Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

中国が「日本の新軍国主義」批判を始めた思惑

毎年夏の「抗日戦争」関連報道に新機軸が登場
小原 凡司 : 笹川平和財団上席フェロー
2023年08月24日


台湾を訪問した自民党の麻生太郎副総裁と会う蔡英文総統(右)。中国は麻生氏の発言に敏感に反応した(写真:アフロ)
日本では8月15日が「終戦の日」と認識され、同日に戦没者追悼式などが挙行される。一方でアメリカでは9月2日に日本の降伏調印式が行われたことから同日が戦勝記念日とされ、中国は9月3日を戦勝記念日としている。
それでも中国メディアは、日本の「終戦の日」に合わせて関連記事などを掲載する。例えば、人民解放軍機関紙・解放軍報の1面に掲載される「八一鋭評」というコラムの今年8月15日のタイトルは、「歴史を記憶に刻み、強軍のために奮闘せよ」である。
過去ではなく現在の日本を批判
しかし、今年の解放軍報の報道ぶりは以前と少し異なる。今年は、現在の日本の安全保障政策を「新軍国主義」と批判し、警鐘を鳴らしたのだ。
新華社の記事を抜粋して同紙に掲載された「歴史を忘れてはならない! 日本の新軍国主義の動向を警戒せよ」というコラムは、「世界を震撼させた南京大虐殺、悪名高き731部隊、残忍な『三光政策(焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす)』など、日本軍は中国で筆舌に尽くしがたい悪行を犯した」とした。
そのうえで「それにもかかわらず、日本は選択的に歴史を『忘れ』、広島の原爆関連行事では自己の『戦争被害者』の側面だけを強調し、一部の政治家は靖国神社に参拝する。昨年来、岸田政権は安保外交政策の重大な調整を行い、平和主義を放棄し軍国主義に戻るという誤った道に日本を進めている」と、現在の日本を批判した。
 同記事は引き続き、岸田文雄政権の安保政策を批判しているが、中国の重大な関心が台湾問題にあることも示唆している。「以台制華(台湾を以て中国を制する)という米国の策略に追随し、台湾問題に奸計を持って介入するのは、日本の一部政治家の一貫した行動である」というのだ。
その具体例として、「麻生太郎自民党副総裁は、今月の台湾訪問中に勝手な議論を吐き、台湾海峡情勢の緊迫を喧伝して対立と衝突をあおり、粗暴に中国内政に干渉した」と主張した。
さらに沖縄大学地域研究所特別研究員とされる人物に「台湾は日本の一部ではなく、台湾問題は他国の内政である。麻生は民進党を支持し、その無責任な発言が沖縄を戦争に巻き込み、極めて不道徳である」と批判させている。対象国の有識者などにその国の政策を批判させるのは、中国の認知戦において一般的に見られる手法である。
今年の解放軍報には「血と命で刻まれた歴史を断固として守る」と題された文章もある。このコラムは、日本が軍拡の道を進み、ある大国の「小さなサークル」に追随し、地域と世界の平和、安全、安定に挑戦をしているとする。
続けて前出の麻生氏の発言を非難したうえで、中国は日本へのあだ討ちではなく道義のために世界平和を維持する責任を負うと主張する。その結果は「強国には強軍が必須であり、軍が強くて初めて国は安全である」という中国自身の軍備増強を正当化する主張になる。
2022年8月15日の解放軍報にも3本の関連記事があり、2021年の同日には2本あるが、いずれも現在の日本の安保政策を直接非難するものではない。2020年に至っては1本のみだった。
「終戦の日」に関連した解放軍報の報道ぶりの変化は、2022年からの日本の防衛努力に対して中国が警戒を強めていることを示唆する。中国は、日本の対中軍事侵攻より、日本の軍備増強や米国・NATO(北大西洋条約機構)との協力が中国の目標達成を困難にすることを警戒し、これらを阻止したいのだろう。
日本との決定的な決裂は望まない?
ただ、同じ2023年の「終戦の日」であっても、中国共産党機関紙・人民日報には、強い日本批判の記事は見られない。解放軍報の3本の記事も、「八一鋭評」を除いて、それぞれ3面、4面に掲載された比較的小さなコラムであり、大々的にアピールしているようには見えない。
米国と歩調をそろえる日本への牽制を中国が強めているのは間違いなさそうだ。しかし、現段階では日本との決定的な決裂は望んでいないのかもしれない。「終戦の日」報道のさじ加減からはそうした迷いがうかがえる。