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安倍総理の志は死なない!!

ドイツ経済・気候保護省スキャンダルで注目される「環境ロビーネットワーク」の闇の実態

目に余る縁故採用の実態
ドイツで人気絶頂だったロベルト・ハーベック経済・気候保護相(緑の党)の人気が、真っ逆さまに墜落している。長らく政治家の人気ランキングでは1位だったのに、5月初めには13位。
5月17日、ようやく自分の右腕だったパトリック・グライヒェン事務次官(51歳)を更迭したが、これもいささか遅すぎた。グライヒェン氏というのは、今回、経済・気候保護省を襲っているスキャンダルの“主役”である。
日本ではまだあまり報道されていないが、ここ数週間、このグライヒェン氏の目に余る縁故採用の実態が大問題となっている。
たとえば、経済・気候保護省の管轄下にある連邦エネルギー庁の長官に彼が推薦したのが、自分の結婚の時の証人であるミヒャエル・シェーファー氏。それも、この重要な人事は公募ではなく、最終的に候補者はシェーファー氏一人だけで、しかもグライヒェン氏が選考に加わったという。
結婚の証人というのは、普通、無二の親友、あるいは兄弟姉妹といった一番身近で信頼している人間であるから、誰が見ても、これは真っ当な人事ではなかった。
しかし、これがまもなくさらに大スキャンダルに発展していったのは、他にもおかしな縁故人事がたくさん報道され始めたからだ。
やはり経済・気候保護省の事務次官の一人であるミヒァエル・ケルナー氏は、グライヒェン氏の妹の夫で、しかも、妹、ヴェレーナ・グライヒェン氏自身は、BUNDという環境NGOの最高幹部の一人だった。
BUNDはベルリンに本部を持つ会員58万人の巨大な環境NGOで、2014年から19年の6年間に公金から受けた補助金の総額は2100万ユーロ(現在のレートで約29.4億円)に上る。
また、グライヒェン氏の兄弟のヤコブ・グライヒェン氏は、エコ研究所の幹部。こちらはフライブルクに本部を持つ強力な環境シンクタンクで、環境省に政策提言をしている。
メディアは全て知っていたはずなのに
これらの事実が問題視され、5月10日には、ハーベック氏とグライヒェン氏が国会議員による質疑に応じた。
しかし、これらはまだグレーゾーンではあっても、違法ではないということで、ハーベック氏は「過ちは修正すれば良い」として、あくまでもグライヒェン氏を庇い続けた。
ところが、とうとう庇いきれなくなったのは、昨年の11月、グライヒェン氏が、助成金を与えるに妥当であると推奨したプロジェクトのうちの一つが、彼の妹が総裁を務めるBUNDのベルリン支部が提出したものだったからだ。
申請額は60万ユーロ(約8400万円)。本来ならば、身内の関わっているこのプロジェクトの承認に、グライヒェンは関わってはならず、これが省の汚職を防ぐための規律に引っかかったらしい。
そこで、冒頭に記したように、17日、保ちきれなくなったハーベック氏が急遽、記者会見を開き、グライヒェン氏の早期退職を発表した(51歳の氏は、今後、毎月15000ユーロ=約210万円という潤沢な年金、プラス、自分の意思の退職でなかった場合の給付金を3年間受けられるそうだ)。
メディアはというと、今、初めて知ったような報道の仕方だが、そんなはずはない。
たとえば21年4月末、ディ・ヴェルト紙は、「過小化されるグリーン・ロビーの権力」として、環境NGO、シンクタンク、政治家、官僚の密接なネットワークや、NGOに対する資金の出所について詳しい論文を載せていたし、今年になってからは、独立系のメディアであるTichys Einblickが、さらに詳しく報道していた。
そもそも、21年9月上梓の「SDGsの不都合な真実」(12人の共著・宝島社)では、私もそれをテーマとして取り上げたぐらいだから、主要メディアは、環境という名の下で何が、いつから進行していたのかは、すべて知っていたはずだ。
それなのに、ニュースで記者たちが、「ハーベック氏はもっと以前に知っていたのではないか」などとしたり顔で言っているのを見ると、私としては、「あなたたちこそ知っていたでしょうに」と言いたくなる。
「アゴラ・エネルギー転換」の闇
ドイツの主要メディアには緑の党のシンパが非常に多いと言われる。だから、これまでほとんどのメディアは、緑の党、および社民党が主導する過激で、時には無意味な環境政策も、抜本的に検証するような記事は書かなかった。
そんな彼らが今、一番、気にしているのは、このスキャンダルのとばっちりが、環境シンクタンク「アゴラ・エネルギー転換」に行くかどうかということだろう。
現在のNGOは、巨悪に立ち向かう弱小な組織などではなく、世界的ネットワークを持ち、政治の中枢に浸透し、巨大な権力と潤沢な資金で政治を動かしている強大な組織だ。そして、ドイツでその中枢にいるのが、“アゴラ・エネルギー転換”である。
“アゴラ・エネルギー転換”は、2012年の創立の時から、当時の経済・エネルギー省と密接な関係を持っており、人材の行き来も盛んだった。シンクタンクというよりも、まさに巨大なロビー組織だ。
問題のグライヒェン氏も、経済・気候保護省に抜擢される前は、“アゴラ・エネルギー転換”の局長だった。
今では、アゴラは、“アゴラ・交通転換”、“アゴラ・農業”、“アゴラ・インダストリー”、“アゴラ・デジタル・トランスフォーメーション”と、全ての部門でCO2削減を掲げつつ、政策を牛耳っている。
35年からのガソリン車・ディーゼル車の販売禁止も、今後、農地が縮小されることも、もちろん、風車が倍増されることも、こういうロビー組織の活動の賜物だ。
掌を返すメディアの露骨な印象操作
それにしてもすごいのは、今や、経済・気候保護省、外務省、環境省、農林省などが全て緑の党の手に落ち、その政策を進言している組織が、やはり緑の党の支配するロビー団体となってしまっているという事実だ。
しかも、政府はそれらに助成金を出しており、いわば、持ちつ持たれつの関係でもある。
つまり、ハーベック氏がアゴラ・エネルギー転換を潰したくないのは当然のことで、そのためには、メディアの力が必要になってくるのだろうが、ただ、私の目には、メディアはハーベック氏をどう料理するか、まだ思案中といった感じに見える。
国民の間では、ハーベック自身も引責辞任をするべきだという声が結構高くなっており、メディアの判断でハーベック氏の梯子を外し、その代わりにアゴラ・エネルギー転換を助けるということも、あり得るだろう。
あるいは、この問題をグライヒェン問題として収束させ、ハーベックとアゴラ・エネルギー転換の両方を助けるということも考えられる。しかし、メディアが、これまでの環境政策を根本的に見直すことだけは、おそらくないと思う。
興味深いのは、今、これまでどのメディアでも常に好感度満点だったハーベック氏の写真が、突然、悪党ヅラの写真ばかりになっていること。まさに印象操作で、これにはメディアの質の低下を感じる。あたかもメディアが政治家に、自分たちの権力を誇示しているかのようだ。
ヒートポンプ式暖房を巡る謎の法案
なお、人気絶頂だったハーベック氏が急に落ち目になっている背景には、実は、もう一つ、大きな理由がある。ハーベック氏が夏までに強引に通そうとしている法案(建造物エネルギー法)、通称「暖房法案」のせいだ。
これは、来年2024年よりガスと灯油の暖房器具の販売を禁止し、徐々に電気のヒートポンプ式の暖房に切り替えることを国民に強制する法律で、従わない場合は年間5000ユーロ(約70万円)の罰金という項目まで入っているというので、ドイツ国民は驚愕した。
ヒートポンプは日本のエアコンに使われている技術で、最近は給湯器や床暖房にも普及している。ただ、ドイツの家庭の暖房設備は家全体を暖める大掛かりなもののため、これをヒートポンプでやろうとすると、床暖房となるらしい。
ヒートポンプはまだ、ドイツでは普及しておらず、そうでなくても高価な上、床暖房となると当然、床を剥がすため、工事費が膨大だ。ようやく家のローンを払い終えて年金生活に入った人たちが、高価な暖房設備を購入し、大規模リフォームをするなど非現実的だし、年金生活者でなくても負担が大きすぎて、最悪の場合、家を手放さなければならなくなるかもしれない。
また、家主にとってもすごい出費で、それが家賃に反映されれば借家人も困窮する。
将来、暖房がだんだん電化されていくことはわかる。しかし、なぜ、今、国民に多大な負担をかけてまで、これほど急激にヒートポンプに取り替えなければならないのかの説明が全くない。全て惑星を救うためと言われても、国民の財力には限度がある。
しかも、まだ、電気を作るのに石炭やガスを燃やしているのだから、CO2の削減にも役立たない。それどころか、これは、政府による自由市場への介入であり、ひいては国民の自由の制限である。そして興味深いことに、この法案の生みの親もやはりグライヒェン氏だ。
都合が悪いと犠牲者ぶる悪い癖
現在、国民の信頼を急激に失いつつあるハーベック氏だが、グライヒェン氏を更迭した後、「ネット上で極右勢力がこの件に関してフェイクニュースを拡散しているのは許し難い」と言っていた。都合が悪いと犠牲者ぶるのは緑の党の悪い癖だ。
彼を批判する者は「極右」にされてしまうらしいが、もちろん今、野党CDUも緑の党の批判には余念がない。
さて、今後、本当に追求されるべきは、環境政策に託けた大掛かりなネットワークの実態だ。
それにしても、多くのNGOやシンクタンクが、すでに緑の党系の人材に占められてしまっていること、そして、莫大な資金援助が、ほとんどアメリカから流れ込んでいることなどは、もっと追求して然るべきだ。
また、今、行われている環境政策について、真に中立な立場から、もう一度検証し直してほしい。
なお、報道に関しては、主要メディアはあまりあてにならないが、是非ともその他の独立系のメディアに期待したい。