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「バス運転士不足で鉄道が重要に」有識者が指摘

北海道新幹線「並行在来線」廃止は再検討が必要
櫛田 泉 : 経済ジャーナリスト
2023年12月19日
バスは鉄道の代替交通として成り立たない
2022年3月に廃止の方針が決定された北海道新幹線「並行在来線」の長万部―小樽間について、深刻化するバスドライバー不足を背景としてバス転換協議が中断に追い込まれた。バスドライバー不足は地方だけの問題ではなく都市部でも深刻化しており、2023年9月になり大阪府富田林市などの4市町村で路線バスを運行する金剛自動車は、突如として路線バス全路線の12月20日での廃止を発表。地域社会に混乱を与えている。
すでにバスは鉄道の代替交通として成り立たない時代に突入していると言っても過言ではない状況だ。最近では石川県金沢市などを走る北陸鉄道石川線が赤字のため存廃協議を行っていたが、「バス転換が難しい」として公費投入による存続が決定した。これまでのケースでは鉄道を廃止・バス転換したところで、鉄道旅客の大半はバスではなく自家用車に流れ、鉄道転換バスの乗客は鉄道時代の半分以下に落ち込み道路事情を悪化させたところも多い。こうした時代において、赤字の地方鉄道は今後、どのように再評価されるべきなのか、関西大学の宇都宮浄人教授に話を聞いた。
――地方鉄道の価値はどのように評価されるべきでしょうか。
昨年の国土交通省の検討会で書かれているとおり、まず「鉄道は、大量輸送、速達性及び定時性に優れていること」は確かです。
また、環境効率のよい交通機関であることから、欧州を中心に、昨今の脱炭素対策に向けて地方圏においても鉄道の評価が高まっています。
――環境効率とは具体的にどういったことなのでしょうか。
旅客の視点からは、自家用車やバスと比較して圧倒的に少ないエネルギーと労力で、輸送ができるということになります。例えば、150人の乗客を運ぼうとした場合、自家用車では150台、バスでは3台が必要になりますが、鉄道の場合は1両での輸送が可能です。
輸送密度220人以上なら鉄道のほうが環境効率がよい
――先の大量輸送という特性からいうと、地方鉄道線においては燃費の悪いディーゼル車をガラガラで走らせるよりもバスにしたほうが環境にいいという指摘があります。
交通安全環境研究所の1つの試算では、対地方近郊バスで、鉄道が1両当たり1日キロ当たり22人運べば、バスよりもエネルギー効率が高いとあります。つまり、1両で1日10本運行する路線であれば、輸送密度が220人を超えれば、バスよりも鉄道のほうがエネルギー効率がよいという試算ができます。
――とはいえ、輸送密度が1000人を下回るようでは、それ以外のコストも考え、国はバス転換も含めた存廃を考えるという方針のようですが。
まず、国の検討会は、別に1000人未満であるから、鉄道の特性が発揮できないとは言っていません。昨年の報告書では、ただし書きとして、「鉄道が各地域で果たしている意義・役割はさまざまであり、個々の線区を評価するに当たっては、あくまでも利用者や地域戦略の視点に立って、あるべき公共交通はどのようなものか、という視点から評価すべきである」と書かれています。また、現時点で輸送密度が1000人を下回る路線は、すでに列車本数は少なく、サービス水準がかなり低下しており、事実上、「使いたくても使えない」路線となっているところが多いことも事実です。
――日本の鉄道では「ご利用の状況に基づいての減便」という話しか聞かれませんが、地方鉄道の乗客増を図るためには「潜在需要の掘り起こし」が重要ということですね。
潜在需要の掘り起こしについてはオーストリアで提示されている考え方が参考になります。オーストリアは、日本の北海道とほぼ同じ面積に約860万人が暮らし、北海道の人口よりは多いとはいえ、人口密度は島根県並みの国です。そこで提示されているのは、輸送密度が、1500人であれば「極めて高い」、500人でも「中程度」と評価されており、2000人をローカル鉄道の見直し基準とした日本のJRグループとは大きく考え方が異なっています。
ただし、オーストリアの鉄道も輸送密度500~750人の路線に対しては、さらなる潜在需要の獲得を促しており、500人を下回る路線については、「不定期の利用、観光利用を確認する」基準というコメントがあります。鉄道の価値を評価する際に、潜在需要をどう獲得するのかという視点で見ている点が日本とは大きく異なります。
鉄道を「地域を変えるツール」に
――地方都市圏であればそれなりに沿線人口がありますが、鉄道のサービスを改善することで、利用者は増えるのでしょうか。自家用車から鉄道に切り替える人は、住民10人に1人もいないという話を聞きます。
日本の地方圏の場合、パーソントリップ調査で交通手段分担率の調査を行うと、公共交通は鉄道とバスを合わせても5%未満のところが多く、一方で、自家用車での移動は7割を超えます。もし、公共交通が5%、自家用車70%という状況から、自家用車の利用者10人のうち1人が自家用車から公共交通に転換すれば、7%の人が公共交通の利用者になります。その結果、公共交通の利用者は12%、2.4倍となるのです。もっと転換する人が少なくても、2倍程度になり、非常に大きな効果がある。実際に2倍になったら、乗り切れないケースも出てくるかもしれません。ただし、それで収支が黒字になるとはいえないでしょう。
――鉄道事業の単体の採算ではなく、自家用車に過度に依存した地域を変えるツールとしているわけですね。
日本は商業輸送を基本としていますが、近年では、鉄道を単純な事業の収支ではなく、鉄道があることによってもたらされる社会への効果を総合的に評価する動きが広まりつつあります。滋賀県の近江鉄道のケースでは、鉄道を廃止した場合に必要となる多様な行政部門の施策の費用を算出することで、近江鉄道を存続させるほうがバス転換よりも、全体でみた支出が少ないという判断になりました。公共交通が影響を与える施策は「商業」や「観光」だけではなく、「医療」や「福祉」など多岐にわたり、このような横断的な効果は「クロスセクター効果」と呼ばれています。
――北陸鉄道石川線のケースではクロスセクター効果分析と同時に費用便益分析(B/C)も行われました。
はい。鉄道の効果はクロスセクターでみた財政支出面だけではなく、鉄道がもたらす社会的便益を考えなければいけません。鉄道に投資する場合(with)と鉄道に投資をしない場合(without)の相対的な効果をみるために、費用便益分析が行われます。その際の評価項目は、主なものとして、鉄道が走る場合の時間短縮効果、既存の鉄道を廃止する場合はバスに転換した場合の所要時間の増加は便益の損失となります。
そのほか、二酸化炭素排出量などの環境面での影響、交通事故の発生にかかる影響なども算出されます。費用便益分析では、社会的便益(B:Benefit)と社会的に費用(C:Cost)を比較し、その比率B/Cが1.0を上回るか否かに注目する人がいますが、費用便益分析は、あくまで相対的な費用対効果を測る手法であり、B/Cは1つの参照基準ですが、絶対的なものではありません。国土交通省のマニュアルでは、鉄道プロジェクトについて以下のように明記されています。
少しでも1.0 を下回った場合は社会的に必要のない事業であるという誤った評価をしないよう、次のような点に注意が必要である。まず、本来、鉄道プロジェクトの実施によって得られる効果は、所要時間の短縮、交通費用の減少、移動制約者の利便性の向上、震災時の代替輸送、時間信頼性の確保、文化・観光への効果等、多岐にわたるが、これらのうち便益に計上する効果は、学術的に計測手法が確立し、かつ一定の精度で計測できる効果に限定されている点である。
すでに決まったことでも再検討は必要だ
――北海道新幹線の並行在来線問題では、輸送密度が2000人を超える余市―小樽間も含めて廃止の方針が結論付けられましたが、この区間の鉄道を廃止してしまえば道路事情は悪化しかねませんね。
北海道新幹線の並行在来線を取り巻く状況は廃止の方針を決めた2022年3月から大きく状況が変化しています。バスドライバー不足が深刻化し、鉄道の代替輸送をバスで容易に担える時代ではなくなったこと、北海道新幹線の札幌延伸開業が大幅に遅れる見込みとなったこと、地域公共交通活性化再生法の改正により社会資本整備総合交付金に鉄道の再構築事業が加わったことが挙げられます。
「事情変更の原則」という言葉があります。契約の前提となった事情がその後、大きく変化した場合、契約の解除や改定を定めるという法律用語ですが、これだけ社会環境が大きく変化している中では、「決まったこと」であっても、改めて再検討するということは必要です。