Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

上空を飛行する「謎の気球」に鈍感な日本の危うさ

外国人に平然と買われる無人島は米軍基地そば
清水 克彦 : 政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
2023年02月21日

右にある島が屋那覇島(写真:efksu/PIXTA)
2月15日、自民党が開いた国防部会などの合同部会。席上、自民党の安全保障調査会長を務める小野寺五典元防衛相は、このところ安全保障上の大きな問題となっている気球への対応について政府に矛先を向けた。
「中国のものと把握できていなかったなら大問題。把握していたのに抗議していなかったのなら、さらに大きな問題だ」
これまで何度か取材してきたが、小野寺元防衛相は温厚な政治家だ。その彼が語気を強めた背景には、2020年6月、仙台市などで目撃された気球について、当時の河野太郎防衛相(現・デジタル相)が、報道陣の問いに「気球に聞いてください」「どの気球? 安全保障に影響はございません」などと答えたことがある。政府の認識がどれだけ無防備だったかを指摘したのだ。
無防備といえば、34歳の中国人女性が沖縄県伊是名村(いぜなそん)の所管する無人島、屋那覇島の約半分を購入したことも、安全保障上の大きな懸念といえるだろう。
無人島「屋那覇島」はどんな島か
屋那覇島は沖縄本島の北、約20キロのところにある県内最大の無人島だ。伊是名村(人口約1300人)が所管する島の1つで、広さは東京ドーム16個分。島の約3分の1は国と伊是名村(国8%、伊是名村26%)が所有している。
土地所有権は900以上に分かれていて、民間企業などが所有する土地が競売にかけられた結果、2021年2月、女性の親族が営む会社が購入したというのが主な経緯である。
同社に電話を入れると留守電が流れるだけ。ホームページ経由で問い合わせをして数日経つが、まだ返事は得られていない。そのホームページには、「創業以来行ってきた不動産売買・賃貸業を礎に、優良物件への積極的な投資を行っております。またリゾート開発事業へも進出し、直近では沖縄県の屋那覇島取得して現在リゾート開発計画を進めております」(原文ママ)とあり、屋那覇島については「島の周りはラグーンで囲まれていて、波が穏やか」とも記されている。
伊是名村役場に聞けば、屋那覇島は、沖縄本島からのキャンプ客や釣り客、潮干狩り客が多い島だという。SNSに投稿された女性の動画でも、「ビジネス目的で購入した」とあるため、購入の目的は本当にリゾート開発なのかもしれない。
とはいえ、沖縄の嘉手納基地や普天間基地などと60~70キロ程度しか離れていない島を、外国人が購入できてしまうのは、安全保障上、「大きな穴」というほかない。「へえ、買われちゃったの?」で済まされる話ではない。
今回の問題について、伊是名村の奥間守村長は「戸惑っている」と述べる。
2月17日、伊是名村では別の案件を審議するため臨時の村議会が開かれたが、取材をすると担当者からは次のような声が聞かれた。
「ネットニュースで報道されてから、役場には問い合わせや苦情が殺到しています。前にも外資系企業が他の無人島、具志川島を視察したことがあったのですが、今回の件は驚きです」
「村が島を売ったわけではなく、あくまで民間の取引ですから、私どもとしましては、事実関係の把握に努め、誤解のないように説明していくとしか答えようがないです」(以上、伊是名村総務課・諸見直也さん)
「法律で規制できない」と政府も困惑(←それをやるのが政治家!Lawmakerという言葉を知らんのか?!)
今回の屋那覇島購入問題に関し、2月13日、松野博一官房長官は定例の記者会見で、「国境離島または有人国境離島、地域離島に該当するものではない」と述べて、土地取引が、国境離島やアメリカ軍、自衛隊基地周辺などの土地取引を規制する「重要土地等調査法」の対象にはならないと明言した。翌14日、高市早苗経済安保担当相も同様の見解を示している。
「重要土地等調査法」は、2022年9月に施行された法律で、自衛隊の基地や原子力発電所といった重要インフラ施設から1キロの範囲や、国境に近い離島などを「注視区域」や「特別注視区域」に指定し、国が土地などの所有者の氏名や国籍などを調査したり、一定の面積の土地を売買する場合、事前の届け出を必要としたりするためのものだ。
その区域で問題行為が確認されれば、国は土地や建物の利用を中止させることができるが、屋那覇島の場合、これに該当しないという。
日本では、「注視区域」や「特別注視区域」を除けば、日本人でなくても自由に土地を購入し所有できる。アメリカでは、フロリダ州やテキサス州で一部の外国人の土地購入を規制する法整備が検討されているが、日本ではそんな動きはない。
しかし、中国には「国家情報法」が存在する。この中の第7条がなかなか厄介なのだ。
いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない。国は、そのような国民、組織を保護する。(第7条)
つまり、土地の購入者が民間企業や個人であっても、中国政府が情報提供を求めた場合、応じる義務があるということだ。
いずれにせよ、外国人の土地購入に関し、規制する法律がない以上、政府は黙認するしかない。ただ、手をこまねいている間に、「注視区域」などを除く拠点の近くに、日本人以外が土地を購入するケースが増えたらどうするのか、検討はしておかなければならない。
もちろん、冒頭で述べた気球問題も、安全保障上、「大きな穴」になり得る。前述した自民党の合同部会は、2月16日、領空に許可なく侵入した気球や無人機を自衛隊が撃墜できるようにするため、武器の使用基準の見直しを了承した。
現在の自衛隊法84条では、このように定められている。
防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 、その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる
この条文は、あくまで戦闘機のような有人機を想定したもので、撃墜は正当防衛と緊急避難の場合に限られている。
その範囲を拡大すれば、アメリカが領空を侵犯した気球などを相次いで撃墜したように、自衛隊も、仙台市などで目撃された中国のものと思われる気球を撃ち落とすことが可能にはなる。その反面、政府・防衛省には3つの課題がのしかかってくる。
日本が抱える3つの大きな問題
(1)中国の猛反発をどうするか

中国は日本の姿勢を、「アメリカの大げさな騒ぎに追随するな」「根拠もなく誹謗中傷するな」と非難している。実際に撃墜すれば、政治だけでなく、経済面での関係が急速に冷え込む。特に人的交流や貿易面で影響が出る可能性がある。
(2)自衛隊の戦闘機で撃ち落とせるのか
アメリカは2月12日、ミシガン州のヒューロン湖上空で、F22戦闘機が「AIM-9Xサイドワインダー」ミサイルを発射して物体を撃ち落としたが、最初の1発は失敗した。気球は旅客機などよりも高い1万8000キロ程度まで上昇するため、レーダーで捕捉しにくい。エンジンを2つ搭載し出力が高いF22戦闘機でも目標を外すくらい、気球を撃ち落とすのは難しい。そもそも、日本はF15やF35戦闘機を保有しているもののF22戦闘機は持っていない。
(3)たくさん飛んでいる気球を見分られるのか
2月13~14日、在京メディアの報道部長クラスを招いて行われた那覇および与那国駐屯地視察研修で、航空幕僚監部の担当者(一等空佐)は、このように説明した。
「観測用や調査用の気球がたくさん飛んでいる。我々も飛行の際、気を付けながら飛んでいるほどで、怪しいものかどうかの見極めが難しい。高度1万5000メートル以上を飛んでいる気球だと、撃墜するには相当なテクニックが必要」
これらのうち、(2)と(3)について、筆者が渡部悦和元陸将に聞いたところ、「命令があれば十分に撃墜できます」という答えが返ってきた。ただ、航空自衛隊トップの井筒俊司航空幕僚長が2月16日の定例記者会見で、「高い高度で飛行体が小さい場合、撃墜の難易度は高くなる」と語った点も無視できない。
こうして見ると、これまでの安全保障と防衛費を大きく見直すために防衛3文書を改定し、防衛費増額に踏み込んだだけでは、日本の安全保障は万全とは言えない。防衛の拠点に近い土地が外国人に買われてしまう可能性、あるいは、飛来する気球や無人機を撃墜できないというリスクも想定しながら、「大きな穴」を埋める対策が急務となりそうだ。