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安倍総理の志は死なない!!

“地球沸騰化”国連の強烈な警告に逆らう神宮外苑再開発、都市の緑こそ必要だ

• 国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化の時代」(the era of global boiling)に入ったと警告。
• 街路樹の樹冠がつくる木陰には路面温度を下げる効果が指摘されており、メルボルンでは2040年までに市街地の樹冠被覆率を40%に倍増させる目標を掲げている。
• 一方で日本の都市部では、神宮外苑再開発を筆頭に各地で樹木の伐採計画が進行。人工物よりも樹木が、現在の都市計画には求められている。
(吉永明弘:法政大学人間環境学部教授)
 毎年のことだが、夏になると毎日暑くてたまらない。
 7月27日に、国連のグテーレス事務総長は「地球沸騰化の時代」(the era of global boiling)が到来したと語った。
◎国連HP「Secretary-General's press conference」(英文)
 地球規模の気候変動の影響とともに、都市部ではヒートアイランド現象が暑さに追い打ちをかけている。
 アメリカのバイデン大統領は「猛暑はアメリカに年間1000億ドルの損害を与えている」と指摘し、労働者を保護するための検査を強化するとともに「都市の気温を低下させ、家族が涼みに行ける場所を確保する」として、10億ドルを投じて植樹の支援を行う考えを表明した。
◎FNNプライムオンライン「“暑さ警報”初の全米規模 10億ドルの植樹支援へ」2023年7月28日
 これは植樹が都市の気温低下に効果的だということを前提とした判断である。
樹木による都市の冷却効果:「樹冠被覆率」というキーワード
 環境植栽学の第一人者である藤井英二郎氏は、「道路に直射日光が当たると、夏場の路面温度は50度を超えますが、街路樹の木陰では路面温度が約20度も低くなります」と述べている(藤井英二郎・海老澤清也・當内匡・水眞洋子『街路樹は問いかける――温暖化に負けない〈緑のインフラ〉』岩波ブックレット、14頁)。
 このように、都市の気温低下に樹木が寄与することは認められているが、藤井氏によれば、大事なのは「樹冠被覆率」を上げることだという。それは一定面積に枝や葉が茂っている部分の占める割合をさす。
 つまり、単に街路に樹木が植えてあるだけではなく、樹冠が街路を覆っていることによって、緑陰効果(緑の日傘)が得られるということだ。
 メルボルンでは、2012年時点では20%程度にとどまる市街地の樹冠被覆率を2040年までに40%にする目標を掲げているという(同書19頁、筆者は當内匡氏)。
 他方で、日本の都市部では、神宮外苑再開発を筆頭に、各地で樹木の伐採計画が進行している。昨年ごろから、この現状に疑問を持つ人々が署名活動などを通じて意思表明をし、その勢いは止まっていない。
 彼らが樹木伐採に反対する理由はさまざまであるが、そこでは樹木による都市の気温低下効果も話題に上がっている。また、最近では強く刈り込まれて丸裸のようになった街路樹をよく見かけるが、そのような「強剪定」は、「樹冠被覆率」を下げることになり、樹木による都市の気温低下効果を妨げるものといえる。
 この夏、個人的に仙台市の街路樹管理に関するヒアリングを行ってきたが、仙台市の並木通り(定禅寺通など)では強剪定は行われておらず、樹冠被覆率が高く、体感的にも涼しかった。



緑が覆い、涼しげな仙台市の定禅寺通(写真:SHOHO IMAI/a.collectionRF/アマナイメージズ/共同通信イメージズ)© JBpress 提供
 今や街路樹や緑地は、都市におけるアメニティを確保するためのインフラといってよい。
保水率を上げる「スポンジシティ」構想
 こうした中で、環境団体「地球・人間環境フォーラム」が刊行している環境情報誌『グローバルネット』2023年8月号(通算393号)で、「環境・社会課題の解決に資する都市計画の在り方を考える」という特集が組まれた。
 3本の短い論考から成るもので、1本目は拙論「近年の都市再開発の問題点」、2本目は中山徹氏(奈良女子大学生活環境学部教授)による「人口減少時代における都市計画の課題」、3本目は穂鷹知美氏(スイス在住ライター、史学博士)による「持続可能な都市空間へ~ヨーロッパの都市再編の新潮流」というラインナップである。
 先のアメリカの取り組みを理解するために、海外の動向を知るという点で、最後の穂鷹氏の論考が参考になる。コロナ禍でヨーロッパの都市空間が再編された、というのがテーマの論考だ。
 具体的には自転車専用レーンの設置が進み、車道や駐車スペースなど車に特化した空間が減らされ、バスなどの公共交通の利用が促されたことが紹介される。加えて、都市計画に多様な人々が参画できるよう工夫されるようになったことが報告される。
 興味深いのは、気候変動への適応策として「スポンジシティ」という構想がヨーロッパで注目を浴びていることだ。
 それは、「都市全体の緑被率と保水率を上げることを通し、干ばつや洪水、猛暑を予防・緩和させるという総合的な水循環のマネジメント構想」であり、2010年代の中国を発祥として、ドイツのハンブルクで実装化されているものだという。
 これは先に紹介した「樹冠被覆率」を上げることにより緑陰効果を高める方策を一歩進めた構想といえよう。
 その他、穂鷹氏は、パリの「15分都市」構想を紹介している。これは車を使わずに15分程度で用が足せる都市を作ろうというもので、コンパクトシティ構想の一種といえるが、これを日本で行う場合には問題が生じる。それを指摘したのが、中山徹氏の論考である。
日本の「立地適正化計画」の問題点
 中山氏は、人口減少時代における都市政策として2014年に策定された「立地適正化計画」について考察している。
 それは市街地の縮小を進める計画であり、具体的には公共施設や商業施設、住居などを中心部に集約することを目指している。それによって行政効率と行政水準が維持されることが期待される。これもコンパクトシティ構想の一種といえよう。
 これに対して、中山氏は、以下の3つの問題点を指摘する。
 第一に、日本では都市部が拡張したとき(高度経済成長期)に、市街地の質を確保するような取り組みがなされず(例えば公園や歩道が未整備)、また災害の危険性が高い地区まで開発したため、質が低く災害に脆弱な地区がたくさんあるという問題だ。その状況のままで市街地を縮小するという政策判断は、市街地の質を改善することを放棄する考えに他ならないと中山氏は指摘する。
 第二に、中山氏は、立地適正化計画の結果、無秩序な縮小になり、目標とは逆に効率の悪い市街地が形成されると指摘する。というのも、立地適正化計画は誘導であって強制力がないため、行政から移動にあたっての補償が出ないことから、郊外に住み続ける人が出てくる。
 他方で郊外の公共施設や商業施設は撤退を余儀なくされるため、郊外の住環境は悪化する。しかし郊外に住み続ける人もいることから、行政サービスは続けなければならない。以上のことから、市街地の縮小は無計画かつ非効率なものになることが予想されると中山氏は言う。
 第三に、立地適正化計画は、郊外の人々が同一市町村内の中心部に移動することを想定しているが、それ以外の場所(県庁所在地や東京都)に移動する人も多く出てくると考えられるため、想定以上に地方の人口を減らすことになると中山氏は分析する。
 以上から、中山氏は市街地を縮小して中心部に施設や人を集めるのではなく、「人口減少で空間的余裕ができるのであれば、その余裕は市街地の質の向上に充てるべき」だと主張する。
 人口減少によって空き地や空き家が増えるのであれば、その空間を地域の質向上に役立てるべきだというこの提案は、都市に緑を増やすという政策にストレートに結びつくものだろう。
都市計画における「規制緩和」の問題点
 順番が逆になるが、最後に拙論の内容を紹介する。
 拙論では、横浜市の瀬上沢緑地において、開発事業が廃止になったという事例を取り上げた。その中で、横浜市が「市街化調整区域」(開発を抑制する区域)であったエリアを「市街化区域」に変更したことによってこの開発が可能になっていたことを問題視した。
 このような変更が簡単にできるのであれば、そもそも「市街化調整区域」と「市街化区域」をエリア分けすることの意義が問われてくるだろう。
 実は神宮外苑再開発の事例でも、同様の安易な規制緩和が行われていた。新宿区は、規制の厳しい「風致地区A地域」や「B地域」に指定されていたエリアを、規制の緩い「S地域」に変更することによって、風致地区の中に開発可能なエリアをつくってしまった。
 しかし、そもそも風致地区というのは開発を抑制するためにつくったエリアであるので、風致地区の中に開発可能なエリアが存在するということ自体に矛盾がある。
 このような規制緩和に関する疑問点は、国の「Park-PFI」や東京都の「公園まちづくり制度」にも存在する。両者は民間企業による土地の利活用を推進することを目的とする点で共通しているが、わざわざ「公園」として指定されたエリアを、普通の土地と同じように民間企業が利用できるのであれば、何のために「公園」という括りを設けたのかが分からなくなる。
アメニティのあるエコロジカルな都市を目指して
 以上が拙論で指摘したことだが、全体として、このように規制が簡単に緩和される事態は、都市計画そのものを危うくしているように思われる。論理的には、都市計画不要論や土地利用規制全廃論に至るこの流れを、都市計画の研究者たちはどう見ているのだろうか。
 中山氏の指摘通り、現在の「立地適正化計画」には問題点があるが、だからといって都市計画が不要だということにはならない。中山氏が提案する「市街地の質の向上」も、穂鷹氏が紹介している「スポンジシティ」も、自動的に実現するわけではなく、行政と市民が協力して計画的に進めていくことが必要である。
 少なくとも、夏でも涼しく過ごせるアメニティ豊かな都市づくり、なおかつ人工物よりも樹木などのエコロジカルなメカニズムを利用した都市づくりが、21世紀の都市計画には求められている。
 そのために植樹計画を進めることも大事だが、もっと簡単にできることがある。
 それは既存の樹木や緑地を残すことである。