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安倍総理の志は死なない!!

新幹線札幌延伸で気がかり「並行在来線」の大問題

30年度末開業だが、いまだ方針が決まらない
鉄道ジャーナル編集部
2022年03月24日


駒ヶ岳を望みながら噴火湾沿いを伝う函館本線。非電化ながら特急や貨物列車が数多く往来する対本州の大動脈だが普通列車は短編成で本数・利用者とも少ない(落部ー野田生間)(写真:久保田 敦)
鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2022年5月号「どうする? 平行在来線」を再構成した記事を掲載します。
北海道新幹線は2030年度末完成を目標にして、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)により新函館北斗ー札幌間約212kmの建設工事が進められている。この路線が開業すると函館本線のうち函館ー小樽間が、JR北海道の経営から分離される。2030年度末まで残り9年となった現在、JR北海道からの経営分離後の並行在来線をどうするか大問題になっている。
地元との実際の協議は函館ー長万部間と長万部ー小樽間に分けて行われている。前者は山岳地帯を越えてゆく険しいルートのため特急や貨物列車の運転もない路線となって久しく、都市圏輸送的な余市ー小樽間の問題が残るものの、他の区間は鉄道の廃止、バス転換が決断された。だが後者は、2021年4月から協議が停滞している。
旅客は維持困難でも物流の大動脈
こうした状況の中で函館―長万部間について、数人の学識者や元新聞記者の方に見解を聞いた。そこでほぼ共通しているのは、「あれほど立派な、基本的に複線で重量に耐え、そして在来線鉄道としては高速輸送が可能な路線は貨物路線として残すべき」との意見だった。
ローカルの旅客輸送の実情からは、一部区間を除いて残せる状況にない。鉄道の特性も発揮されない点から、「やめるのが正解。(他の同様の路線も)やめるべき」と、断言する人もいる。しかし、本州・北海道間の物流ルートとしては間違いなく大動脈の輸送モードの1つである。北海道から本州へは乳製品・農作物・紙製品・自動車部品が上位品目で、年間輸送量は約230万トン。本州から北海道へは加工食品・飲料・衣料・宅配便等で同様の輸送量がある。道内発の乳製品や農作物は出荷翌日に首都圏等の店舗に並ぶ。食糧基地としての北海道が、消費地としての首都圏はじめ大都市の生活を支える関係にある。
それに対して、並行在来線を論じる制度は狭い地域の人流面だけで設計され、小さな自治体の判断だけで存廃が左右される仕組みである。今回の事象を議論する上で圧倒的にステークホルダーが少なく、「もはや制度が馴染まない」という見方は共通しており、元国土交通省の関係者にして「事ここに至ったからには、JR貨物と北海道、国による新たな組織体を作るしかないと思う」との言であった。
ここで北海道庁交通政策局の担当部署による話を差し挟むと、「沿線自治体の財政で線路を持つことは困難。しかしそれを線路を外すことに直結させるのは飛躍しすぎ」と聞いた。部内では何らかの検討はされていることだろう。
ただし、現在の並行在来線対策協議会は地域の輸送をどうするかを地元で判断する場であるため、物流やJR貨物の話はしないとの意思を固めている。物流路として線路が残ればそこに旅客が相乗りできる。現在とは逆の形で旅客列車を残せる――との頭から、「物流を先に議論すべき」との声も当然あるが、それは押さえ込んだ形だ。地域交通とは別部署の物流担当者は「地域の方向性が出てから具体的な検討に入る」としている。
地元自治体には物流の責がなく、JR北海道は地元が切り離しを同意しているので線路維持に参画することはない。すると、JR貨物が第1種鉄道事業者となればすっきりするが、そもそもJR旅客各社の路線を走る上では、アボイダブルコストルールに基づく線路使用料の設定で負担が軽減される制度設計としたことで採算に乗っており、一身に引き受けるのは困難だ。
一方、この物流を維持することにより恩恵を受けるのは道内の生産者であり、道外全体の消費者である。となれば「道内の産業振興を司る北海道が線路を持ち、そこに国税で支援するという形が納得を得やすいのでは?」と話す人が多かった。
「知事の顔が見えない」
現在の並行在来線問題における北海道は、沿線自治体の事務局としか見えず、北海道の問題として先頭に立つ雰囲気が感じられない。今までの他線の例であれば県が主体となっていたものだが、今回の例ではまったく沿線市町の判断が報じられるばかりで、「知事の顔が見えない」との批判は大きい。地元の話が決着した段階になれば、北海道が前に出てくるのだろうか。
国民の食糧問題や首都圏の災害などへの備えとして捉えれば、政治の判断として北海道貨物鉄道会社などと名乗る特殊法人が立ち上げられることになるのだろうか。それであれば、交通問題として国土交通省だけで考える問題ではなく、財源は国全体として考えなければならない。となれば、今は北海道内の話として知る人も少ないこの問題について、全国へのアピールが大事になってくる。
また、既存の事業者が承諾でき、そして同等の支援となる制度でなければ不満が噴出する。
並行在来線の第三セクター会社に支払われている貨物調整金は、現在建設中の整備新幹線が全線開業する2030年度までに新制度に移行する申し合わせがなされているし、JR貨物とJR旅客各社の間にアボイダブルコストルールが横たわる限り、国としての目標でもあるJR貨物の上場を旅客会社は認め難いだろう。それらを合わせた総合的な制度が必要とされている。
船舶代替案の是非
物流の話を聞き集める中では、船というアイデアも根強かった。一時期、国土交通省内でも検討されたが、港と発着地との間の陸上輸送がトラックおよびそのドライバーの確保が大問題として沙汰止みになってしまった。
だが、道内および本州以南の輸送は現状どおりの鉄道輸送とし、港ではコンテナを1つずつ積み替えるのではなくコンテナ列車をそのまま船に積載する。さらに往時の青函連絡船のような小さな船ではなく、コンテナ列車数本を積載する大型船とする案はいかがか。船の性能も向上しているので、荒天時の欠航率は以前と異なり、速達性もあながち劣るとも言えないのではないか。
この船ルートのメリットとしては、北海道新幹線の青函トンネル共用走行区間を新幹線専用にすることができ、新幹線電車を所期の目標どおり時速260km運転として本州―北海道間の速達化が前進することがある。室蘭や苫小牧であれば線路は港の近くまで達している。苫小牧は現在、フェリーが発着している西港に対して東港は市街から少々距離があるため遊休化している。現状はローカル線に過ぎないが、鵡川まで残された日高本線が使える。このインフラの活用にもつながってゆく。
新幹線については最近のコロナ禍による旅客減の中で物品輸送が活発化しているが、本格的な貨物輸送に活かす方向も考えられていることだろう。パレットを旅客電車スタイルの荷物電車に積む方式ならば、旅客列車のダイヤに組み込んでゆけるし、巨大インフラながら十分に活用できているとは言い難い北海道新幹線の力を活かせる。現在は旅客会社による事業だが、JR貨物を参入させて急送品輸送は新幹線とすれば、貨物輸送として商品の幅が広がる。
だがデメリットとしては、道南いさりび鉄道は貨物による線路使用料収入がなくなり、旅客一本ではとても立ち行かなくなる。本州側の船の発着地によっては青い森鉄道やIGRいわて銀河鉄道も同様であり、本州内を貫く動脈をどのように考えるか、それだけで国政レベルの交通問題に値する。そして、航送船ならばその船も複数建造しなければならず、道内輸送をどのような形態にするにしても、港湾や物流施設の見直しは不可欠だ。
函館―新函館北斗間については、2018年度の輸送密度は4261で、人口は減少する中で新幹線札幌開業に伴う乗り換えの増加により2030年度は5592に上昇し、2040年度においても4640と予測されている。国鉄改革当時の基準でも廃止対象ではない水準であり、仮になくせば、函館市は新幹線駅と市街中心地間のだれの目にも明確な輸送ルートを失う。
それは、函館を行きにくい地にすること、あるいは飛行機にシェアを譲ることにほかならず、新幹線を経営の柱にしようとしているJR北海道自身にとっても、みずからの首を絞めることになってしまう。
ゆえに残されると目されてはいるものの、具体的には何も決まっていない。北海道新幹線が札幌に到達すれば自らの手は離れるという路線を電化し、新型電車を投入しているJR北海道の行動にヒントがあるように感じられるが、函館市の中でも、JRが手掛けない場合の引き受け手としては最も順当な事業体に思える道南いさりび鉄道においても、表に出てくる動きはまったく見られない。函館市によれば現在、「北海道による精査を待っているところ」である。
新幹線開業まであと9年、残された時間は短い
その道庁は、「例えば函館の広大な構内一つ取っても、道内全体の車両を管理する施設は不要であり、どの程度の範囲の資産を譲り受けるかで負担は大きく変化する」とし、協議会の求めにより順次出されてくるJR北海道からの資料を、さまざまなパターンで検討中と言う。
いずれにしても、これらのことをあと9年のうちに意思決定し、工事を行うべきは工事を行い、実現させなければならない。
すると、もはや残された期間はきわめて短く思える。また、これまで国で決めた制度・システム全体に関わってくることだけに、各種の決め事にも手を付けなければならない困難が待ち受けている。すべて時間切れで立ち止まり、線路だけが消えてしまったなどという事態だけには至らないでほしいものである。