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安倍総理の志は死なない!!

「ガザ問題」でロシアに便乗する中国の中東外交

中国とロシアは対米牽制で戦略的提携を強める
益尾 知佐子 : 九州大学大学院教授
2023年10月24日
アメリカのバイデン大統領がイスラエルに飛んだ10月18日、北京では「一帯一路」の10周年を記念する高級フォーラムが開かれていた。集合写真で習近平国家主席の隣に立ったのは、ロシアのプーチン大統領だ。
ウクライナ侵攻以降、外遊もほとんどできなくなった彼に、習が国際活動への復帰の道を開いてやった形だ。プーチンは北京で、中国以外にも8カ国の首脳と個別に会談した。
フォーラムでの演説で、プーチンは次々と「一帯一路」との接続計画を明らかにした。既存のインド洋航路に加えて、2024年からロシア沿岸の北極海航路を通年運用する。シベリア鉄道を拡張し、北極海航路と中国などを結ぶ南北ルートを通す。
中国の懐の中で生きるロシア
彼の訪中の直前、中ロ間では相互ノービザの団体渡航も再開された。ロシアは中国のシベリア進出にずっと慎重だったが、新たな国際環境を踏まえ、中国の懐の中で生きる覚悟を固めてきた。
中国は8月末に公開した地図の中で、中ロが2004年に東西等分で合意した大ウスリー島をすべて自国領と記載した。現在のロシアは異議申し立てもできない。
しかし、ロシアにとって中国は悪い協力相手ではない。習とプーチンはフォーラムの演説を午前中に片付け、昼から3時間にわたる首脳会談を行った。冒頭部分は公開されたが、その場で習はプーチンに「私の旧友よ」と呼びかけた。彼をこれほど堂々と厚遇する国が、今ほかにあるだろうか。
では、首脳会談では何が話し合われたのか。最も重要な議題は、急変するパレスチナ情勢、およびアメリカを見据えた中ロ戦略協力だった可能性が高い。
フォーラムの演説では、両首脳は経済政策に議題を絞った。中国外交部によれば、首脳会談では経済問題とBRICS拡大などの多国間協力が議論された。だがプーチンは直後の記者会見で、ウクライナとガザの問題を詳細に話し合ったと述べた。双方はそこで世界戦略をすり合わせたとみられる。
翌19日から中国の動きが顕著になった。習はエジプトの首相と会見し、パレスチナを独立させる「2カ国案」での問題解決を提唱し、アラブ諸国との協調を主張した。カタールのドーハでも、中国の翟隽(てきしゅん)・中東問題特使とロシアのボグダノフ外務次官が会談した。
新華社報道によれば、ここで翟は衝突の根本原因を、ハマスのテロ行為ではなく「パレスチナ人の正当な民族的権利が保障されてこなかったこと」に求め、ロシアと協調して問題解決を図る方針を明かした。ガザ問題で国連決議を提案したロシアの積極姿勢に、中国は便乗していくつもりだ。
現時点では、11月に米サンフランシスコで開かれるAPEC会議に習が出席する可能性も残っている。中国経済の安定化を考えれば、アメリカとの妥協は必要ではないか。
ガザ問題は中国にとってうまみが多い
だが現実には、習政権は真逆の方向に歩を進めている。ガザ問題は、ロシアだけでなく中国の世界戦略にとってもうまみが多いのだ。西側が弱者を支援するウクライナ戦争の構図とは対照的に、この問題ではアメリカがイスラエルという強者を固く支持する。
だがアラブ世界にとって、これはユダヤ人問題を自分たちで解決できなかった西側がパレスチナ人に押し付けたもので、まさに植民地主義の象徴だ。しかも、無辜(むこ)の市民を爆殺するイスラエルへの反発は多くの途上国に広がる。世界の諸悪の根源はアメリカだと宣伝するのに、これほどよい素材はそう見つからない。
しかも、中東は昨今、中国の世界戦略の要地だ。「一帯一路」は中央アジアとアフリカではかなり受け入れられている。さらに中東に食い込めれば、両方の勢力圏を面でつないでいける。
そうすれば、中国は西側の勢力圏を欧州とインド太平洋とに分断できるのだ。中国にとって、対米自律性を強めるサウジアラビアなどの産油国との連携は望むところ。加えて、ロシアが西アフリカで影響力を高めているのもたいへん心強い。
だが、台湾は中国の一部だと強硬に主張する中国が、パレスチナの分離独立を唱えるのはなんとも皮肉だ。世界が将来、この事例で中国のダブルスタンダードを非難していく可能性もあるというのに。