Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

沖縄の離島村長は力なく笑い「まず無理でしょう」…台湾有事の避難想定は「現実離れ」

■夜は使えない空港、悪天候や海況の考慮なし
 台湾有事となれば影響を受ける沖縄県・先島諸島の住民避難を巡り、より避難に時間のかかる小規模離島の自治体から国や県の想定の甘さを懸念する声が上がっている。空港・港湾施設が脆弱(ぜいじゃく)な上、悪天候や海況の影響を受けやすいことが考慮されていないためだ。本土復帰から半世紀を経て「国境離島」が直面する新たな課題。専門家は「島民に避難を躊躇(ちゅうちょ)させない方策が必要だ」と指摘する。(遠藤信葉)
■初の図上訓練
 今年3月、先島諸島5市町村の防災担当者が沖縄県庁に集まった。台湾有事の懸念が高まる中、政府と県が国民保護法に基づき、住民避難を想定して初めて実施した図上訓練。事前に設定した流れに沿って進められたが、多良間村の伊良皆(いらみな)光夫村長は、その想定に疑問を禁じ得なかった。
 宮古、石垣両島の間に位置する多良間島などの村の人口は約1100人。住民は生産量日本一を誇る黒糖生産などに従事する。島からの交通手段は、約60キロ離れた宮古島との間に1日2往復のプロペラ機(定員50人)と1日1往復のフェリー(同150人)だけだ。
 訓練で示されたのは、1日で全村民を宮古島に避難させ、その後、九州へと渡る計画。観光客らも含めて、宮古島まで空路で400人、フェリーで900人を運ぶとされた。「あまりに表面的。まず無理でしょう」。4月に取材に応じた伊良皆村長は力なく笑った。
 多良間空港(滑走路1500メートル)は滑走路が800メートルしかなかった前空港に代わり、2003年に沖縄振興予算で整備された島民念願の空港だ。それでもプロペラ機しか離着陸できず、400人を運ぶには1日8往復する必要があるが、夜間照明がなく、日の出前と日没後は使用できない。伊良皆村長は「乗降や整備も含めて1往復に1時間半から2時間かかる。とても間に合わない」と指摘する。
 フェリーも、車両や貨物スペースを利用すれば員を超えて住民を乗せられるが、波が3メートル以上になると就航できない。冬の欠航率は高く、運航できない可能性もある。「実情が考慮されていない現実離れした訓練としか思えなかった」
■高まる危機感
 課題を抱えるのは、九つの有人離島で約3800人が暮らす竹富町も同様だ。
 昨年8月には、台湾周辺で軍事演習を行った中国軍の弾道ミサイルが、波照間(はてるま)島沖の排他的経済水域(EEZ)内に着弾し、町民の危機感が高まった。
 しかし、島間の移動は船しかない。前泊正人町長は「海の状況や支援が必要な人の数は島ごとに異なる。住民の不安も募っており、説明できる計画を立ててほしい」と要望する。
 多良間村の伊良皆村長が輸送計画に加えて懸念するのが、島民の受け入れ先が不透明なことだ。図上訓練では九州に避難する想定だったが、避難先の自治体や受け入れ態勢の調整は全く行われていなかった。
 伊良皆村長は訓練後、自民党国防部会にオンラインで参加し、避難先や食料の確保などに対する不安を訴えた。「有事はいつあるか分からない。国と県は避難計画とともに避難先の整備も急いでほしい」と話す。
 政府と県は今年度も図上訓練を行う方針だ。内閣官房によると、3月の訓練後、避難の実効性や受け入れ先確保などの課題について、県や市町村の懸念も聞き取って検討を続けているという。担当者は「避難には住民の理解が不可欠。各自治体と相談しながら進めていきたい」と話している。
■欠航や病人対応の検討不足…図上訓練で助言の中林准教授
 図上訓練でアドバイザーを務めた国士舘大の中林啓修(ひろのぶ)准教授(危機管理学)=写真、本人提供=は、国民保護法が成立した2004年以降、武力攻撃を想定した検討ができていなかったと指摘し、「大きな一歩を踏み出せた」と訓練実施に一定の評価をする。
 一方で、移動自体が生命のリスクとなる重病人らへの対応方法が不足していたことや、島しょ部では季節や天候による欠航率も考慮しなければならないことなども明らかになり、「質的な検討を深めていく必要性が見えてきた」と語る。
 一時避難先となり得る地域と連動した検討の不足も指摘し、沖縄だけでは限界がある。国主導で複数県を巻き込んで訓練を行うべきだ」との見解を示した。
 また、武力攻撃を想定した避難は住民に不自由を強いるものだとして、「納得感を持ってもらうために住民の疑問や不安の声と向き合い、知恵を磨いていくべきだ。今は議論百出で構わない」とも語り、課題への対処を次の訓練で生かす必要性を強調。「国境離島で暮らす住民の命や生活を守る計画を早期に策定することが、国を守ることにもつながる」と指摘した。