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安倍総理の志は死なない!!

森永卓郎×土居丈朗「財政均衡主義」はカルトか

話題の書『ザイム真理教』めぐり論客が誌上討論
西澤 佑介 黒崎 亜弓 : 東洋経済 記者
2023年12月18日
鳴動する政治。終息しない戦乱。乱高下する市況。その先にあるのは活況か、暗転か――。
『週刊東洋経済』12月23-30日 新春合併特大号の特集は「2024年大予測」。世界と日本の行方を総展望する。
森永 『ザイム真理教』を私が執筆したのは、財務省の唱える財政均衡主義という「教義」が、国民生活の向上を阻害していること。にもかかわらず財務省は、政治家やマスコミを通じ、国債暴落や超インフレの恐怖をあおり、国民をその教義で「洗脳」していること。そんなカルトのような状況を明らかにするためだった。
光栄にも本書は今年のベストセラーとなった。
土居 国民は、税収よりも歳出が多いという帳尻の合わない状態が続く気持ち悪さを、素直に受け止めている。国民は賢いから財務省の言いなりにはならない。
「財務省が国民を洗脳」というメッセージは、国民を愚弄している。
赤字を大きくしすぎるとインフレを招く
森永 財政赤字の唯一の問題は、赤字を大きくしすぎるとインフレを招くことだ。一定額の財政赤字を出し続けても、高インフレにならない限り問題ない。
2020年度の基礎的財政収支の赤字は80兆円だったが、それでもインフレにはならなかった。私は、未来永劫年100兆円程度の赤字を出し続けても、日本の財政には何の問題もないと思う。
土居 10年代は顕著にインフレにならなかったから、あれほど財政赤字を出しても、日銀が国債を買えたので国債暴落が起きなかっただけだ。しかし今後はインフレが起きうる状況となっており、これまでと同様にはいかない。
日銀も国債をずっと持ち続けることはできなくなる。物価高対策で、いずれは市中に事実上売らざるをえない。民間が買った国債は、政府が税金で、利子を払ったり、満期が来たら返済したりしなければならない。「日銀が国債を買えば、返済の必要はない」という本書の主張も通用しなくなる。
森永 現在は通貨供給が過大になったことでのインフレではない、コストプッシュ型のインフレだ。
確かに日銀が国債を持ちすぎればインフレになるが、その天井はそうとう高いだろう。民間が保有する国債の元本返済や利払いが負担になるようなら、その国債を日銀が買い取ればよいだけの話だ。
土居 インフレ期に、日銀が国債を買って通貨供給を増やせば、インフレをあおることにならないか。
日銀が国債を持つ天井はそうとう高いという指摘だが、国債累増との見合いで日銀が買い入れているがゆえに、現在のマネタリーベースは対GDP比で120%、終戦直後の2倍超と歴史的に異常な規模だ。いずれマネタリーベースは対GDP比が安定する水準まで低下させざるをえない。それは通貨量の大幅減か、物価が上昇するかだ。
安定化の必要はない
森永 安定化の必要はない。高インフレにならない範囲で、日銀の国債保有を拡大し続け、そこで生まれる通貨発行益を財源に国民生活を改善させるべきだ。
新たに通貨を発行したら、その額は国の利益となる。その利益を通貨発行益というが、アベノミクスの最大の成果は、年間80兆円程度の通貨発行益を出しても、まったくインフレにはならないと実証したことだ。
土居 いや、通貨発行益とは経済学では、通貨量残高に利子率を乗じた額で、日銀も「有利子の資産(国債など)から発生する利息収入」と定義している。国債利子率がほぼゼロのときは、通貨発行益は10兆円単位とはならない。
森永 通貨発行益を通貨量残高に利子率を乗じた額とするのは、一部の人が通貨発行益を矮小化するため行っている誤った定義だ。
土居 その定義こそ筋が通らない。仮にご指摘の定義を採用し、今年度末の通貨量残高と前年度末の通貨量残高の差を通貨発行益と認識した場合、22年度末は18兆円のマイナスだ。つまり統合政府の財政収支は、22年度は18兆円も赤字が増えることになる。
「政府債務は政府資産と相殺すれば大きくない」という本書の記述も奇妙だ。政府の主な金融資産は年金積立金。将来の年金給付に充てるそれを相殺し借金返済に充てる、という議論に意味はない。
森永 政府が抱えている資産1100兆円のうち、年金積立金は200兆円程度で、しかも年金債務が負債にも計上されている。資産の大部分は、持つ必要のない資産だ。
増税ではなく経済対策が先
土居 国の資産のほとんどは、売るのが非現実的な資産だ。政府が持つ米国債は売れば金融市場が混乱するし、外交上の難しさもある。政府系金融機関からの貸付金も、保有をやめることは法人・個人への貸し剝がしを意味する。実物資産は道路などのインフラだ。
森永 売ったほうがよい資産もある。外貨準備は必要額の何倍も保有している。高速道路もすでに民営化されているのだから、株式を公開すればいい。不動産も、国会議員が格安で入居する都心のタワーマンションも、都心の公務員住宅も、いろいろある。
政府はそれをせずに増税を進めようとする。増税ではなく経済対策が先だと言いたい。税収弾性値は最近では3を超えている。「消費税は全廃して今後も復活させない」と宣言すれば、確実に消費は増えて経済は拡大する。
土居 税収弾性値は、増税せず経済成長すれば税収が多く入る話のときばかり持ち出されるが、反面、国民負担率が高まることを意味する。仮に税収弾性値が3なら日本の国民負担率はたちまち50%を超える。税収弾性値が高いと国民負担率はおのずと上がるという現象を隠してはいけない。もっとも現実には、税収弾性値はそれほど高くはない。
・税収弾性値…経済を1%成長させたとき税収が何%増えるかの指標
・国民負担率…税金や社会保障費が国民の所得に占める負担の割合
森永 すでに日本の社会保障や公的サービスは劣化している。公的年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金給付の比率)は先進国中最低水準だし、公的教育費がGDPに占める比率はOECD諸国内で最低水準だ。これ以上緊縮になってはいけない。
土居 日本の医療保険制度はWHO(世界保健機関)からも手厚いと評され、世界に冠たるものだ。
教育支出が低水準というのは、全人口に占める児童・生徒数の比率が他国より低いからだ。日本では、小中学校は大半が公立で、義務教育は無償。教育への財政支出を渋っているわけではない。
公的年金の所得代替率が低いのは、04年の年金改正でこれ以上社会保険料負担を増やしてほしくないと労使が求め、事実上の賦課方式化したからだ。緊縮財政のせいではない。
もし国民の総意で、所得代替率をもっと上げるべきだということになったら、年金保険料を上げれば実現できるだろう。
国債を日銀に買い取らせればいい
森永 所得代替率の引き上げを増税に頼る必要はない。国債を日銀に買い取らせればいい。
欧州の多くの国で少なくとも公立大学は無償の国が多いのに対し、日本の国立大学の授業料は年間53万円を超えている。人口割合の話だけではない。
土居 高等教育に関しては、20年度から消費税増税財源を用いて、低所得世帯の授業料・入学金の軽減と、給付型奨学金の大幅拡充を行っている。
財源を国債買い入れで賄うのも、結局は教育費負担の軽減をした学生に、将来その返済負担を強いるだけ。将来のある学生に投じる教育費は、低所得世帯に配慮しつつ、高所得の親により多く出してもらう形で、親世代が責任を持って負担するべきだ。