぞれ単線)。また、大沼―森間も西側の本線(約22km)と海沿いの通称「砂原支線」(約35km)に分岐している。


砂原支線はもともと渡島海岸鉄道という小さな鉄道会社が1928年に敷設し、1945年に国有化された。藤城支線は、本線の勾配を避けるルートとして1966年に国鉄が建設した。
現在、貨物列車は急な上り勾配を避けるため、上り列車は砂原支線、下り列車は藤城支線を走行している。砂原支線には駅が6つあり、普通旅客列車も1日上下12本走行している。
一方、藤城支線には駅がなく、旅客は1日に普通列車が下り3本走っているだけだ。かつては特急列車も走っていたが、北海道新幹線との接続駅である新函館北斗駅(旧渡島大野駅)が西側の本線にあるため、旅客列車の主要ルートからは外れた。
地元は藤城支線を引き継がない前提
沿線自治体はこれまでの協議で、函館と新函館北斗(約18km)を結ぶ新幹線リレー列車「はこだてライナー」は存続させたい意向だが、それ以外の区間の維持を担うことには難色を示している。
国交省幹部は「まずは地元で旅客列車の運行範囲や形態を決めてもらう必要がある」と話す。貨物路線として維持するにしても、地元が残したい旅客路線の形が定まらなければ具体論には入れないからだ。
道は、ほとんど貨物列車しか走らない藤城支線はJRから引き継がない前提だ。一方、砂原支線は高校に通学する生徒の利用も多く、大沼―長万部間には一定数の乗客もいるため、2023年内にも開かれる次の地元協議会で旅客列車の走行範囲を詰めていく方針。ただ、4月に当選した函館市の大泉潤市長は新幹線の函館駅乗り入れを目指しており、函館―新函館北斗間を三線軌条化して新幹線と在来線の双方が走れるようにする構想もある。この動きを考慮するなら、議論はより複雑になってくる。
函館―長万部間の路線をすべて残した場合、道は30年間で約817億円の赤字が出ると試算している。藤城支線を外しても、それ以外の全区間を旅客路線として第三セクターが運営すれば、地元負担は重くなる。三セクへの補助金にあたる「貨物調整金」も2030年度以降の財源がおぼつかないという事情もある。
逆に、函館―新函館北斗間以外は旅客列車を走らせずに貨物専用線とするのであれば、膨大な維持費を誰が負担するのか、議論は紛糾必至だ。JR貨物の犬飼新社長は以前から「当社がすべて負担することは現実的ではない」と話している。
だが、藤城支線がなくなるだけでも貨物列車の運行には大打撃となる。JR貨物のDF200形ディーゼル機関車は、最大20両の貨車を牽引して七飯―大沼間の本線の急勾配(最大20パーミル、1000m進むごとに20m上る)を上ることはできない。JR貨物の関係者によると、機関車を2台連結して牽引、もしくは補助機を後ろにつけて押し上げるか、貨車を減らして対応するしかないという。「機関車や運転士の手配も必要で、連結には時間もかかる」(JR貨物関係者)。さらに、藤城支線が存在することで事実上の複線となっている区間が、本線のみとなって単線になればダイヤに大きな支障も出る。


北海道で主流のJR貨物DF200形ディーゼル機関車(写真:杉山茂)
問われる道庁の覚悟
一方、貨物路線を維持するためのスキームを議論する有識者会議も先行きはまったく見通せない。三セクなどが線路を保有・維持し、JR貨物が列車を走らせる上下分離が軸になるとみられるが、並行在来線の大部分が貨物専用線になった例はない。格安の線路使用料で旅客路線に貨物列車を走らせることができる「アボイダブルコスト(回避可能費用)ルール」が通用するのかといった「そもそも論」から問い直されることになる。費用面に加え、保線や土木工事を担う人員確保も見通せない。JR北海道に人的余裕がなく、「保線要員の派遣は不可能」(JR北海道関係者)だからだ。
いずれにせよ、並行在来線のあり方をどうするかは一義的には地元の問題だ。道は「全国的な貨物ネットワーク維持の観点から、国が中心となって検討を行うものと考えている」(鈴木直道知事)と他人事だが、農産物や宅配便の輸送の多くを担う鉄道貨物の存廃は道内経済にも大きな影響をもたらす。結局、地元の道が主体性を持たなければ、議論は堂々巡りを続けることになる。