Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

「米欧中は巨額投資で覇権争い」完全に出遅れた"日の丸半導体"の落日

梶山経産相は「半導体産業が国家の命運を握る」と明言
2020年の秋以降続いている世界規模での半導体供給不足は、いよいよ経済安全保障をにらんだ「半導体ウォーズ」の様相を色濃くしてきた。そんな中、日本の現状はすでに周回遅れが明らかで、完全に蚊帳の外に置かれてしまった。


そんな状況下、遅ればせながら経済産業省は3月24日、半導体産業の競争力強化に向けた方策を探る産学検討会「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の初会合を開いた。今後の議論を経て、5月頃に政策の方向性を取りまとめるためだ。


初会合の冒頭、梶山弘志経済産業相は「高い競争力を持つ強靭な半導体産業を持つことが国家の命運を握る」と強調した。


しかし、世界的な半導体不足に加え、3月19日には自動車向け半導体で高いシェアを持つルネサスエレクトロニクスの生産子会社であるルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で工場火災が発生した。これが追い打ちをかけ、自動車各社の生産が一時停止に追い込まれるなど、政府対応は完全に出遅れた。


米インテルは約2兆円超でアリゾナに新工場を建設
会合には富士通やNEC、ルネサスなどの企業と学識経験者が参加し、さながらオールジャパンでかつて世界シェア5割を占めた「日の丸半導体」の復活にかける、「栄光の日々を再び」との幻想もちらつく。


だが、梶山経産相が日本の半導体産業について「危機感を持っている。大胆な政策を打ちたい」と語っても、むなしく響くだけという印象は避けられない。世界規模での覇権争いが急展開する現状を真正面に見据えた悲壮感には乏しいからだ。


実際、米国、欧州連合(EU)、さらに中国の覇権獲りに対する熱量、スピード感に比べ、日本政府の姿勢には決定的な差がある。


それを端的に物語ったのは米国の出方だ。


経産省がやっと重い腰を上げ産学検討会の初会合に臨んだ直前の3月23日(米国時間)、世界の半導体市場で圧倒的な存在感を示してきた米インテルは、200億ドル(約2兆2000億円)の巨額を投じ、米西部アリゾナ州に半導体の新工場を建設する計画を発表した。


台湾と韓国の世界二強に出遅れていたインテルが巻き返しへ
インテルの発表によれば、2024年の稼働を目指して既存の生産拠点にパソコン向けのCPUなどに使われる回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートル程度の先端半導体を生産する工場を新設する。


これは、外部企業の半導体製造を請け負う「ファウンドリー(受託生産)」で台湾の台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子という世界二強に出遅れていたインテルが、先端半導体の領域で巻き返しに打って出る巨額投資となる。


この巨額投資で何より世界の半導体業界を驚かせたのは、インテルがファウンドリー事業への参入を表明した点にある。


世界の半導体産業の潮流は2000年に入ってから工場を持たないファブレス化が進み、受託生産に特化したTSMCと、サムスンがその受け皿として飛躍的にその存在感を増した。


半面、インテルは開発から生産まで自前で賄う垂直統合型の事業モデルを貫いてきた。売上高で世界最大を維持しているとはいえ、その結果インテルはTSMC、サムスンに製造技術で立ち遅れ、地盤沈下を招いてしまった。


その打開策としてインテル自らが受託生産に乗り出し、TSMC、サムスンとの真っ向勝負に打って出る戦略は、半導体業界には衝撃以外の何物でもない。


バイデン大統領がサプライチェーンを見直す大統領令に署名
インテルにとって受託生産参入は180度の戦略転換でもあり、それを可能にしたのはインテルのトップ交代にあった。今年2月、インテルに30年従事し、全盛期を知る元最高技術責任者(CTO)のパット・ゲルシンガー氏が復帰し、最高経営責任者(CEO)に就いた。


ゲルシンガーCEOは、新たに参入する半導体受託生産を、米国だけでなく欧州での事業展開も計画し、ファウンドリーを新たな成長戦略に位置付ける。3月23日の新工場建設発表の場でゲルシンガーCEOは「ファウンドリーの大部分はアジアに集中し過ぎだ。地理的バランスが取れた製造能力が必要」と発言し、TSMC、サムスンをけん制した。


しかし、インテルに戦略転換を促したのはそれだけでない。そこには、バイデン米政権による後ろ盾が働いたことは疑う余地もない。


今年1月に政権移行を果たしたバイデン大統領は2月24日、半導体をはじめ米国の基幹産業を支える重要部材4品目のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名した。100日以内に具体策を打ち出し、重要部材の国産化を促す狙いだ。


「米国の国益や価値観を共有しない外国に依存できない」
バイデン大統領による大統領令署名は、トランプ前政権以降、米国との対立が激化する一方の中国を念頭にも置いている。バイデン大統領は「米国の国益や価値観を共有しない外国に依存できない」と明言し、対中強硬路線を鮮明にした。


連邦議会も新型コロナウイルスによるパンデミックをきっかけにしたサプライチェーンの混乱から世界的な半導体不足が米国の国力を低下させかねないと危機感を抱き、本年度の国防権限法に370億ドルの補助金を計上する半導体の支援策を盛り込んだ。


バイデン政権が半導体不足に危機感を抱いている背景には、1990年に世界で37%のシェアを誇っていた米国の半導体生産が2020年には12%まで低下した現実がある。クアルコムなど米半導体大手が軒並み製造部門を持たない、いわゆるファブレス化を進めた結果である。だが、深刻な半導体不足を背景に、今後は自国調達に取り組まざるを得ない。


このため、米国はTSMCが約120億ドルを投じてアリゾナ州に2024年稼働予定の新工場の誘致にこぎつけた。ただ、米国内への半導体供給を台湾の企業に大きく依存する産業構造は、対中戦略という台湾の地政学的リスクを考えれば、危うさが付きまとう。それだけに自国企業インテルが国内での巨額投資、しかも米国内で需要が旺盛な受託生産の受け皿になる意味は大きい。


EUは約18兆円を投じて、世界シェア20%を目指す
実際、インテルの新工場の記者発表にはレイモンド米商務長官が参加し、「雇用を創出し、安全保障や供給網を強化できる」とインテルの巨額投資をたたえた。それは、バイデン政権が米国の強い産業力の生命線に位置付けた半導体、そしてその盟主、インテルそれぞれの復権をかけた官民一体のプロジェクトのスタートを意味する。


EUも米国と同様に、世界的な半導体不足とアジアに大きく供給を依存する現状に対して危機感を抱く。


EUの行政執行機関である欧州委員会は3月9日、EUとして2030年までのデジタル化の目標を示す「デジタル・コンパス」計画を発表し、域内での次世代半導体生産を拡大し、世界の半導体生産でシェア20%を目指す方針を打ち出した。


EUの2020年の世界生産シェアは10%にすぎない。EUは今後2~3年で、コロナ禍を受けて設けた復興基金の約20%に当たる1450億ユーロ(約18兆円)を投じてシェア倍増につなげようとしている。


今の日本に「自国調達体制」を確立できる力量があるか
一方、中国の動きも見逃せない。


中国は米国の制裁を受けて、中核産業に位置付ける半導体を国内で自給できる体制の確立を急ぐ。巨額な補助金により国内での増産投資を後押しし、半導体供給の覇権獲りに動く。


中国の2020年の世界生産シェアは15%。だが、2030年には台湾を抜いて24%のシェアに上昇し、世界最大の半導体王国になるとの予測もある。


米欧中が巨額の補助金も惜しまず台湾、韓国に過度に依存する半導体供給の構図から脱し、「自国・地域第一主義」に大きく傾き、覇権争いは激しさを増す一方だ。


それに対し、日本は蚊帳の外に置かれたのも同然だ。


何しろ、今の日本に自国調達体制を確立できる力量があるかとなれば、大きな疑問符が付く。実際、1980年代に世界生産シェアで50%を誇った「日の丸半導体」は今や15%まで落ち込み、見る影もない。台湾、韓国勢に伍して戦えるのは東芝から分離・独立したキオクシア(旧東芝メモリ)などに限られる。


米欧中に大きく見劣りする、日本の半導体戦略
そのキオクシアも米半導体大手のマイクロン・テクノロジーとウエスタン・デジタルから買収提案を打診されるなど、激動する今の半導体業界の状況を反映している。


この現状を踏まえ、経産省は「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の初会合で、先端半導体の国内での生産は海外勢を誘致して量産体制を構築する構想を提示したのである。


同時に経産省は、先端半導体の技術を支える製造装置や半導体材料といった周辺領域で日本勢が世界で高い競争力を持ち、大きな存在感を堅持していることから、周辺領域を含めたオールジャパンでの製造技術構築による生き残りをもくろむ。


経産省の誘致により、TSMCが今年2月、日本に研究開発拠点を設置し、次世代半導体材料の開発することを発表したのはその表れだ。


それは「日の丸」へのこだわりを捨て、外資に頼らざるを得ない今の日本の半導体産業の置かれた現実でもある。この現実は何とも重い。


経産省が半導体の国内生産に音頭を取り始めたとはいえ、その対応は弥縫策にしか映らない。闇雲に国内での生産を増やしても課題は解決しない。経産省主導のそれは、国・地域を挙げて半導体産業をテコ入れする米欧中のそれからは大きく見劣りする。後手に回る政策対応からは日本の将来展望は見えてこない。