Shinzo-Returns

安倍総理の志は死なない!!

尖閣領有を目論む中国の静かな侵略が始まった。ブイひとつ撤去できない日本が2024年に覚悟すべき事

南シナ海では、もう始まっているが
「南シナ海はすでに中国に占拠されてしまった。しかし、東シナ海はなんとか持ちこたえている」――。これは今から5年余り前の2018年4月、取材で訪れた筆者に対し、熊本市に司令部を置く陸上自衛隊第8師団長だった吉田圭秀陸将(現・統合幕僚長)が発した言葉だ。彼が「なんとか」に込めた危機感を、政治は、そして私たちは、どれほど認識し、共有できているのだろうか。


「占拠されてしまった」南シナ海であっても、フィリピンは今年(2023年)9月、中国海警局の船からレーザー照射や危険な接近行為を繰り返されながらも、中国と領有権を争うスカボロー礁の近海に中国が設置したブイを「フィリピン漁船に向けた障害物」として撤去した。フィリピン政府は「障害物は国際法違反。航行に危険を及ぼし、フィリピンの主権を侵害した」と中国を厳しく非難した。
主権を守る、領土、領海を守るということは、中国の脅威と正面から向き合うことにほかならない。残念ながら2023年も、日本固有の領土である沖縄・尖閣諸島を巡って、政治からその覚悟を見出すことはできなかった。


政府が事実隠しに加担?お忘れでしょうが尖閣のブイ
実はフィリピンが障害物を撤去する2カ月以上も前の7月11日、尖閣諸島・魚釣島の北西約80キロの海域に、中国が直径10メートルにも及ぶ海洋調査用の大型ブイを設置したことが、海上保安庁の巡視船によって確認されていた。見つかった場所は、日中中間線から日本側に約500メートル入った日本の排他的経済水域(EEZ)内で、ブイには「中国海洋観測浮標」などの表記があり、収集した潮流や波高などのデータを、ブイに付属するアンテナから人工衛星を通じて中国海警総隊などに送信しているとみられる。


ところが、これほど重大な事案にもかかわらず、政府がこの事実を公表したのは、2カ月余りが経過した9月19日で、読売新聞が前日の朝刊で「尖閣EEZに中国ブイ」とのスクープを報じたからだった。


当時の松野博一官房長官は記者会見で「我が国のEEZに同意なく構築物を設置することは、国連海洋法条約の関連規定に反する」と述べ、中国に撤去を求めていることを明らかにしたが、政府が中国に配慮し、重大事案を隠していたと批判されても仕方がないだろう。その後、何とか開催にこぎつけた11月の日中首脳会談でも、岸田文雄首相は習近平国家主席に撤去を申し入れただけだった。


この間、海保は船舶が衝突しないように「航行警報」を出し、今なお監視を続けているが、政府は中国に抗議し、撤去を求めるだけといった姿勢を改めなければならない。なぜなら中国が無断で尖閣のEEZ内にブイを設置したのは、これが初めてではないからだ。


「撤去する法が無い」という言い逃れ
尖閣のEEZ内という今回とほぼ同じ海域に、中国は2018年10月、「国家海洋局」と書かれた直径10メートルの大型ブイを設置している。この時も政府は撤去を求め、中国に抗議しただけ。ブイは海底に重りを下げて固定しているが、その後の波浪等で漂流し、海保の巡視船がブイを捕獲、機器類を調査した後で中国海警船に引き渡している。


結局、構造等からこの時のブイが今回も使われたとみられるが、抗議するだけでは同じことが繰り返されるという証左だろう。だが政府は、ブイなどの構造物の撤去について「国連海洋法条約には規定がない」として日本が撤去することには慎重だ。


規定がないのは、他国のEEZ内に無断で構造物を設置するような非常識な国などないという前提だからだ。しかし、中国が尖閣周辺で非常識な行為を繰り返し、南シナ海でも同様である以上、政府はフィリピンなど同志国と連携し、条約の前提が崩れているとして、いまこそ条約に違法構造物の撤去に関する規定を盛り込むよう、条約加盟国に対し積極的に働きかける好機ではないのか。


それもせず「規定がないから撤去できない」というのは、何もしないことを正当化する言い逃れに過ぎない。
LGBT法案の1/10のやる気があれば法律を制定することくらい簡単だと思うが…


静かな実効支配のスタート
なぜ、ここまで「違法ブイ」にこだわるのかと言えば、2023年に入って尖閣諸島を巡る中国の行動に変化が表れているからだ。それは“静かな侵略”と言っていい。


今年2月から中国海警局は「中国の領海に不法侵入した日本漁船を退去させた」と公表するようになり、これまでに尖閣周辺で操業する日本漁船を追跡、接近した事案は17件に上っている。さらに追跡、接近に乗じて海警船が尖閣の領海内に居座ることも増え、3月30日から4月2日には、漁船の追跡を名目とする海警船の領海侵入時間が、過去最長となる80時間36分にも及んでいる。連続して領海内に居座る時間も、64時間から72時間、そして80時間へとじわじわと伸ばしているようだ。


さらに3月以降、尖閣周辺海域を航行する海警船は、自らの位置や速度などの航行状況を周囲に知らせる船舶自動識別装置(AIS)を作動させている。通常、交通量の多い海域を除き、海保を含めた治安機関の船舶は、洋上での違法行為を取り締まるため、AISを作動させず、自らの位置を秘匿することが多い。


海保関係者は「AISの航跡はネット上でも確認できる。中国は航跡を公表し続けることで、尖閣周辺における活動実績、つまり実効支配を主張する狙いがある」と指摘する。


こうした活動に伴い、今年に入って海警船が尖閣諸島の領海と接続水域内を航行する日数は、12月14日時点で過去最多の年間337日に達し、年末には350日を超す恐れがある。対する海上保安庁は、24時間365日体制で警戒警備を続けているが、数字の上では、ほぼ横並びとなってしまった。背景にあるのは海警船の増勢と大型化だ。


海保の調査によると、遠洋航行が可能な1000トン級(満載排水量)以上の大型海警船は、この10年間で4倍の157隻にまで膨れ上がり、71隻を保有する海保の倍以上の規模となってしまった。その中には海軍艦艇を転用したケースもあり、76ミリ機関砲を搭載する重武装した海警船も尖閣の領海侵入に加わっている。


中国将軍「戦争を望まないが恐れない」
米国で開かれた11月の日中首脳会談で、岸田首相から違法ブイの撤去を求められた習主席だが、帰国直後の同月29日、東シナ海を管轄する中国海警局の司令部を視察し、「領土主権と海洋権益を断固として守らなければならない」と訓示、法執行能力の向上を指示したと中国共産党機関紙・人民日報は伝えている。


日本の抗議など無視し、今後は尖閣周辺海域における活動のさらなる活発化が懸念される深刻な事態だ。


歩調を合わせて中国軍のシンクタンク軍事科学院の何雷・元副院長(中将)が共同通信のインタビューに応じ、尖閣諸島を巡って「戦争を望まないが恐れない」と明言、さらに日本の対応を批判し、「中国は領土と主権、海洋権益を断固守る。中国の強大な力を日本は見くびってはならない」と警告した。日本の通信社のインタビューであり、明確な日本へのメッセージにほかならない。軍の幹部が習主席の訓示を繰り返し、尖閣奪取の意思を鮮明にしたと言っていい。


24年は反転攻勢の時と心得よ
中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突を繰り返し、また大量の漁船を尖閣周辺海域に集結させて威圧するといった、かつての中国の強引かつ横暴な姿勢は鳴りを潜めている。その結果、尖閣沖における海警船の常駐化が進む一方で、領有権を巡る日中のせめぎ合いが続いているという現実が報じられる機会も減ってきてしまった。


だが朗報もある。それはロシアのウクライナ侵略以降、日本人が独裁国家・中国の軍事強国化への懸念を強めているという事実だ。それは内閣府が12月に公表した「尖閣諸島に関する世論調査」(18歳以上の有権者3000人が対象)で、「尖閣諸島に関心がある」との回答が、調査を開始した2013(平成25)年以降では最も多い78.4%に達したことでも明らかだ。


17年の調査から「関心がある」が60%台と低迷していただけに、国民の関心の高まりは顕著で、しかも「テレビや新聞による情報の提供」を求める回答が77.2%、「日本の領土であることを示す資料の展示やイベントの開催」を求める回答も47.5%に上っている。


メディアはこの機運を活かし、2024年は日本が国内外に向けて尖閣諸島の領有根拠を明示する反転攻勢スタートの年としなければならない。


政治を動かさなければ手遅れになる
具体的には、22年12月に改定した国家安全保障戦略で、「領土・主権問題への理解を広げる取り組みを強化する」と明記したことに基づき、在京の各国大使館の大使や駐在武官らを招き、尖閣警備にあたる海上保安庁の活動を視察する機会を設けたり、22年から始まった尖閣周辺の海洋調査に同行させたりすることができるはずだ。


また、SNSを含むメディアを通じて意見を述べることの多い海外の有識者に対し、尖閣諸島が日本固有の領土であることを示す歴史的経緯など正確な情報を提供し、国内に居住する中国以外の外国人には、同諸島についてのセミナーを開くことも可能だ。メディアはそうした具体的な取り組みを喚起し、中国に抗議を繰り返すだけの政府の目を覚まさせなければならない。


かつて、年末恒例のNHK「紅白歌合戦」では、南極・昭和基地にいる越冬隊員から国民へのメッセージが届けられた。今なら年末年始もなく尖閣警備にあたっている海保の巡視船から現場の過酷な状況を伝えることもできるだろう。そうした様々な情報と情報発信によって、国民は尖閣諸島の現実を知り、守り抜く意味を理解するはずだ。


と同時に、国民の尖閣への関心がさらに高まることになれば、政治を動かすことができると確信する。「なんとか持ちこたえている」うちにやらなければならないことは山ほどある。